* 幻 影 其の二 * 7
「……だよね……」
いったんもぐっていた布団から出て、既に私達の方へ来ていた森田先輩が一言、そう言った。
「え……な、なんですか?」
私は、ふたりの先輩が判っているであろうことを、ひとり理解することが出来ないでいた。
「このお部屋へ来たとき……私が最初に入ったじゃない?」
そう言った鈴木先輩の言葉で、更に理解出来なくなっていた私。
そのことは、当然のように判っていたことだから。
私は、何も言葉を返すことも出来ずに、ただ鈴木先輩の次の言葉を待っていた。
期待……恐怖……!?
どちらとも言えない感情で。
「……その時さ……」
私は、鈴木先輩のその言葉は、「何かを感じた」とか「何かを見た」という言葉が続くものとだけ思っていた。
「何にもなかったんだよね」
「え?」
あまりに見事に、私の予想とは違う言葉。
「まぁね」
鈴木先輩のその言葉に、平然とした表情でそう返した森田先輩。
「な、なんですか?」
「香里ちゃん、気付かない?」
またもや、森田先輩の平然とした物言い。
「ここさ、さっき……といっても、もう大分、前だけど、お食事してたお部屋でしょ?」
「はい……」
「やけに綺麗に片付いていると思わない?」
「それは、仲居……」
私はそう言い掛けた瞬間、ふたりの先輩が言いたかったことが、ようやく理解することが出来た。
「あ……」
「うん……香里ちゃんたちが1階へ降りて行った後も、廊下とかから何も音、しなかったんだよね」
「そういえば、誰とも会わなかったしね」
鈴木先輩は森田先輩の後に続いてそう言うと、私の方を見た。
私は、ただ黙って頷くことしか出来なかった。
「あれだけの豪華なお料理があって、用意された気配もしなければ、片づけた様子もないなんて……ね」
相変わらず、冷静な感じで、いつもの森田先輩の口調だった。
そして、また続けて鈴木先輩。
「私が最初にお部屋に入ったって言ったでしょ?」
「あ、はい」
「その時さ、ほんと、もうずっと空き部屋だった……みたいな感覚だったんだよね」
「ずっと……?」
「だって、私達もお食事したし、けっこう長い時間、このお部屋にいた訳だし。それに、もし仲居さんとかが片づけてくれたとして……そしたら、匂いとか、後は、何かしら、人の……みたいなもの、感じてもいいじゃない?普通」
「まぁ……」
「それが、ほんと、何にも感じなかったのよ。上手くは言えないんだけど……さ」
森田先輩はというと、鈴木先輩と私との話を聞きながらその部屋全体も見回していた。
「……今は、何か、感じます?」
私はその様子が妙に気になり、そう訊いていた。
「ん……感じない」
「感じないって、霊……とか……も?」
「そういうのどころか、鈴木さんが言ったように、ほんと、何にもない。香里ちゃんも判ると思うけど、ほら……念とか気とか……そういうの」
「そういえば……」
私も、その部屋全体に意識を集中してみた。
変に澄み切っていた。
やはり不思議としか言いようがない。
恐怖とかそのような感覚を超えるような不思議さが、そこには存在していたのだった。




