* 幻 影 其の二 * 4
それから何分……何時間?
たぶん、数分だった気もするけれど、かなり長い間、3人の沈黙が続いたように感じられていた。
「あ……」
鈴木先輩が少し小さな声を発した。
「呼び出し音とかしたの?」
森田先輩に向かって言った。
「それが、しなくて……ずっと何も音も聞こえてなくて……」
「……それで……あれ……?」
「うん、まぁ」
「え?」
私は、また気付いてしまった。
「なに!」
私が大きな声で言ったことに、ふたりの先輩は驚いてしまったようだった。
同時に発せられた同じ言葉。
「あ、あの……聞いたのって、全員ですよね」
「あ!そうだよ!」
「ということは……ずっと同じ言葉……」
そう言い掛けた私に、森田先輩が「もう、やだよ!」と耳をふさいだ。
「私が電話、掛けちゃったんだよ」
「それは、そうだけど……」
「ここ、ほんと、やばいよ」
普段、霊現象などには驚くほど冷静沈着ともいえる森田先輩の、そのような取り乱した姿は初めて見た。
「出ようか!ここ!」
鈴木先輩も、普段とはまるっきり違う森田先輩の様子に、慌てていたようだった。
私は変なところで、妙に敏感になることがある。
そして、その時もそうだった。
“感”が働いた。
「ちょっと待ってください」
「え?なに?」
まだ慌てている様子の鈴木先輩。
「あの声……“そこに居な”でしたよね?」
「うん」
「だったら、今、このお部屋から移動したら、マズイ気が……」
そう言ったものの、自分の“力”に、それほどの自信もない私だったので、森田先輩を見た。
「確かに……そうだわ……」
少し、冷静さを取り戻してくれたような森田先輩が、何かを“受ける”ような視線で辺りを見回しながら言った。
「でも、ガス!臭うよね!」
あの受話器からの声で、すっかり忘れていた、ガスのことを思い出した私でもあった。
「あ!そっか!それで電話かけたんだった」
「あのさ……前の部屋へ移動してもマズイ感じ?」
「前のお部屋?」
「夕飯食べたところ」
「ああ……向かい側の……」
私は、また森田先輩を見た。
ここまで強い“何か”に支配されている場所。
一番の便りは、やはり森田先輩だった。
「そこだったら……まだ、大丈夫だと思うよ」
「だったら早くここ出ないと、中毒になっちゃうよ!」
「あ、そうですよね!」
私は、森田先輩の「まだ」と言った言葉がひっかかってはいたものの、ガス漏れの危険がある部屋では、命すら落としかねないと観念にも似た気持ちになっていた。
私達は、今まで寝ていたそれぞれの布団を持って、向かい側の部屋へと移動するために、私達の宿泊している部屋のドアへ向かおうとした。
「……重たいんですけど……あっちのお部屋にないんでしょうか」
「なかったら困るから頑張って持ってくの!また、このお部屋へ戻る訳にいかないでしょ!」
いつも、職場で見ている鈴木先輩が、そこにいた。
「はい……」
広すぎるくらいの私達の部屋。
他には私物は持たずに重たい布団を引きずりながら、どうにかドアのところまで辿りついた。




