17.寝起き
睡眠という行動の中で私が一番好きな時間帯、それは寝起きの微睡みである。
「んあ、ふぁぁぁ……」
温かいベッドの中で目をゆっくりと開けた私はゴソゴソと動き軽く寝がえりを打ってからまた目を閉じて睡眠と起床の間でフワフワと漂う。この起きているかどうか微妙な時間帯が最高に好きなのである。
社会人だったころは当たり前だけど始業の時間があるので平日は味わえなかったし、かといって休日に寝まくろうもんならただ一日を無駄にした気持ちになってもったいない気分も感じてしまう。
(それが今は……なんて幸せ……神様ありがとう、ほんとに)
爽やかな鳥の囀りは心地よく薄いカーテン越しに差し込む柔らかな光は私を包んでくれて──
「…………え?」
パチ、と目を開ける。これはあれだ目覚ましをかけ忘れて始業時間に起きた時のやつだ。
私はベッドの上で飛び上がった。
*****
「ご、ごめん、リティア!! まさか朝まで爆睡するとは!」
「そんな謝らなくて大丈夫ですよ。実は何度か起こしに来たのですがあまりにもぐっすり眠っておられましたので、それを妨げるのもどうかと思い起こさなかったのですから」
「で、でも夕食を準備していたんじゃ……」
「確かに準備はしていましたがナコさんが起きてから調理は始める予定でしたし、無駄にはしていないのでご安心ください」
そう言われるといくらか助かる思いではあったが、しかしここまで爆睡してしまうとは驚きだ。よっぽど疲れていたかベッドが気持ちよかったかだけど、たぶん後者だとは思う。
なんてベッドに責任転嫁していたらリティアから提案が入る。
「それで、お母様とミリナと一緒に今から朝食をとるのですが良かったらお招きさせてください。お腹は空いていますか?」
「…………けっこう、空いてるかも」
そういえば神社を出てから碌に食べていないことを思い出し、その瞬間に急激な空腹を自覚してしまう。
「よかった! それならこちらでお待ちしていますので準備を……アレイラ、お願いしますね」
「はい。すぐに準備いたします」
リティアのそばにはいつの間にか現れたのかアレイラさんが立っていた。ベッドから出た私は彼女に案内されるまま大きな化粧台の前に座らされる。
鏡に映る姿はたっぷりの睡眠のおかげか艶々と健康的に見えるが、狐耳や尻尾に子供の姿を見ると違和感がある。
「御髪を整えますのでどうぞリラックスしてください」
お風呂の時と同じように櫛で整えられ、香水のようなものを軽くつけられたあとまた櫛で整えられていく。シャッシャと梳かれていく音が心地よく、十分な睡眠を取れていなかったらまたあっさりと寝ていたに違いない。
「ところでナコさんはこれからのことについて予定はありますか?」
気持ちよさに尻尾をユラユラさせていたらリティアからそう聞かれる。そういえばぼんやりと考えてはいたものの、はっきりとは決めていなかった。
「うーん……せっかくだから城下町とか散策したいとは思ってるけど他は特に考えてないかなぁ」
「なるほど! それなら朝食の時に色々と予定を決めましょう! そのため……というわけではないのですがお話ししたいこともありますので少しだけお時間を頂きたいです」
「……話したいこと?」
「はい。例えばこの国のこと、それに大陸についても殆ど知らないと思います。ナコさんはナコさん自身が思っているより特別な方なので情勢についてもナコさんにだけ知っておいて欲しいこともあるのです」
「な、なるほど」
どうやらとっても難しい話のようだった。しかし、リティアの言う通りそのあたりの情報に関しては何も仕入れていない。あの神様がそのあたりをキチンと説明してくれていれば特に問題はなかったのだが、あの神様にはあまりそういうところには期待できそうにない。
それに了承の返事をしたところでちょうどアレイラさんから声がかかる。
「ナコ様、終わりました。よろしければ尻尾も整えても……?」
「……し、尻尾はいいかなぁ。くすぐったいし」
昨日のお風呂みたいに反応する姿をリティアに見られるのは何だか恥ずかしい。なんだか残念そうな気配を後ろから感じたがそこは頑なに断らせて頂いた。
そのあとは昨日と同じくカーディガンを羽織り部屋を出る。早朝は既に過ぎており9時くらいだろうか、少しひんやりとした廊下は高級なホテルの雰囲気でコツコツと響く足音が非日常感がある。
「ちなみにですがいつ頃聖域に戻るつもりでしょうか……?」
「聖域?」
「ナコさんのいらっしゃった山頂のことです」
「あ、ああ、あそこのことね。とりあえず今日城下町を見たら一回帰ろうかとは思ってるんだけど」
素直に思っていたことを告げると横を歩いているリティアから明らかに落胆のオーラが漂ってきてギョッとする。
「そうですか……」
慌てて横を見ると視線を落としているリティア。その声から寂しさやら悲しさやら伝わってきて非常に焦る。しかしずっとここにお世話になっているわけにもいかないから慌てて釈明するように口を開く。
「その、基本あそこにいると思うしリティアもいつでも遊びに来なよ! ちょっと遠いけど! 歓迎するから!」
「……ありがとうございます。ぜひ遊びに行かせてもらいますね」
そんな私の言葉に少しだけ声の調子が戻ってくれてホッとする。そんなやりとりをしつつ食堂につくと扉の前に待機していた使用人によってそこが開けられる。
「まあ、もう驚かないけどさ……」
食堂、と言ったって会社にあるような社員食堂や学校とかにある食堂とは違う。なんたって王城なのだ。埃すら浮くのを許されないかの如く綺麗に整えられ、豪華そうな装飾品が並び、これまた明らかに高そうな長テーブルに椅子が並んでいる。たぶん椅子一つでも家賃数ヶ月分ぐらいは軽く補えそうだ。
「あ、ナコ様だ!」
「二人ともいらっしゃい。さぁ、席について」
そしてそこにはリティアの母のクリシュナとその膝の上に抱きかかえられる形でミリナが待っていた。
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