* 呪 縛 * 1
その部屋からどのようにして出たのか、実は記憶になく、“気付けば”と言った感じで、私たちは、元居た部屋へ戻っていた。
着ていた浴衣も乱れていた。
私は、すこしだけ自分を冷静にと持って行き、部屋の匂い確かめた。
「ガス……やっぱり匂いますよね……」
「さっきよりは、薄くない?」
森田先輩も、黙っていながらも私と同じことを確かめていたようだった。
「そうですね……これなら、ちょっとは大丈夫でしょうか……」
「そうだね……」
もっとも、ガスの臭いがどうでも、それまでの経緯を考えると、その時の私たちには行き場がなかったことが事実。
完全に“閉じ込められた”。
それから、それぞれが寝ていた処へ布団を敷き直し、暫くは真ん中の鈴木先輩の布団の上に座って話をしていた。
これから、どうするのかということを……。
話し合っても、“これ”といった考えが出ない。
それぞれが、それぞれの、あれだけの奇妙体験をした後。
さすがの森田先輩もいつもの冷静さを失っていたようにも見えていた。
普通なら、フロントへ電話して相談すべきこと。
しかし、誰もがそのことを口にはしなかった。
したくても出来なかった……が正しい。
後先考えずに、すぐに“ここ”から出るか。
朝まで待つか。
結局は、この二者択一しかなかった。
「……出るっていっても……夜中だし……道だって……」
鈴木先輩のこの言葉で、この旅館へ来る時に、彷徨い続けたことが思い出された。
忘れていた訳ではなかったけれど、それ以上の“こと”が私たちの身に降り掛かり、その時もその渦中にいた私は、インターを降りた時から旅館のことまでのことは、遠い記憶のような感覚さえしていた。
「……だよね……」
「出るには1階も……」
その旅館では、自分に振り掛かった“こと”が一番多かったのが、1階であった。
不意に出た、その言葉だった。
「……1階、かなりヤバいもんね……」
ほぼ同じ体験をしている森田先輩がそう言った。
「やっぱり、かなり……ですよね」
私と同じ感覚でいてくれた森田先輩に少し安心したというか嬉しいというか、変な気持ちがあった。
こういう状況では、本当に感覚が変になる。
“同士”とか“同志”という感覚が生まれたような……。




