* 幻 影 其の二 * 6
「彼氏さんさ~、香里ちゃんのこと、すっごくアイシテルからさ~」
私は、「来た来た!」と思い、少し笑ってしまっていた。
「ちょっとでも香里ちゃんに心配なことがあると、電話してきてくれるよね~」
「まぁ……」
「だったら、さっきも電話あってもおかしくないんじゃない?」
「ん……電波、通じないって言ったからじゃないですか?」
「いやいや!私は知ってるよ」
「何をです?」
「いつだったか、研修で出張に行った時さ、やっぱり電波通ない山の中で、香里ちゃん、そのことを事前に彼氏さんへ言っていったのにもかかわらず~……」
「あ、はいはい!あの時ですよね!」
私は、まだ、からかわれていると思っていた。
私が、「あの時」と言ったのは、鈴木先輩が言ったように、山奥の研修所へ泊りがけでの出張だった時に、彼へは「電波が通じないみたいだから」と言ってあったのにもかかわらず、麓へ降りた途端、勢いよく着信音が鳴り、なんと彼からの不在着信が何件も入っていたことがあった時のことだった。
もっとも、あの時は、彼が交通事故に遭い、私へ連絡したかったからというレッキとした理由があった訳で、先輩もそれは判っているはず。
なので、余計にからかわれていると思っている私もいた。
「ということで、いくら電波が通じないからとわかっていても、何かあると電話してくる彼氏様ということに」
「まぁ、否定はしませんけど」
「だったらさ、かかって来ないのって不思議じゃない?せめてメールとかさ」
「言われてみれば……そうかも……」
新しい部屋へは、携帯だけは持ってきていたので、一応、その携帯を見てみた。
彼からも、他の誰からも着信やメールはなかったけれど、電波はきちんと立っている。
「不思議と言えば不思議ですけど、いつもではないですし……」
そう言いながらも、改めてみた自分の携帯に不思議を感じなかったといえば嘘になる。
彼はともかく、友人からのメールも誰かしらから必ずと行ってよいほどある日常。
しかも、友人たちには今回の旅行のことは、親友にしか言っていなかった。
考えてみれば不思議だった。
「私もさ、誰からも電話もメールもないのよね」
ずっと布団へもぐっていた森田先輩が、身体を起こして、私達の会話へ入ってきた。
「香里ちゃんたちが、1階へ出て行った後、1回だけ、何処かのメルマガみたいのは受信したんだけど、その後はさっぱり」
「森田先輩もですか?」
「そうなんだよね」
森田先輩の彼氏さんはメールが多い人ということは知っていた。
「ふたりはさ、彼氏さん基準に出来るからいいけどさ!私は……う~ん……基準になるような携帯ではない!」
鈴木先輩のその言い方には笑えたけれど、それまでの“不思議現象”の数々を考えると、どうも腑に落ちない。
「それから……」
少し茶目っ気ある話し方をしていた鈴木先輩が、また真剣な顔つきになった。
「このお部屋もさ……」
「え?こっちも何かあるんですか?」
私は、咄嗟に口にしていた。
“何かある”ようだったら、“防御体質”の鈴木先輩より、“受身体質”森田先輩や私の方が感じるはずであるのに、何故か鈴木先輩の言葉にも敏感に反応してしまっていた。




