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【完結】勇者様、わっしょい  作者: ごまだんご


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第4話 審問官

「栞様、少しよろしいですか」


 案内役に連れられて奥の部屋に向かった栞は、しばらくして戻ってくると、いつもより少しだけ硬い声で告げた。


「明日、王都から審問官がいらっしゃるそうです。勇者様の実力を、正式に見極めに」


 その一言に、凪の背筋が凍りついた。薬草採取とウサギ討伐でようやく初クエストを終えたばかりの自分に、まともな実力などあるはずがない。


「無理です、絶対に無理です」


 半ば泣きそうな声で訴える凪に、栞はいつもの調子で小さく笑った。


「まあ、なんとかなりますよ」

「なんとかって」

「これまでも、なんとかしてきたじゃないですか」


 その言葉に、凪は少しだけ落ち着きを取り戻す。ただ、そう言った栞自身の指先が、いつもよりわずかに冷たかったことに、凪はまだ気づいていない。


 翌日、広場に現れた審問官は、白髪を短く刈り込んだ、隙のない立ち姿の男だった。歓迎の言葉もそこそこに、彼はまっすぐ凪に向き直る。


「勇者様、恐れながら、簡単な模擬戦をお願いしたい」

「模擬戦」

「はい。相手はこちらの騎士団員から一名」


 断る選択肢は、どうやら用意されていない。凪は隣に立つ栞を見る。助けを求める視線に、栞はほんの一瞬、目を伏せた。


 広場の中央、凪は木剣を手渡され、相対する騎士と向き合う。合図と同時に踏み込んできた相手の一撃に、凪は反射的に剣を持ち上げた。木剣同士がぶつかり、あっさりと剣が手から弾き飛ばされる。


「これは、いささか」


 審問官の目が細くなる。


「勇者様は、実戦よりも搦め手を得意とされる方でして」


 割って入ったのは栞だった。声の調子はいつも通り落ち着いていたけれど、握りしめられた拳が、微かに震えている。


「搦め手、とは」

「先ほどのも、あえて剣を手放すことで、相手の攻撃の軌道と勢いを見極めておられたのです。次の一手のための布石、というところでしょうか」


 あまりにも堂々とした嘘に、審問官はしばし黙り込んだ。


「では、次の一手を見せていただけると」


 審問官の言葉に、栞の顔から一瞬だけ余裕が消える。今度ばかりは、次の言い訳が思いつかないらしい。その横顔を見て、凪は初めて気づいた。栞はいつも余裕そうに見えて、実は必死に綱渡りを続けてきただけなのだと。


 地面に落ちた木剣を見つめながら、凪は覚悟を決めた。上手くやれる保証などどこにもなかったけれど、ここで栞一人に全部背負わせるわけにはいかなかった。


 剣を拾い上げ、あえて低く構える。まともな型など知らないから、せめて隙だけは見せまいと、じっと相手の出方をうかがう。


 騎士が焦れたように距離を詰めてきた瞬間、凪は横に転がるようにして間合いを外した。褒められた動きではなかったけれど、結果として一撃を躱すことにはなった。


「……ほう」


 審問官が小さく声を漏らす。栞の表情が、わずかに緩んだのが分かった。


 模擬戦はその後もぎこちなく続いたけれど、審問官は最終的に「型にとらわれない独特の戦い方」という、栞の嘘とほとんど変わらない評価を残して立ち去っていった。


 審問官の姿が見えなくなってから、凪と栞はしばらくその場に立ち尽くしていた。


「……ありがとうございます」

「いえ」

「怖かったですよね、今の」


 栞は少し驚いたような顔をしたあと、小さく息を吐いた。


「まあ、それなりに」


 いつもの軽い調子に戻りかけていたけれど、その声には、隠しきれない安堵が滲んでいた。誰かのために、これほど必死になったことが今まであっただろうか。栞自身も、その問いにまだ答えを持っていなかった。

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