* 幻 影 其の二 * 2
私が指を差している方を鈴木先輩が見て、「あれ?」と。
「どうかしました?」
「あんなの、あったっけ?」
もう一度、森田先輩の布団の足元の方を見ると、そこには、オレンジ色のガス線が引かれた赤外線の小さなストーブがあった。
今は、あまり見ないようなストーブのカタチであった。
「なかった気が……」
「だよね」
「私、天井から子供の足音がしているのが気になって、けっこうよく、お部屋を見ていたんですけど……なかったです……ね」
鈴木先輩と私は、顔を見合わせ、何も言葉にすることが出来なかった。
なかったものが、“ある”?
その逆で、あったはずのものが失くなっているというのは、たまにあることで、「勘違い」とか「見間違い」と片づけることが出来る。
でも……。
「っていうか!本当にガス漏れとかだったら、危ないじゃん!」
「ですよね!」
私は、慌てて森田先輩を起こした。
それは、たぶん、鈴木先輩が私を起こしていた時と同じ姿だったと思う。
「……ん?……なに?」
やはり、森田先輩も、まだ“夢の中”といった感じで、私の呼びかけに目を覚ました。
「ちょっと、起きてください!」
「あ……うん……」
森田先輩は、寝起きそのものといった感じで、気だるそうに身体を起こして、布団の上に座った。
「どうしたの?」
「ガスの臭いがするんですよ!」
「ガス?」
つい先程までの鈴木先輩と私とのやり取りそのもの。
「先輩の足元……」
私は、鈴木先輩へそうしたように、赤外線のヒーターがある森田先輩の足元の方を指差した。
私の指差す方を見た森田先輩も、「あれ?」といった表情。
「……どうも、あそこら辺から……」
「あんなの、あったっけ?」
やはり、鈴木先輩と同じ言葉を発していた。
「なかったと思うんですけど……」
「だよね……」
寝起きということも手伝ってか、森田先輩は、その時の状況を俄かには理解していないようであった。
「そんなこと話してる場合じゃないよ!」
私の後ろあら、鈴木先輩の声がした。
「あ!そうですよ!臭い、しますよね!」
私は、取り敢えず、森田先輩に確かめた。
「……あ、本当だ!何で?」
私の時と同じように、鼻をクンクンさせていた森田先輩は、ようやく事態を把握したといったようでもあった。
「わからないけど、このまま、このお部屋にいたら危ないよ!」
「先輩、具合とか大丈夫ですか?」
何といっても、森田先輩の足元が一番、ガスの臭いが強かったので、一瞬、森田先輩の体調が気になった。
「うん、大丈夫。フロントに電話してみる」
「そうだね」
それから、森田先輩は、あの夕食の時と同じように、床の間のところにある電話の受話器を取った。




