* 旅館 其の二 * 8
パタパタパタパタ……
天井のから、また子供の足音が聞こえて来た。
たぶん、ずっと聞こえていたはずであったけれど、先輩たちと話している間は耳に入って来なかったみたいだった。
チェックインしてから、ずっと聞こえていた音だったので、もうBGMのようになっていたみたいに。
「あ!子供さん!可愛いですよね!」
何、言ってるんだろう、私……。
「ずっと遊んでるなんて、よほど嬉しいんでしょね!」
温泉へ向かう時に、「今時の親は」などと言っていた私なのに……。
「いいな~。家族旅行か~」
もう止まらない。
「香里ちゃん?」
そのような私に、森田先輩が心配そな顔で声を掛けて来た。
「さっきから、ひとりで何、盛り上がってるの?」
少し、笑い顔になって言ってくれた。
「え?あ……足音が……楽しそうだなって思って」
私は、天井を見上げながら言った。
「うん。子供さんね」
「そうそう!」
私の言葉に同意してくれたような森田先輩の言葉に、何故か安心していた。
気付くと、外は、もう薄暗く、部屋も暗くなっていた。
「電気、つけますね」
スイッチをいれると、部屋全体がパッと明るくなり、これも安堵感を与えてくれた。
鈴木先輩は、まだ、何処か怯えているようにも見えた。
無理もない。
“あの”場所に一番長くいた当事者。
まして、私たちが話している意味さえ理解できないくらいに憑依されてしまっていたのだから。
“ヌケタ”とはいえ、そうとう疲労していると思えた。
幾度となく、それを経験している私は、しばらくはそっとしておこうと思っていた。
「そういえば、お夕食って何時だっけ?」
森田先輩も同じことを思っていたのか、明るい話題に変えてくれたようだった。
思えば……。
あの温泉での出来事だけでも、その旅館から逃げ出すのに十分な理由はあったはずであるのにもかかわらず、私たちはその考えがなかった。
“何か”に引き止められていた!?
≪旅館其の三≫へつづく……




