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三頭と二十三人への転生記  作者: 水渡
第三章 三国戦争
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第60話 到着

 ミストから出陣して二日後。軍は、淡々と同じリズムを刻みながら歩を進めていた。


 俺も、気づかれないように軍の後方500メートル程離れた位置でひたすらその後を追っている。


 ……と、簡単に言ったが、実はここまでの道のりではいろいろなことがあった。


 あれは、ミストから出発して半日経った辺りだったと思う。大河から離れ山の方へと向かっていた軍に小型の魔物が襲いかかってきたのだ。しかも、一匹で。


 いや、軍相手に一匹ってバカじゃね? と襲撃してきた時には思ったんだが、これが案外バカでもなかった。

 

 それはなぜか? その答えは、襲撃してきた魔物の特性にある。

 

 始めにその魔物は、ちょうど軍の中央付近、その側面から襲いかかってきた。

 もちろん、それに気づいた軍は即座に迎撃態勢を整える。

 軍の構成として、最も内側に魔法部隊、次に騎馬部隊、最も外側に歩兵部隊という並びだったが、魔物に気づいた瞬間に、一番外に居る歩兵部隊が各々の武器を構え、魔法部隊がその前に半透明の膜を張ったのだ。


 その膜に、勢いよく向かってきた魔物が阻まれ、吹き飛んだ。

 どうやら俺達の防御障壁に似た部類の魔法らしい。


 で、吹っ飛ばされた魔物の方に目をやれば、すぐに態勢を直していた。

 その姿を見た俺は、ふと懐かしい思いにかられる。


 不定形で傍から見ても、いまにもプルンプルンという擬音語が聞こえてきそうなやわらかそうなフォルム。目や鼻、口に耳もなく、それどころか顔なんて概念自体知ったこっちゃない、そういわんばかりの体。

 そんな前世のゲームや漫画などでは、初心者の練習台として駆逐の嵐にあっていた(俺もお世話になっていた)あの存在が今俺の視線の先に居た。


 ここまで言えば、分かるだろう。


 そう、何を隠そう襲撃してきた魔物の正体とはーースライムであった。

 


 尚、俺の中のスライムは半透明又は水色っぽいというイメージだったんだが、実物は茶色だった。……少し、残念。


 で、その後に思ったのが、ああスライムならしょうがないかな。だって知能なさそうだし。である。


 しかし、この世界のスライムは、バカにするなといわんばかりに俺の想像を超えていったのだ。


 弾かれたスライムは態勢を戻した後、こりもせず再び突進していく。


 そして、膜にぶち当たり再び跳ね飛ばされると、今度はそれだけで済まず歩兵の一人が振るった剣に引き裂かれ真っ二つにされてしまった。

 ああ、これで終わりかなと俺が思った矢先、なんと真っ二つになったスライムはそのまま別々に動き出して再び攻撃し始めた。


 これに歩兵は焦ったのか、さらに剣や槍で攻撃し続ける。


 その結果、スライムは初め一匹だったのが二匹になり、それが分かれ四匹、さらに分かれ八匹とねずみ算しきに増えていき、気づいたときには百匹を超えるほどにまで増えていた。


 しかも、それだけなら初めよりかなり小さくなったスライムなど余裕だったろうが、なにやら一斉にもぞもぞとし始めると、次第に体が膨れ上がっていきしまいには、男たちの胸あたりまで届くような大きさになっていた。


 スライムたちの足元? に目を向けてみれば2、3メートル土が抉れていた。おそらく土を食って、デカくなったのだろう。ついでだが色が茶色っぽいのもそのせいだと思う。


 そして、自らの下の地面を食ったということは、その分自分の位置も他より低くなるわけで……。

 スライムが、穴から這いでてみれば全長三メートル越えの化け物集団が爆誕していた。しかも、厄介なことにスライムの弱点として前世で有名だった核の部分 (たぶんこちらもそうだろう)は、茶色の体表のせいで見えないというおまけつき。


 確かに、これなら軍相手に単騎での襲撃も可能だ。バカだと思って悪かったな、スライム。


 その姿を見た軍も本腰を入れたか、王を中心とした先頭集団と後方集団がスライムたちを囲い込むように展開した。


 その後は、人間とスライムの生き残りをかけて大乱闘だ。


 スライムたちは、自らの体を鋭くして、突き刺し攻撃を行ったり、その大きさを生かして上から被さり、取り込もうとしてくる。


 対する歩兵たちは、自らの攻撃が相手を増やすのを分かっているからか他の部隊の盾役に徹し、魔法部隊が高火力の火魔法や雷魔法でスライムを攻撃していた。騎馬部隊は、騎手の兵士が跳んで向かってくるスライムを槍で払っているのに加え、騎馬代わりの魔物達も魔法を放ったり、その巨体で押しつぶしている。


