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【1万PV達成!】天は二物を与えず(仮)  作者: Kuu
第3章 『何も望まなかった中の上』
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第41話 片桐家



 エレベーターが止まり、一緒に降りて右に曲がると、楓は三つ目の扉の鍵を開けた。


「ただいまー!」

 楓が中に入ると、玄関には二匹の犬と、その後ろに一匹の猫が待っており、楓の帰りを喜んでいた。何れもかなり年老いて見える。

 その気持はよく分かる……。俺もそうだったからな。

「おかえりー」

 廊下の奥のドアを開け、美月が出てきた。

「美月!」

 俺は思わず声に出た。

「あら? 楓、こちらの学生さんは?」

「小鉄」

 楓は俺を指差した。

 いや小鉄って……。

「ど、どうも……お邪魔します」

 俺は頭を下げた。どう反応して良いのか困る……。

「……小鉄?」

「の、生まれ変わり」

「は……?」

 美月は固まった。

「ほら、この間話したじゃない。駅のホームで『俺が小鉄だ!』って言った高校生がいたって」

 いや、そんな風には言っていない。

「……あー、ってあの子!?」

 美月は驚いた。そりゃそうだろう……。

「うん。今日また居たの。ほら、あがって」

「いいですか?」

 俺は美月を見た。

「あ、あぁぁ。ど、どうぞ」

 美月は俺を招き入れた。

「おじゃましまーす」

 俺は靴を脱ぎ、中に入った。


 俺は中に通されると、大きな居間の椅子に座った。楓は隣の部屋で子猫の世話をし、美月は三人分のお茶を入れてくれた。


「でね、色々話してみたら、本当に小鉄の生まれ変わりだったの」

「そうなの?」

「うん。私の胸のほくろのことも、最後に残した言葉も、全部知ってた。もちろん、お母さんの名前もね」

「……本当に、小鉄なの?」

 美月は俺を見た。

「はい」

「……私が小鉄の写真集の振込額を見て、驚いたときの金額は?」

「五十万」

「……最初のテレビの取材で頂いた、お礼の中身は?」

「猫缶」

「あれは美味しかったの?」

「そりゃもう! 格別だった」

「カリカリとどっちが良かった?」

「それぞれに特徴があって、どっちが良いとは言えない」

 俺が即答すると、美月は固まっていた。


「……本当に……小鉄なの?」

 美月は楓を見た。

「うん。私が認めるんだから、間違いない」

「本当にそんなことが……」

「うん、あるみたい。そもそも、小鉄の中身って人間だったじゃない?」

「ああ、そうね」

「その理由が、これ」

 楓は俺を指差した。

「え、じゃぁ、本当に人間だったってこと?」

 美月は俺を見た。

「少しだけ違います。人の知識を与えられた猫だった。です」

「それは言ってもいいの?」

 楓は俺を見た。

「あ……いや。忘れてください……」

「ね?」

 楓は美月を見た。

「本当だ……」

 美月は呆けていた。

 いや、今の会話のどこに信用に足る内容が!?

「小鉄、ご飯食べてくでしょ?」

 楓が言った。

「良いのか?」

「もちろん!」

「じゃ、頂きます」

「小鉄のご飯って、人間用で良いのかしら?」

 美月は俺を見た。

「いや、今は人間なので……人間用でお願いします……」

「うん。じゃ、用意するから待ってて」

「はい」


 その後、美月は夕食を作りながら、俺を質問攻めにした。だがその内容はほぼ楓からされた質問と同じで、楓は自分がわかる質問は全て自分で答えていた。


「あら? 小鉄は今も小鉄って名前なの?」

「ううん。ちゃんと人間の名前があるよ」

「お名前は?」

 美月は俺を見た。

櫻井(さくらい)蒼汰(そうた)と申します」

「あら、カッコイイ名前ね……小鉄とは大違い」

「えー、小鉄だってかっこいいじゃない!」

「あ、小鉄って、楓がつけたのか?」

「うん。私がつけた。……嫌だった?」

 楓は心配そうに聞いた。

「いや、気に入ってた」

「うん。良かった」

 楓は笑った。


 その後夕食を御馳走になり、楓と一緒に犬たちと散歩に行った。


「じゃ、そろそろ帰ります」

 散歩から戻ると、もう良い時間になっていた。そろそろ帰らないと。

「うん。送ってくよ」

「いや、一人で帰れる。最寄り駅は?」

「近いから送ってくって」

「いいのか?」

「私がそうしたいんだから、そうさせて」

「じゃ、頼む」


 俺たちは楓の家を出て車に乗り、楓の車で自宅へ向かっていた。


「また、会社へ行ってもいいか?」

「会社? ああ、あそこか。うん、良いよ。人手はいくらあっても足りないから」

「わかった。じゃ、手伝いに行く」

「うん。あ、でもお金は払えないよ?」

「いらない。楓が何をしているのか、何をしたいのか、もっと知りたい」

「おや? 惚れたか?」

「かも知れん……」

「生意気な……ナンパじゃないと強く否定したくせに」

「いや、あれは」

「うーそ。いつでも来ていいよ。と言うか、お願いします。手伝って下さい」

 楓はそう言って前を見たまま、軽く頭を下げた。

「ああ。そうさせてもらう」


 俺は自宅の前で降ろされた。楓の家からは車で十五分とかからなかった。


「じゃ、また明日」

 俺は車の中の楓に言った。

「明日も来てくれるの?」

「いいか?」

「嬉しい」

「何時に行けばいい?」

「うーん……迎えに来ようか?」

「え……良いのか?」

「いいよ」

 楓は笑った。とても可愛い、素直な笑顔だった。

「じゃ、頼む。何時に来る?」

「じゃー……六時半」

「わかった。じゃ、ここで」

「うん。今日はありがとう。また明日」

 楓は車の中から手を振った。

「おう、また明日」

 俺も手を振った。


 楓の車はそのまま動き出し、角を曲がって見えなくなると、俺は家の中へ入った。



「今日は盛り沢山でしたね」

「ああ、未だに信じられん……」

 俺は風呂を上がり、ベッドの上で横になっていた。

 もう逢えないかもしれないと思っていた楓は、俺のことを薄々勘付いていたようだ。俺が自己紹介したとき、楓はすぐに付いてこいと言った。楓も俺を探していたのかもしれない。

「……結構疲れてるかも……」

「明日も行くんですか?」

「ああ、夏休み一杯は行くつもりだ」

「そうですね。蒼汰はやることがないですし……彼女もいない、バイトもしない、なーんにもしませんもんね」

「お前、喧嘩売ってんのか?」

「いいえ。事実を述べたまでです」

「ぐぬぬ……」

 言い返せなかった。


 だが、ここから何かが転がっていきそうな、運命の歯車が回り始めそうな……そんな気がしていた。


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