ゾーン
それは一瞬の事だった。
キャットが止める間もなく動いたミネコの槍は、正確にメイドさんの心臓をえぐり取っていた。
「にゃにゃっ!?は、はやく、病院っ、魔法!ど、どうしたらいいにゃっ!?」
あたふたと焦ったように右往左往するキャットを尻目に、僕はミネコへと近づきその肩をポンと叩いた。
「……ハッ⁉あれ⁉なんで自分、メイドさんの胸突き刺してるであります!?」
「君が自分で突き刺したんじゃない」
「まさか、そんなそんな……あ、もしかして自分またヤッチャッタであります!?もしかして!」
そういうとミネコは、頭を抱えて「やっちまったでありますー!」と大げさに天を仰いだ。
「自分、集中しすぎるとゾーンに入っちゃって、他の何も聞こえなくなっちゃうのでありますよ……今は、入ってくる人間に対して警戒しまくりの、しまくりだったであります……少しでも危なそうなら、すぐ心臓を突けるようにって集中してたでありますよ……」
「そうなの?」
「そうであります、ここは敵地、皆的だから警戒しろって。こっちから先に動けるようにって……ああ、訓練でもさんざん言われたでありますよ。『ミネコ、お前はゾーンに入った時は、強い。圧倒的に強い。だが、周りが見えなくなってしまう。騎士とは守る物、周りも見えてこそ一人前。お前は周りをもっと見るべきだって』先輩からさんざん言われたであります」
「はへー」
なんかすごい長々と語ってる。
「えっと、つまり悪い癖が出ちゃって、メイドさん殺しちゃったって事?」
「そうなるであります」
「うわぁ、いつかやらかしそう」
「今やらかしたでありますよ……」
そう言って落ち込むミネコだが、それは杞憂だろうきっと。
「ねえ、ミネコ?アンデットって、悪い物?」
「え、いきなり呼び捨てでありますか?まあ、別に構わないでありますが……えっと、アンデットは悪い物……でありますか?当たり前でありますよ、死体を動かす魔法はそもそも禁忌でありますし、アンデットを作ったらそれだけで悪人であります」
「あ、うん。まあそう言う事効きたかったわけじゃないんだけど……まあいいか」
「何かあったであります?」
そう、僕の方を見て尋ねる彼女のほっぺたをむにゅっと挟み、メイドさんの方を向かせた。
……やっぱり、やわらかかった。
「にゃっ!?い、いきなり、にゃにするでありますか!?」
少し裏返った声で、ミネコは「あわわ」と手を振った。
「柔らかくて気持ちいいね」
「あ、ありがとうございます」
「もっともんでもいい?……じゃなかった、とりあえず、メイドさん見て」
「あ、え?駄目……前、でありますか?」
そう言われたミネコは視線をメイドさんの方へと向けた。
ミネコの心臓は、きっちりとメイドの心臓の位置を抉っているように見えた。
だがしかし、おかしいか。
メイドからは一滴も赤い液体が流れ出ていなかったのだ。
刺さった場所から流れ出ている物は、血とは違う……何か分からない、黒い、粘性の液体だった。
「これは、まさか⁉」
それを見た、ミネコはハッとして槍に力を入れて引き抜こうとした。
しかしその槍は、何者かにつかまれた。
「お客様、いきなり突き刺してくるとは行儀が悪いですね……」
槍を掴んだのは他でもない、目の前にいる……槍に突き刺されたメイドその人だった。
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