* 潜 在 * 4
それから、森田先輩は大きく息を数回吐くと、顔を上げ、私たちの方を見た。
目を合わす……森田先輩に対して、それを拒否するようなことはしたくなかったけれど、一瞬、目をそらした私がいた。
その時、鈴木先輩と目が合ったので、鈴木先輩も同じだったと思う。
その時の心理というものは、自分自身でも容易に判断することが出来る心理。
そう……それまで、この旅館での“出来事”がある度に、ずっと頼ってきたはずの森田先輩を“恐怖”の対象として見ていたのだった。
「香里ちゃん」
森田先輩の声が聞えた。
いつもの森田先輩の声だったので、ホッとした私は、ようやく森田先輩の方を見ることが出来たのだった。
表情も、普段、見ている森田先輩。
「……やっぱり、何かやっちゃってたよね?私」
森田先輩のその言葉は意外といえば意外ではあったけれど、布団から起き上がって、大きく息を吐いていた姿も、普段、森田先輩によく見る姿だった。
“何か”のいる場所へ行ったり、遭遇した時などに……。
『やっぱり、何かある……』
私は、ひとり、そう思っていた。
「なんか……変なこと言ってたよ……」
隣にいた鈴木先輩がそう言葉を掛けた。
「ごめん……」
森田先輩が、かなり申し訳なさそうに言った。
「この部屋も……出ようか……」
続けて出た言葉。
「え?」
鈴木先輩と私は、あまりに突拍子もないというか、突然の森田先輩の言葉に、また顔を見合わせていた。
「もうちょっと、明るくなる?」
そう言って、天井を見上げた森田先輩。
「あ、は、はい!今、電気、つけます!」
私は、しばらくの間、腰が抜けていた感じになっていたことも忘れ、すぐ後ろにあった柱にある部屋の電気のスイッチを押した。
それまでの、ほんのりとした明るさの中に、人やもののシルエットが浮かび上がっていた光景から一転、部屋全体がくっきりと見えるようになった。
もちろん、森田先輩の姿もはっきりと確認することが出来た。
やはり、顔色も悪くないし、表情も変わっていない。
それだけは、心から安心したこと。
急な眩しさに目を細めていた鈴木先輩も、ようやくその明るさに慣れたようで、私たち3人は、鈴木先輩の寝ていた真ん中の布団の上に集まるように座った。
少しの間の沈黙の後、森田先輩が話し出した。
私たちが見ていた、“あの時”の森田先輩に起こっていたことを。




