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後宮の毒  作者: 公开
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第二話 鬼王・鬼灯

 妖を統べる鬼王、鬼灯(ほおずき)。


 文字通り人間離れした美しい容姿と圧倒的な力を持つこの男には、思い通りにならぬ事などなかった。


 そんな鬼王が、とある陰陽師一門を滅ぼそうとしたのは、ほんの暇潰しに過ぎなかった。


 あえて理由をつけるとするならば、次の陰陽頭が決まりそうだという噂を偶然耳にしたからだ。


 足を運んだ鬼灯が目にしたのは、随分と質素な屋敷だった。


 「なンダ。ボロ屋でスネ。」


 連れて来た化物がそう小さく呟いたので、容赦なくその頭を潰す。鬼灯は発言を許可していない。

 周りで怯えた声が挙がった。


 「(……これがボロ屋だと?)」


 物静かな雰囲気の中には、洗練された空気が漂っている。高潔という言葉が似合う屋敷に、鬼灯はそれだけで強者がいると分かった。


 次の陰陽頭、つまりここの主は、稀代の才覚を持ち、他の陰陽師などでは到底敵わぬほどの強さを誇るという。


 ならば、一度くらい手合わせしてみたい。


 鬼灯がこの一門を滅ぼそうと思ったのは、それだけの理由だった。


 適当に化物を放つと、厳粛な空気を纏っていた屋敷は、瞬く間に血と炎に呑まれた。


 静かだった庭には悲鳴が響き、整えられていた廊下には血が流れ、端正に保たれていた屋敷は、見る影もなく崩れていく。


 逃げ惑う無力な人間共を眺めるのは、いつだって愉快だった。

 己の姿を見た途端に顔を青ざめさせ、何とか逃げようと足掻き、それでも逃げ切れぬと悟れば恐怖に震える。その有様を眺めながら命を奪うことには、言葉にし難いほどの快感があった。


 鬼灯はふと、燃え盛る屋敷の奥へ綺麗な所作で進んで行く影を見た。


 「(ひと目で分かる、アレが当主だ。しかし、女とは珍しい。)」


 それを見つけた瞬間、鬼灯は他への興味を一切捨てた。鬼灯に自覚はないが、その後ろ姿に魅入ったのだ。




*




 鬼灯は最奥の部屋で初めて浮世離れした女の美しい顔を見た。

 一本の糸に吊られているように背筋をピンと伸ばし、服には皺一つない、洗練された出で立ちと風格だ。

 美しい髪を思う存分に垂れ流し、こちらを見るその目には極上の琥珀の珠が埋め込まれているようであった。

 死を覚悟しているのか、嫌という程落ち着いていて、手慣れた様に扇子を広げたその女と目線があった瞬間、鬼灯は昂る気持ちを抑えられなかった。


 「(悪くない、欲しい。)」


 出家した女と同様、術を修練をする女は性の対象になり得ない。鬼灯とて修練した女を抱く趣味は無かったが、この女ならば全てを暴いてみたいと心から思った。

 鬼灯は自身の後宮に質の良い女を何十と侍らせていたが、その中のどんな女とも違うと感じていた。

 鬼灯は己にそう思わせる人間に出会ったことに驚きを認めた。


 「噂に寄らず、随分饒舌なんだな。」


 他の女であれば既に首を飛ばしているような生意気も、この女が言うのは平気だった。


 鬼灯はすっかり殺す気が失せていた。


 徹底的に服従させるために、まずは躾をする所から始めねばならぬと思った鬼灯は、手始めに女の白くて細い首を掴み上げた。


 抵抗するかと思われたその身体は動かず、その目は朧気で光がない。ふと、生暖かい感覚がして、浮いた女の足元を見ると血が流れ出ている。

 掴んだ首は随分冷たく、脈も弱い。既に死にかけだったのだ。


 鬼灯はまたしてもこの女に驚かされた。


 無傷だと思わせるほどの振る舞いに、鬼灯はすっかり騙されていた。


 「(この女、なんという根性だ。)」


 最期まで、鬼灯という存在に弱みを握られたくないというその矜恃を、鬼灯はとても気に入った。

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