* 幻 影 其の一 * 5
「ここにいるのは、かなり強いね」
沈黙を破るように、森田先輩が口を開いた。
「それも、良くないのが多すぎる」
いつものように宙に手はかざしていないものの、何かをキャッチしているかのように目を閉じながら話す森田先輩。
「……ここにも……いるんですか?」
私は、それを知りたくはなかったけれど、「聞いておかなければ」という気持ちが強くはたらいていた。
「香里ちゃんは、どう感じてる?」
「私は……このお部屋には……感じないです」
「そうなんだ……」
森田先輩の、その言い方が妙に気になった。
「いるんですか?」
「ん……いないと言ったら嘘になるけど……1階よりは弱い」
「……弱いって……やっぱり良くない霊……なんですか?」
「私にはそう感じるけど、香里ちゃんが何も感じないなら、波長が合ってないんだと思うから、すぐにどうのってことはないと思うよ」
「それじゃ、森田先輩は……大丈夫なんですか?」
「このくらいなら……」
私は、更にゾッとした。
森田先輩の「このくらいなら」という言葉に。
森田先輩の霊感はプロ並みの強さ。
だから、私達より自分を守ることが出来る術を心得ていると聞いている。
だったら、私達は……!?
鈴木先輩も、私が彼へ電話を掛けに行った1階では、先輩のいう“光”で私を守ってくれたけみたいだったけれど、この旅行全体のことを考えると、鈴木先輩の悪霊に対する力が、どれほどはたらいてくれるかということは、かなり不安定な状態であったことは言うまでもなかった。
また少しの沈黙の時間が流れていた。
その沈黙の時間、外からも天井からも廊下からも、本当に日常音というような細やかな音さえも聞こえない私達の部屋。
“音もない空間”に包まれている私達であった。
「あのさ……取り敢えず、もうこんな時間だし、少なくとも、ここだけはまだ何も起きてないから、明日の朝一番でチェックアウトしよ」
鈴木先輩の提案だった。
「そうですね……また道に迷うようなことがあっても……ね」
「うん……私、今回は自信ないわ、夜道だし」
「森田先輩、どう思います?」
まだ、目を閉じて“何か”に向かって五感を集中させているような感じの森田先輩に話しかけた。
「……そうね。明日の朝までは……大丈夫かも……ね」




