第21話 勇者様、初めての剣技を得る
迷い猫のクエスト達成の報せは、あっという間に街中に広まったらしい。宿に戻る頃には、既に太鼓の音が遠くから聞こえてきていた。
「勇者様、迷い猫発見、おめでとうございます!」
猫一匹を捜し出しただけの成果に、いつも通りの大袈裟な歓声が湧き上がる。凪はもう慣れた様子で神輿に上げられながら、諦め半分で身を委ねた。
「わっしょい! わっしょい!」
祭りが一段落したあと、レベルアップの石へと案内される。触れた瞬間、頭の中に声が響いた。
『クエスト達成しました!』
『レベル1,000,000になりました!』
「桁が、もう見えなくなってきました」
石はそれに構わず、続きを告げた。
『スキル、猫寄せを取得しました』
「猫寄せ」
『三毛猫にのみ懐かれます』
「……三毛猫」
あまりにも限定的なスキルに、凪はしばらく声を失った。今日出会ったばかりの、あの薄汚れた三毛猫の顔が頭をよぎる。
「今日の猫、三毛猫でしたね」
栞の指摘に、凪は思わず脱力した。まるで今日の出来事をそのままなぞったかのような、律儀すぎる能力だった。
石はまだ続きがあるようで、声が改まった調子で響いた。
『新たな能力が解放されました!』
「え」
『勇者斬り レベル1』
これまでとは違う響きに、凪は思わず身を乗り出した。これまで何度かレベルアップを重ねてきたが、こんなふうに改まった前置きが入るのは初めてのことだった。
『木の枝が簡単に斬れます。ただし、直径十センチメートルまで』
「……戦闘スキル、来た」
初めて手にした、それらしい能力だった。喜ぶべきなのか、それとも制限の細かさに脱力するべきなのか、凪自身にも判断がつかなかった。それでも、これまで何も持たなかった手のひらに、初めて何かが宿ったような気がした。
「試してみますか」
栞に促され、近くに落ちていた木の枝を拾い上げる。腰の剣を抜き、恐る恐る振り下ろすと、これまでにない軽い手応えとともに、枝は綺麗に両断された。刃が空気を切る感触が、初めて自分のものとして実感できた。
「……斬れた」
小さな達成感が、じわりと胸に広がる。エンシェントドラゴンには到底及ばない力だと分かっていても、これまで薬草すら満足に扱えなかった自分にとっては、確かな一歩だった。
「直径十センチって、結構細いですけどね」
栞の冷静な指摘に、凪は少しだけ気を取り直しながら、次の木の枝を探し始めた。




