釣りと宝
僕とキャット、いやそれだけじゃない。
人の騒がしい声が聞こえてくる。
「何があったんだろ?」
遠く、爆発があったほうを眺めるが、明かりが見えるだけでそれ以外の事は分からない。
ただ一つ分かるのは、爆発の規模が大きいだろうという事だ。
「まるで昼みたいに明るいにゃ……」
「そうだね、例えるなら夜中に上がるロケットの……ん?」
ふと首元から引っ張られる感覚が消えた。
手で首元に触れると、糸の感触はなくなっている。
「解けた?」
能力を解いた……という事だろうか?
恐らくそう言う事だ。
何故?
……そうか。
「なるほど、人間性が残ってるってことかな?」
今やることはどうするか。
爆発の方へ行く……わけない。
「キャット」
「何にゃ!?」
「僕の首元から糸の感触が消えた……おそらく、リュウが能力を解除した。ということになるんじゃないかな?」
そういえば、さっきリュウはわざわざ糸を巻き付けてキャットを拘束しようとしていた。
何故そんなことをしたのか。
おそらく、十中八九針をかけれる相手は一人だけなのだろう。
そして針をかけるには一度、針を対象に打ち込まなければならない。
転移で逃げきれてなかったときは流石に一瞬驚いたけど、まあ何とかなったね。
「そ、それがどうしたにゃ?」
戸惑うキャットに僕は答えた。
「逃げるよっ!」
と。
◆◆◆
同時刻。リュウは衝撃的な光景を目の当たりにしていた。
「これは一体……なんなんだ?」
燃え盛る業火に飲まれていたのは、街の主要な建造物であり、リュウもよく利用していたあの異世界ラノベ定番の地――
「冒険者ギルドが、燃えている!?」
―――
少し時間は遡る……リュウは捉えたシノブを釣り竿で釣り上げようとリールを巻いていた。
「俺のスキル≪釣りと宝≫は狙った獲物は逃さない。たとえ転移で逃げたって、この糸が届く範囲なら絶対に針は外れることはないんだよ」
しかも、この糸は特注品。
ミスリルで作られ、空間拡張技術によってその長さは10km以上。
「あとはゆっくり獲物が釣りあがるのを待つだけ……」
その時だった。
リュウが爆発音とともに吹き上がる爆炎を目にしたのは。
リュウは一瞬悩んだが、すぐにシノブへの≪釣りと宝≫の発動を解除し爆発の方へと向かった。
その先で目にしたのが……
燃え盛る冒険者ギルドだったのだ。
―――
冒険者ギルド前に駆け付けたリュウの元へ、一人の少女が走ってきた。
「リュウさん!」
ところどころ黒焦げた冒険者ギルドの制服を着た彼女を、リュウは抱き留め、優しく声をかけた。
「ロゼッタちゃん。大丈夫?怪我は?」
「だ、大丈夫です。他の人も皆無事です……けど」
そう言って燃え盛る冒険者ギルドを見た。
「いったい何があったんだい?」
「分かりません、突然爆発して……」
「だろうね、俺の耳にも聞こえたよ」
周りを見れば、無数の魔術師、冒険者、兵士、一般の火消したち必死に冒険者ギルドの消火に当たっていた。
「とりあえず、一旦火を消し止めよう」
リュウはそういうと、釣り糸を地面へと垂らした。
針はまるでそこが水辺であるかのように地面へと吸い込まれる。
「フィッシング!対象……3km先。釣り対象、水40……いや、もうちょっと必要か?50トン!」
瞬間、リュウの釣り竿が大きく曲がる。
「っ……せいっ!」
しなり切った釣り竿が持ち上げられた瞬間、大量の水がリュウの元へ出現した。
水は狙いすませたように冒険者ギルドへと突撃し、その炎を一瞬にして鎮火する。
「リュウさん!凄いですけどっ……水が!」
「まあ、任せなって」
そう言ったリュウの釣り竿からはまだ糸が伸びていた。
「確かこの街って、街中に川流れてたよね?」
「え?まあ……」
リュウはそれを聞くと、釣り竿を振りぬいた。
水は釣り竿に釣られて、飛んでいく。
飛んで行った水は、どうなったか。
水辺へと到着した水は、まるで水の柱のように突き刺さり、川へと流れていく。
数分後。
残ったのは、焦げ跡だらけの冒険者ギルドと、鎮火を行ったリュウをたたえる人々の声だった。
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