* 潜 在 * 3
森田先輩は、そのまま目を開けたまま、身動きひとつせずに、じっと天井を見ている感じだった。
その間は、叫び声や呪文のような言葉は発してはいなかったけれど、その静けさの中で、目だけを開き、じっと天井を見つめている様子は、到底、普通の光景とは言い難い光景であったことは確かだった。
「香里ちゃん……どうしよ……」
「どうするって……」
「除霊とか必要な感じ……?」
「わかりませんけど……必要な感じもしますけど……除霊って森田先輩しか……」
「……だよね」
「っていうか!鈴木先輩、払う力っていうか、寄せ付けない力、あるんですよね!」
私は、温泉の一件の後、鈴木先輩の言っていたことを思い出して、少しだけホッとした気持ちがしていた。
「あ……うん……でも、香里ちゃんたちみたいにコントロールとか出来ないんだよね……ごめんね……こんな時に役に立てなくて」
「……先輩が謝ることじゃ……」
今、思えば、“寄せ付けない”はずの鈴木先輩がいるのにもかかわらず、このような状況に陥っている私たちがいるということは、既に、鈴木先輩の“力”を超えた何かがあるということ。
何か可能性があるものなら、何にでもすがりたい……正にそのような自分がいたことは否めない。
普段であれば容易に判断できたことで、鈴木先輩に言うべきでないことも判断出来ていたはずであるのに、それすら出来ない私がいたことも事実であった。
「そもそも、ここ、予約したの、私だし……旅行行こうって言ったのも……」
そう言うと、鈴木先輩の目に涙が浮かんでいた。
「誰のせいじゃありませんから!」
「でも……」
「私が変なこと言っちゃったから……」
私たちが、そのような話をしていると、「ん……」という声が森田先輩が寝ている方から聞こえた。
すかさず、そちらの方を見ると、布団から起き上がろうとしている森田先輩が目に入った。
すぐにでも傍へ行きたかった私たちだったには違いなかったけれど、それまでのことがあったためか、立ち上がることも動くことも心の何処かで拒否してるかのように、私たちが座り込んでいた鈴木先輩の布団から動くことが出来ずにいたのだった。
気付けば、鈴木先輩と私は、座ったまま抱き合うかたちになっていた。
目は……森田先輩から離せずにいた。
それから、数分後。
おもむろに布団から起き上がった森田先輩。
相変わらず、私たちは鈴木先輩の布団の上に座ったままで、森田先輩のその様子を見ているだけしか出来ずにいた。
布団を自分の足元まで下げ、完全に布団から起き上がると、森田先輩は「ふぅ~!」っと大きく息を吐いた。
私たちは、まだその様子を黙ったままで見ていた。
静かすぎる……。
当たり前といえば当たり前の時間。
それでも、少なからず、私には静かすぎるその時間が、妙に不気味に思えていた。
それまでは、“恐怖”と呼べる時間や空間には、何かしらの“音”があったから。
もう、二度と聞きたくない音ではあったけれど。




