壁尻
「はい、キャシーさん。新しいギルドカードです」
「にゃー!ありがとにゃー!」
そう言ってキャットは新しいギルドカードを貰っていた。
「ねえ、だっ……」
「さーて、それじゃ宿屋取りに行くにゃー!」
そう言って彼女は僕を背中から羽交い絞めする形で持ち上げた。
「ねえ、正面からがいいんだけど?」
「うるさいにゃ。足さげろにゃ」
僕たちは冒険者ギルドを出ると、近くの路地裏に入る。
「よし、ここまでこれば一旦は良いにゃ……ふへぇ」
「きゃんっ……いきなり降ろさないでもらえるかい?舌嚙みそうになった」
「舌噛みちぎればよかったのににゃ」
ちょっと殺意漏れ出てない?
まあいっか。
「それより、今から宿屋取りに行くんだっけ?」
「そうにゃ。宿屋は早い者勝ちにゃ。下手したら野宿とかもありえるからにゃ!日が昇ってるうちに今日の寝床を確保するにゃ!」
「そう……でさ」
「あ、できるだけ安い裏町の宿屋を取るにゃ。しょうがないにゃ、にゃー太刀お金持ってない……」
「そう、持ってるの?お金?」
「ははそりゃ勿論……」
僕が訪ねると、キャットは固まった。
「勿……論、お金は、持って……持って……」
キャットは震えた手でギルドカードを見る。
それを僕も横からのぞき込む……なんか色々書かれてる。
でっかい英語でFって書かれてある、これが冒険者のランクのような物だろう。
その下にずらっと文字が書かれてて……
残金:0マルクと書かれてあった。
マルク……っていうのが、この国のお金の単位と言う奴だろうね。
「……それより、0って書いてあるね?ねえ、0円……0マルクで宿屋って泊まれるの?」
「泊まれる、訳が無いにゃっ………どどどど、どうするにゃ!?このままじゃ野宿なのにゃ!」
そう言ってキャットは「あわわ」と焦り始めた。
「そんなに問題ある?」
「問題大ありにゃ!」
「野宿だっていいじゃない。夜空ってきれいなんだよ?」
「にゃーは屋根のある部屋で寝たいにゃ!せめて!」
って言われてもね、お金なんて持って……ん?
「そう言えば、お前服脱げるにゃよね?」
「何さ、そんな目で見……」
「その服売って金にするにゃっ!」
「……やだよ⁉」
そう言ってキャットが飛び掛かってきた。
「……対象:キャシーニャシー 転移」
「その服……へ?にゃー!」
そう言って僕の背後でドスンと音がした。
「全く、いきなり襲い掛かられると怖いんだけど?」
「にゃおぉ……」
そう言って振り返った先で、キャットは路地裏の端に積まれていた木箱の側面をぶち破り頭から突っ込んでいた。
全くやれやれ……
と、僕が肩をすくめた時だった。
ぐー。と言う音がどこからか聞こえた。
「ん?何のお……あ、僕のお腹の音か」
そう言ってお腹をさする。
そう言えば転生してから何も食べてないんだ。
何か食べたいな……食べたいけど。
うーん。
「……ま、お金が無いと困るよね」
宿に泊まる泊まらないかは置いておいてさ……
「今持ってるもので何かないか……おや?」
カバンの中を覗き込んだ僕はそれを見つけた。
僕はそれを、指でつまむと……キャットに見せようとしたが、そう言えばまだ頭から木箱に突っ込んだままだったんだ。
「……一旦キャット引っ張り出すか」
そう思って、キャットの腰に手を回す。
「ちょっと引っ張るからねー」
「にゃはぁ……?にゃ?」
「せーのっ!んっ!」
そう引っ張ってみるが、なんか上手いこと抜けない。
「はっ⁉にゃーはなんでこんなことになってるにゃ!?」
「ねえキャット~引っ張り出すからさ、キャットの方も抜け出せるように動いてくれない?」
「え?よくわからないけど、分かったにゃ……ってお前がなんか変な子としてこんなことになっ……」
「じゃ、行くよーせーの!んっ」
そう力いっぱい引きますが、まだまだキャットは抜けません。
「はぁ……んっ……はぁはぁ」
「おっぱいが!おっぱいが引っかかってるにゃ!」
……おかしい、なんか良くわからないけど、なんかエッチな感じだ。
よく考えたら、今のキャットって壁尻……みたいな感じになってるわけだ。
「エッチだ……」
「エッチえっ…………早く引っ張り出せにゃー!」
それから、もう一度『転移』で脱出させればいいと言う事に気が付いたのは、実に10秒後の事だった。




