* 幻影 其の一 * 1
「あれ?随分早かったね~」
ひとりで部屋に残っていた森田先輩は、相変わらず私をからかうような口調で言った。
私は何も答えずに、私の後から部屋へ入って来た鈴木先輩を見た。
「はぁ」
鈴木先輩は大きな溜め息をもらしていた。
森田先輩はというと……自分の携帯をいじっている。
「あれ?先輩?携帯、通じるんですか?」
「あ、そうそう。香里ちゃんたちが出て行ってすぐにメールが入ってね。通じたみたい」
「……そうなんですか……」
森田先輩のその言葉を聞いて、私も思わず「はぁ」と溜め息をもらしていた。
「どうか……した?」
鈴木先輩の様子といい、私といい、森田先輩には普通には映っていないようだった。
当然。
「ん……出ちゃった」
「は?」
鈴木先輩の「出ちゃった」という、少し“茶目っ気”とも感じられるようなその言葉に、森田先輩は不思議な表情をした。
これも当然。
たぶん、“普通”の感じには映っていなかったであろう私達がいて、鈴木先輩のその茶目っ気あるような言葉とは、かなりギャップがあったと思う。
「えっと……足音がして……」
「あ、私が話す」
私が説明を始めようとすると、鈴木先輩が口を挟んでくれた。
これには、かなり助けられた私がいた。
あの時のことは、語るのも避けたいほどの恐怖だったから。
「香里ちゃんが彼氏さんに電話かけてたんだけど……」
鈴木先輩が話し出し、私達の部屋へ戻ってくるまでを説明してくれた。
「とにかく真っ暗なんですよ!」
私は、鮮明に残っていた印象だけを口にしていた。
「で、足音、急に止まったの?」
森田先輩のその問い掛けはかなり不自然。
私が「足音がして」だけとしか話をしていないのにもかかあわらず、「急に止まった」とは……普通の人なら出ない言葉。
しかし、それに気付いているのかいないのか、鈴木先輩は話を続けた。
私も敢えては何も言わずにいた。
「うん。私が香里ちゃんの腕を強く掴みすぎちゃったみたいで、「痛っ!」っていう香里ちゃんの声と同時くらいだったかな」
「そうなんだ……」
そこに居合わせていなかった森田先輩だったので、さすがに、“そこ”に“何が”いたのか、あったのかは、想像するには難しかったようだった。
「実はね……」
少し間をおいて、鈴木先輩が、何か言いにくそうに口を開いた。




