第67話 ミロアの切り札
すみません、遅くなりました。
ミスルニア視点
「う、嘘だ……、そんなバカなことが……」
そう虚ろな表情で一人の男ーーミスルニア国王モールが言葉をこぼしていた。
「あれは我がミスルニアが幾月もの日々をかけ研究し、作り出した魔法だったのに……。それがたった、たった一撃で全滅だ、と……」
嘘だ冗談だろう? 意味が分からない、そんな否定の言葉ばかりが胸に湧きそして消えていく。
あれが切り札だったのに、それがまったく意味をなさなかった。想像はしていた。さっき経験もした。
されど、これならば或いは……。そんな私の期待を傲慢だと、馬鹿らしいと嘲笑う様に目の前に居る化け物は、それを完膚なきままに消し去っていった。いまや私達に興味を失ったのか他のドラゴンの方に意識を向けている始末だ。最早敵と認識していないのだろう。
そして同時に私の、いや、我がミスルニアの魔法使い全ての心をへし折っていきおった。
真っ白になり、それでもなんとか意識を前に向けた私の目に飛び込んできた同胞達ーー茫然と立ち尽くす者、膝から崩れ落ちている者、頭を抱えうずくまる者の姿。それがなによりの証拠だ。まだ本国には第二陣以降があるが、もはやこれ以上は召喚出来ないだろうな……。
「国王様……」
立ち尽くす私の後ろから聞こえるその聞きなれた声に、ゆっくりと首を動かし振り帰ると、そこに居たのは想像通り我が忠臣リニアスであった。しかし、その顔はいつもの凛々しい顔ではなく濃い憂いの表情であった。
「リニアスか……なあリニアス」
「……なんでございましょうか、国王様」
「私たちは、どうすればよかったのだろうか? 確かにあのドラゴンの魔法を私達は幾つか防ぐことが出来た。しかし、いざ切り札を切ってみれば、先程見た通りたった一撃、しかも私達が今まで見たことすらない程の大きさで、威力でまるで埃でも払うかのように吹き飛ばしていきおった」
「……はい」
「あの存在からすれば今まで私たちに向けていた魔法など児戯にも等しい、いやそれ以下のもの。それを私たちは愚かにも見誤ったのだな」
「恐れながら申し上げますが、たとえそうだったとしても我ら臣下のその心を奮い立たせるためにも致し方なかt「分かっておる」……国王様」
「……此度の戦は、ここまでだ。引くぞ、リニアス」
「……他の二国はよろしいので?」
「元来敵同士だったのが成り行きで組んだだけの事。構わんよ」
「……はっ、伝令を送ってまいります」
そう返事をし、下の者へと伝えに行くリニアスを見、そしてポツリと口からーー
「私たちは……神の如し存在にケンカを売ってしまったのだな……」
--そう言葉がこぼれたのであった。
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ミロア視点
「むむむ……」
そう言い唸るのは、ミロア国王レッジであった。
(よもやミスルニアがあのような手札を持っておったとはな。……そして、それを軽々とあしらうあの力。やはり、とんでもない)
急に自らの兵が眠らされてしまい、一時騒然とした兵たちを静め、なんとか体勢を立て直した直後に感じた膨大な魔力。
勢いよくそちらに振り帰ってみれば、ミスルニアの軍勢が円を組んで何かをしているのが伺えたのだ。
そして、ひと際その中心が光り輝き思わず目をつむり、光が収まるのを見計らい目を開けてみれば今まで見たことすらない存在が急に出現していた。
それに目を奪われているとさらに、驚くべきことが。
なんとこれまた急に地面から樹々が何本も何本も生えてきて、瞬く間にバカでかい人の上半身のようなものに変わったではないか。しかも、両手を組みそれを頭上へと掲げ勢いよく振り下ろし、デカい破壊痕を残しながらその存在たちを木っ端みじんにしたのだ。それに俺は衝撃を受けた。
このままでは簡単にやられる、と。
(どうやら俺達も隠し札を出すときのようだな)
どう考えても今のままでは負けることは必然。それならいっそ引くことも……と考えてみるも、いや、それはない、と頭を振る。なんと言っても我が国ミロアでは〝敵前逃亡〟は兵士の最も恥ずべきことという意識が強いのだ。理性では〝逃亡〟と〝撤退〟は違うと分かろうとも、感情面ではそれを全く理解しない。今、ここで無理強いをして国へ戻っても確実に不満が高まり、かなりの高い確率で反乱が起こるだろうことは容易に想像できる。……なんともままならぬ話ではあるが。
まあとにかく今更引けないことは、事実。ならば、さっさと手を打った方がよかろう。
それに先程の呆気なく眠らされるのこともあるしな。
そう考えると、一度大きく息を吸い、その時に喉や肺を魔力で強化ーー
「我らが勇敢なる兵士達よ!! 今こそ〝鬼の薬〟を飲むのだ! その腕、その足がちぎれようとも我らの力、あのトカゲに知らしめるのだ!!!!!!」
「「「オオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!!!!!」
--大声を張り上げ兵たちに伝達させる。
そして、すぐさま自らの腰にくくったちいさな袋ーー水を入れておける皮袋を二回り小さくしたものーーを手に取り、蓋をあけ中に入った液体を自らの口に注ぎ込む。
「グフッ!? ゲホッ、ゴホッ」
その液体が口に入った瞬間、体中がカッと熱くなり、息を吐きだすのもつらくなるほどの激痛が体中を走り抜けた。
その痛みに思わず咳き込むが、なんとか耐える。そのまま十秒ほど経って痛みが消えると同時、今度は体の奥底から凄まじい魔力がわき上がってくるのを感じた。今まで感じたことのない魔力量に思わず全能感すら抱くほどだ。
「ハア、ハア……。な、なるほど、これは、また、グッ!? あ、ああアアアアアアアア!!」
その全能感に酔えた時間は、どれほどだったか。次の瞬間には、再びの激痛と共に視界が赤く染まりだした。そして、意識すらも消えていきーー
「グオオ、グゥオオオオオオオオオオオオ!!」
ーー後には、一体の〝鬼〟が立っていた。




