センシティブな格好
いつの間にか居た男は、この館の主だった。
いつ、椅子に座ったのか。
物音一つしなかった。
「さ、とりあえず。メイド。麗しき少女二人にお飲み物を出して差し上げなさい」
「はい、ただいま」
まるで影のように現れたメイドは、一礼し部屋から出ていく。
「さて、お二人は一体どうしてこの館へ……大方、森で迷ってこの館へやってきた……というところかな?」
ディラと名乗ったイケメンはニコニコと微笑みを浮かべた。
「そう、ですにゃ……」
「やっぱりそうか!いやー、偶にあるんだ。森で迷子になってこの館へやってくる冒険者さんが……あー、君たちも冒険者なんだろう?女二人に……そっちの少女はセンシティブな格好をしているが」
そう言って彼はキャットを見た。
「センシティブっ……こ、これには事情があるのにゃっ!」
「そう……まあ、事情は聞かないでおくよ。人それぞれ趣味があるからね」
「にゃーの趣味じゃないにゃっ!」
そんな話をしていたらメイドが部屋に戻ってきた。
彼女は、銀色のカートを押していた。
カートの上にはおしゃれなカップと、ティーポット……そして、少しのお菓子が置かれてあった。
「失礼いたします」
ふむ、まあ紅茶……だよね。
そう言って彼女は僕とキャットの前にお茶を注ぎ……
「じゅるり……はっ」
なんかキャットはよだれを垂らしていた。
全く、はしたない。
――じゅるり。
「ああ、メイドよ。私の分は……」
「はい、いつも通りの物を用意しております」
そう言って彼女は、ディラの前に置いたワイングラスにボトルから赤黒い液体を注ぎ込んだ。
「さて、こうであったのも何かの縁だ。出会いを祝して乾杯しようじゃないか」
「はぁ……」
「乾杯」
「……んっ、うまいにゃっ!」
そう言って彼女は、入れたてで熱い紅茶にもかかわらず、一息で飲んだ。
……猫舌じゃないんだ。
「猫なのに……」
僕も飲み物へと口を付ける。
液体が胃へと流れ込み、体へ染みわたる感覚……
ああ、そう言えば昨日から何も飲んでなかったっけ。
まるでスポンジのように体が液体を吸収していく感覚を覚えた。
「……ほう、なかなかいい飲みっぷりだね」
「お代わりにゃっ!」
そう言ってキャットはメイドに、カップを差し出した。
「猫の獣人は熱いのが嫌いだったと記憶してるんだけど……君は案外そうでもないのかい?」
「昨日から何も飲んでないから、熱くても我慢できるにゃっ!生き返るにゃ!」
「ああ、やっぱ猫舌ではあるんだ」
まあ、気持ちは分からなくも無いけど。
二杯目……三杯目……四杯目………。
「ぷはぁっ!」
ようやく満足したのか、キャットはお代わりを止め、目の前のお菓子を見た。
「お菓子も、いただくにゃっ!」
そう言ってキャットは茶菓子へと手を伸ばし、もぐもぐと食べた。
「甘くておいしいにゃー」
「はは、これなら茶会じゃなくて、本格的な食事でも良かったかな?」
その豪快な食べっぷりをみて、ディラは少し苦笑いを浮かべたのだった。
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