* 潜 在 * 8
その部屋自体には、森田先輩の言うように、霊気や怪しい念というのは感じられなかった。
それでも、“その部屋”というだけで、やはり、物凄いく大きな“何か”に支配されていることは間違いないと確信した私がいた。
勘と言えば勘だけれど、それは“感”で、それまでの私が体験してきた、複数の霊体験の中で培われたような“感”だった。
その時ほどの“大きな支配”というのは初めての体験だったが故、もはや、ただの霊現象だけでは収まらない“何か”があることは明確だった。
「出ましょう」と言ったのは、部屋からとかその旅館とか、具体的なことは考えてはいなく、咄嗟に出た言葉ではあったけれど、とにかく、その時、私たちがいた場所からは離れないといけないという感覚だった。
それは、うなされていた森田先輩が意識を取り戻した時、「この部屋も出ようか」と、まだ完全に意識がはっきりしていない状態の中で最初に言ったことで、やはり、森田先輩の“力”は本物と位置付けられたことでもあった。
「早い方がいいし!」
私の言葉を受けて、森田先輩も立ち上がった。
相変わらず、鈴木先輩は枕を抱えたまま布団の上に座り込んでいる。
これも無理ない。
私たちのような霊感ではなく、“寄せ付けない”という意味では強い力を持つ鈴木先輩のもとへ振り掛かったその時の数々の現象。
普段、霊体験に関しては否定までしているような鈴木先輩だけれど、実は、自分が持っている力から、その存在は深層心理では肯定しており、実体験という意味では経験がほぼないことから、否定していなければ、自分がいつも恐怖の中にいなければいけないと何処かで感じてのことだったということも、鈴木先輩の力の話を聞いた時、判っていたから。
この旅行で起きた、数々の現象から、鈴木先輩も肯定せざるを得ないことで、それが鈴木先輩を恐怖の中へ追いやっていたことも判った。
この部屋へ移動する時には、もたもたしていた私を嗾ける程の勢いがあった鈴木先輩を、今度は私が、同じようなことをしなければならなくなっていた。
鈴木先輩の様子から、無理をさせてしまうことは躊躇われたけれど、優先順位ということを自分に言いきかせ、鈴木先輩の背中を叩いた。
「先輩!しっかりしてください
ふと、森田先輩の視線を感じて見ると、安心したような顔で私を見ていてくれたことで、何か恩返しが出来たような気持ちになっていた。
「……香里ちゃん……」
涙目の鈴木先輩。
「とにかく、このお部屋は出ますから!」
「だって……あっちはガス……」
「いいから!こっちの方が危ないんです!」
と、言ったものの、どちらが危ないかなんて判らない私もいたのも事実。
「鈴木さん、お布団、私たちが持っていくから、枕だけ持って」
森田先輩が、穏やかな口調でフォローを入れてくれていた。




