* 幻 影 其の一 * 6
森田先輩の、何となく自信無げなその言い方が気にならなかった訳ではないけれど、ここに来た時のように夜道に迷うことがあったら、それこそ取り返しのつかないことになりそうな予感もしていた。
気付いたら、目の前が湖だった……なんていうことがあったら……!
森田先輩は所謂“ペーパードライバー”で、私は運転は出来たものの、やはり、この時の精神状態の上、運転し慣れた自分の所有車でない自動車を運転して、無事にインターへ着ける自信はなかった。
しかも、この時は、もう夜の11時を回っていた。
「寝ちゃおうよ」
そう言った鈴木先輩は、おもむろに座椅子から立つと、押し入れの方へ歩いて行った。
それにつられるように、森田先輩と私は座卓の両端をふたりで持ち、部屋の隅へと運んでいた。
「それにしても、普通、仲居さんがお布団、敷きに来てくれるよね。ホテルのベッドって訳じゃないんだし」
「あ、そうですよね!旅館って、仲居さんが来てくれますよね」
「お夕飯の時といい、サービス悪すぎだよ。まぁ、ご飯は豪華だったけど」
「夕食が豪華な分、他のサービスが悪いんですかねぇ」
「まさか~」
そんな会話をしながら、私たちは自分たちで押し入れから布団を出し、3人分、並べて敷いた。
所謂、川の字。
「何処に寝る?」
敷き終わった布団を見ながら、鈴木先輩が言った。
「ここはジャンケンで決めるしかない!」
それまで、私達の部屋全体といってよい程に流れていた妙な雰囲気を追い払うような言い方で森田先輩はそう言って、笑っていた。
その笑顔に少し救われた気もしていた。
そして、私たちは、童心にもどったようにジャンケンをした。
「私、真ん中~♪」
「では、わたくしは、床の間の方で」
「じゃ、私は、こっちでいいですよ」
一番最初に勝った鈴木先輩が真ん中を陣取って、次に勝った森田先輩は、生け花のお蔭で少し明るい雰囲気を醸し出している床の間側、いつものことながら一番負けた私は、一番避けたかった端ということに。
「ま、本当は責任とって、鈴木さんが香里ちゃんのところへ寝るべきなんだけどね~」
「ですよね~!」
「へへ~ん」
この時は、修学旅行にでも来た学生気分になれていた時間。
どうか、このまま朝を迎えることが出来ますように……。
ただただ、そのことだけを祈っていた。
* 幻 影 其の二*へつづく




