↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結】勇者様、わっしょい  作者: ごまだんご


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

22/28

第22話 勇者様、木の枝以外は斬れない

 新しいスキルを手に入れた高揚感は、そう長くは続かなかった。


「直径十センチ以内なら、大抵のものは斬れるはずですよね」


 凪は自信満々にそう言うと、宿の裏に置いてあった加工済みの板を持ち出した。木の枝が斬れたのだから、同じ木材である板も同じように斬れるはずだと踏んでいた。


 振り下ろした剣は、しかし板の表面に浅い傷をつけただけで、あっさりと弾かれてしまった。


「……あれ」

「加工された木材は、また別物ということですかね」


 栞の冷静な指摘に、凪は納得のいかない顔をしながら、次の的を探した。まだ何かの条件が足りないだけだと、根拠のない自信は簡単には消えなかった。


「じゃあ、これは」


 今度は倉庫に転がっていた太い麻縄を手に取る。木材ではないから条件が違うのかもしれない、そんな淡い期待を込めて振り下ろしたけれど、結果は同じだった。刃は縄の表面を撫でるように滑るだけで、繊維一本すら断ち切れなかった。


「なんで……」


 二連続の失敗に、凪の中の自信はもう半分ほど崩れていた。それでも意地になって、最後の手段として、夕食の支度で余っていた豆腐を持ち出す。木でも縄でもないなら、いっそ柔らかいものならどうか、という苦し紛れの発想だった。


「さすがに豆腐は、斬れなくても仕方ないと思いますが」

「一縷(いちる)の望みです」


 剣を構え、慎重に振り下ろす。豆腐は確かに真っ二つになった。凪は思わず歓声を上げかけたけれど、その断面をよく見た瞬間、動きを止めた。


「……これ、斬れたんじゃなくて、潰れて割れただけですよね」

「そうですね。剣の重さで、真っ二つになっただけかと」


 結局のところ、あの日斬れたのは木の枝、それだけだったらしい。板でも、縄でも、豆腐でもなく、ただ木の枝という条件にぴったり合致した時にだけ発動する、恐ろしく限定的な能力だったのだ。


「つまり、実戦ではほぼ使えないってことですよね」

「木の枝と戦う機会があれば、無敵だと思います」


 栞の慰めにもならない慰めに、凪はがっくりと肩を落とした。せっかく手に入れた初めての戦闘スキルは、蓋を開けてみれば、これまでのどの能力よりも狭い適用範囲を持つ、極めて実用性の低いものだった。


 それでも、真っ二つになった豆腐を前に、二人はしばらくくだらない検証を続けていた。


「もう一回、切り方変えてみましょうか」

「今度は斜めから、とか」


 豆腐を薄く削ぐようにして刃を通したり、真上から叩き落とすようにしてみたり、およそ勇者らしいとは言えない検証実験が、宿の裏で延々と続けられた。


 そんな最中、案内役が慌てた様子で駆け込んできた。


「勇者様、審問本部から手紙が届いております」


 その一言に、豆腐で遊んでいた空気が一瞬にして凍りつく。手渡された封筒を開けると、達筆な文字で簡潔にこう書かれていた。


「五日以内に出発し、状況の把握と報告を行うこと」


 これまで曖昧なまま先延ばしにされてきた話が、ついに具体的な期限を伴って動き出した。凪は手紙を持つ手に、じわりと汗が滲むのを感じた。


「……五日」

「思ったより、早かったですね」


 栞の声にも、いつもの余裕は薄れていた。豆腐と戯れていたさっきまでの時間が、まるで嘘のように遠く感じられた。


食べ物で遊ばない!

(後でスタッフが美味しくいただきました)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。