* 幻 影 其の二 * 1
「……ん……ちゃん」
何処かで私を呼ぶような声がした。
上手くは説明することは出来ないけれど、その私を呼ぶような声は、夢の中で出来事であると感じていた。
“感じていた”というのは、私も夢の中の住人で、その夢の中で声を聞いているような感覚だった。
夢の中の住人である私は、「はい?」と返事をしている……感覚。
「香里ちゃん!」
今度は、身体を揺すられる感覚。
……にしては、やけにはっきりと誰かの手が私に触れている感触がある。
その声も、今度ははっきり「香里ちゃん」と聞こえた。
夢と現実の狭間にいたような……。
「ねぇ!起きて!」
かなり大きな声と身体を強く揺さぶられたのを感じた私は、「ハッ」として目を開けた。
目を開けて、最初に映ったのは鈴木先輩の顔だった。
ずっと“夢の中の出来事”と認識していたことが、現実であることを、その時はじめて理解した。
「あ~、よかった~。ずっと起こしてたのに、全然、起きないんだもん!」
“怖い”という気持ちから、たぶん眠りにはつけないであろうと思っていた私ではあったけれど、何時の間にか眠りに落ちていたようだった。
「……どうしたんですか?」
鈴木先輩のホッとしたような言い方と共に慌てているようにも思えるその言動に、そのことは理解することが出来ずにいた。
「何か、変な臭い、しない?」
“臭い”と聞いて、私は、あの温泉でのことが瞬間、頭をよぎっていた。
「やだ……」
なんだか、的を得ていない答え方。
「するよね!」
部屋は小さい電気だけは就けておいたので、真っ暗ではなかったので、鈴木先輩の顔や姿は見ることが出来ていた。
辺りを、きょろきょろと見回せしているような鈴木先輩。
「どんな臭いですか?」
「ガス……かな……!?」
「ガス?」
更に、理解が出来ない。
「ちょっと、こっちの方、来てみて」
そう言うと、鈴木先輩は、まだ布団のに座っている私の腕を掴み、私は、森田先輩が寝ているへと連れて行かれた。
森田先輩は、何事もないようにスヤスヤと寝ている。
「……しない?」
私は、鼻をクンクンとさせてみた。
「あ!」
そう……確かにガスの臭いがする。
私が寝ていた場所と比べて、かなりガスの臭いが強い。
「するよね!」
「なんでしょう!?」
「ちょっと、電気就けるね」
「はい……」
鈴木先輩が、部屋の入口辺りにあるスウィッチのところへ行っている間、私は更に臭いの元を探していた。
薄暗い方が鼻が効くのか……どうも、森田先輩の足元の方から臭いがしているように感じられていた。
その時、パッと部屋が明るくなった。
眩しいくらい。
一瞬、手で目の上を覆った私がいたけれど、私のところへ戻って来た鈴木先輩に言った。
「あの辺りから……じゃないですか?」
私は、そのガスの臭いがしている方を指差した。




