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異 空 間  作者: 本城沙衣
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* 呪 縛 * 5


“いざという時……”


私が1階の公衆電話で彼へ電話をしていた時にも使わなかった鈴木先輩の持っている“力”だった。


そして、向かい側の部屋で森田先輩の異変の時にも……。


その時の私たちを取り巻いていた状況が、切羽詰まっていたこと。


鈴木先輩の言葉で、改めて察し、私も意を決した。


気持ちが悪いとか、そんなことを言っている場合ではない。


これから、ふたりの先輩が1階へ降りて行く決心をしている。


この部屋は、ある意味、私が守っていなければ、先輩たちが帰って来る場所もなくなる。


そのくらいの状況であったことは間違いない。



「電気は、全部つけていくからね。あと、テレビはつくみたいだから、音楽の番組にしとくから」



森田先輩の優しい配慮が本当に嬉しく感じられた。



「私は大丈夫ですから」



まだ、完全に吐き気が治まったわけではなかったけれど、何でもない振りをした。


振り……といえば“振り”だけれど、故意にという訳ではなく、意識することなく、自然とそうなっていたのだった。



本当は、物凄く怖かった。


心細かった。


急に現れたガスストーブからのガス臭もそうだったけれど、あの“支配”が。


「ソコニイロ」という声がまた、脳裏をかすめた。


「ソコニイロ」と言われたのにもかかわらわず、部屋から出る先輩たち。


「ソコニイロ」という言葉通り、“そこにいる”私。


どうなってしまうのか……やはり、得体の知れない恐怖からは逃れることは出来なかった。



「行って来るね」



そう言って、先輩たちは部屋を出て行った。




一人になると、その部屋の広さが更に広く感じる。


そういえば、それまで、その部屋に一人っきりというのはなかった。


ガス漏れらしいということで、布団は部屋の端の方へ寄せてられていたので、広々とした畳一面が広がっているという感じだった。


一人になった部屋は、電気もついて明るく、テレビからは深夜番組かなにかの軽快なロック調の音楽が流れている。


一見、普通の光景。


ただ、やはり重くのしかかる“何か”を取り払うにはあまりに難しく、鈴木先輩が私に送ってくれた“力”を信じて、先輩たちの帰りを待つしかない私だった。



不安からなのか、また気分が悪くなってきた。


しかし、ここで倒れる訳にはいかない!


横になったら、また眠りに落ちそうだった。


また寝てしまったら……それまでの私のことを考えると、やはり絶対に避けたいこと。


頑張って、布団の上へ座り、テレビに映る外国のミュージシャンの姿を、ただボ~っと眺めていた。



何も考えない!


考えちゃいけない!



そう思えば思うほど、考えてしまうのが、人間の習性……考えるどころか、昼間からのことが、一気に私を襲った。


そして、“あの”声がエンドレスに私を襲った。


身震えするほどの恐怖との闘い。



目を閉じたらいけない!


閉じたら……!



私は、まるで誰かと争っているかのように、つけられたテレビの画面だけを見ていた。


誰か……自分?……この部屋?……この旅館?


その時、私が争っている“何か”は、とてつもなく大きな“何か”であることは間違いなかった。


そう……間違いなく……。




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