第5話 勇者様、レベルが上がる
審問官が去ったあとの空気が、少しずつ普段通りに戻っていく。栞がふと思い出したように口を開いた。
「そういえば、クエスト達成後は、レベルアップの石に触れておいた方がいいですよ」
「石?」
「触れないと、レベルが上がらないので」
案内された広場の中央には、拳大の透明な石が台座に安置されていた。触れるだけでレベルが上がる、という説明を半信半疑で聞きながら、凪はおそるおそる指先を石に近づける。
触れた瞬間、石が淡く光り、頭の中に直接語りかけるような声が響いた。
『クエスト達成しました!』
『レベル500になりました!』
「……は? 500?」
驚きのあまり声が裏返る。石はそれに構わず、続きを告げた。
『素早さが1上がりました』
「……それだけ?」
あれだけ景気のいい数字を叩き出しておきながら、上がった能力値はたったの1。あまりの落差に、凪はしばらく石の前で立ち尽くしていた。
「そうみたいですね」
隣で栞が、特に驚いた様子もなく相槌を打つ。その温度差が気になって、凪はふと尋ねてみた。
「ちなみに、栞さんはレベルどのくらいなんですか」
「レベルがあるのは、勇者様だけですよ」
「……え?」
「私たちには、そもそもレベルという概念がないので」
「じゃあ、栞さんの強さって」
「経験と勘、あとは慣れですかね」
数字にも表れない強さで、これまでずっと自分を助けてきてくれていたのだと思うと、凪は自分のレベル500という数字が、急に頼りなく見えてくるのを止められなかった。
宿に戻ると、扉の前に見知らぬ人影が立っていた。旅装束に身を包んだ、年の頃は栞と同じくらいの女性だった。
栞の表情が、審問官の時とはまた違う質の硬さを帯びる。
「……早いですね」
「話は早い方が好きなので」
女性はそう言うと、値踏みするような視線を凪へと向けた。
「あなたが、今代の勇者様ですか。噂には聞いていましたけれど」
「噂」
「ええ、ずいぶんと危なっかしい、と」
その一言に、凪の心臓が跳ねる。危なっかしいというのが、剣の腕のことなのか、それとも別の何かを指しているのか、判断がつかなかった。
栞が凪の前に、さりげなく半歩踏み出した。




