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【完結】勇者様、わっしょい  作者: ごまだんご


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12/28

第12話 勇者様、羽虫に強くなる

 クエスト達成の報せは、あっという間に街中に広まったらしい。宿に戻る頃には、既に太鼓の音が遠くから聞こえてきていた。


「勇者様、湖畔の清掃クエスト達成、おめでとうございます!」


 ゴミ拾いという、これ以上ないほど地味な戦果に対して、その熱量はあまりに不釣り合いだった。凪は諦め半分で神輿に上げられる。


「わっしょい! わっしょい!」


 短めの、けれど相変わらず容赦のない揺れの時間を乗り越え、祭りが一段落した頃、案内された広場の中央、拳大の石へと凪は手を伸ばした。


 触れた瞬間、頭の中に声が響く。


『クエスト達成しました!』


『レベル10,000になりました!』


「……もう桁の感覚がおかしくなってきました」


 石はそれに構わず、続きを告げた。


『力が2上がりました』

『羽虫の耐性がつきました』


「……羽虫」


 あまりにも具体的すぎる耐性に、凪はしばらく声も出なかった。隣で栞が、興味深そうに石を覗き込む。


「羽虫だけに効果があるみたいですね」

「なんでそんなピンポイントなんですか」

「さあ」


 栞のいつもの相槌にすら、今日は特別な意味が込められているように感じられた。試しに近くを飛んでいた羽虫に手を近づけてみると、いつもなら思わず身をすくめてしまうはずのそれに、不思議と平静でいられる自分に気づく。


「……本当だ、平気です」

「良かったですね、湖での作業、これで少しは楽になりそうです」

「いや、もう湖のクエストは今日で終わりですよね」

「次があるかもしれません」


 軽い調子で返され、凪は思わず脱力した。ウサギでも草でもなく、よりにもよって羽虫にだけ強くなるという、あまりにも狭すぎる成長に、勇者としての在り方をまた一つ考え直さざるを得なかった。


 それでも、これまでの何十という理不尽な失敗の中で、初めて「明確に克服したもの」ができたという事実は、地味ながら確かな手応えとして凪の中に残っていた。


 宿への帰り道、栞がふと思い出したように言った。


「そういえば、あの人からまた連絡がありました」

「名乗らない人ですか」

「はい。今度は、直接会って話したいそうです」


 その一言で、羽虫の耐性で浮かれていた気分が、一気に引き締まる。規格外の魔物、審問官、そして今度はあの女性からの接触。バラバラに散らばっていた不穏の種が、少しずつ一つの流れに繋がっていくような予感がした。


「いつですか、それ」

「明日の朝、ということでした」


 夜が更けていく中、凪はしばらくの間、羽虫にだけ強くなった自分の手のひらを、意味もなく見つめ続けていた。

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