 だが、それ以上に暴れていたのが王と総大将の男を始めとしたあの王の間で見た上位層たちだった。

 ユースといわれていた男は今回の出兵にはついてきていなかったが、他の面々の暴れっぷりはものすごい。


 総大将の男は、全長三メートルほどはある虎型の魔物に乗って、戦場を縦横無尽に駆けまわっている。

 その戦い方は至ってシンプル。ただただ魔物のスペックに任せて高速で接近、すれ違いに真っ二つに切り伏せるだけだ。それだけなら、スライムの戦力が増すだけだろうが、大剣に何か能力が付与されているのか切られたスライムは、切り口からブスブスと煙をあげ最後には崩れていった。


 逆に王の戦いかたは、魔法と剣の合わせ技だ。


 巨大な象型の魔物に乗った王は、遠くのスライムには魔法部隊にも負けないような威力の火魔法を放ち、近くの敵には、腰に帯びた直剣を振るい切り裂く。当然、総大将のものと同じ付与がなされていた。


 その切れ味は、鮮やかで王の技量が相当のものであることをうかがわせる。

 

 その他の上位層の男たちも、ある者は槍を使い、ある者は魔法を連射し、またある者は、矢に魔力を纏わせ放っていたりと違いはあるが、その全てで練度の高さが分かる。


 俺はてっきり、総大将などの軍関係者は除いて上位層にいるような人間なんて、戦闘は部下に任せて自分は、後方でふんぞり返っているだけかと思ったんだが、どうやら違ったようだ。


 結局、上位層の活躍もあり、スライムたちは全て駆逐されたのだった。


 その後、軍は戦闘による負傷者を癒しながら、進んでいく。どうやら魔法部隊が、治療部隊も兼ねているようで軍の中で一番安全な内側で小型の馬っぽい動物に引かれた担架に乗せられていた。


 そのまま、数時間進んだらその日は野営をして休息した。


 翌日、朝食を済ませさらに前進。


 山を一つ越え、昼食のため一旦休憩していると、再び魔物に襲われた。今度は五十匹程の群れだ。

 

 襲ってきた魔物は猿のような体つきに、巨大な牙と長いツメを持っていた。体毛は山に紛れるためか緑や茶色が混ざり合っている。尻から伸びる長い尾には、鋭く細かい棘がいくつも生え、ひとたび振るえば、その後には無数の切り傷が残るのは想像に難くない。その大きさは、頭の先から尾の先まででおよそ二メートル程か。


 昼食中に襲われたため、初動は遅れた軍だったが、上位層による指示で素早く立て直していた。

 どうやら、戦闘面だけではなく、指導面でも優秀のようである。


 結局、スライムのように分裂しないためか、さっさと軍に掃討されていた。残念な猿達だったな。


 猿達を討伐した後は、さらに山を一つ越えた所で野営を行った。


 そして、現在。


 「報告致します、国王様! ただいま監視部隊から前方三キロ先に、ミロアと思われる軍を発見いたしました。真っすぐこちらに進軍しています! その数、およそ二千です!」


 「む! ついにか。全軍進軍やめ~! 我が軍はここで奴らを向かいうつ。魔法部隊は、我の合図でいつでも魔法を放てるように準備をせよ!」


 「「「はっ!」」」


 少し高い丘の上からミロアの軍を発見したミスト軍は、素早く展開していき戦闘準備を整えていった。


 『もりっち、聞こえる?』

 『夏葉か。ああ、聞こえるよ』


 少し離れた岩陰で、その様子を伺っていた俺の元に夏葉からの念話が届いた。


 『こっちから、そっちの軍が見えたよ。そっちは?』

 『ああ、こっちも見えてる。軍も展開が進んでるよ』

 『そっか、こっちm『二人とも、大変よ!』……ふぇ?』

 『どうしたあずさ?』


 『どうしたじゃないわ。大変なの。今、ミスルニアの軍の後を追っているんだけど、今までは北東方向に進んでいたのに突然進行方向が変わったの! しかも、ものすごいペースで進んでいってるわ』

 『え、だからそれの何が……』

 『問題よ! 今、ミスルニア軍が進んでいるのは西方向。そっちの方向にあるのはーー











 --ミスト軍の後方(・・)よ。このままじゃミストは、二つの国から挟み撃ちにされるわ!』


 ……へっ?

補足

総大将の虎型魔物の特徴:色は黄色と黒の地球のものと同じ。牙はサーベルタイガーのように鋭い。足は、丸太のように太く、尾は人の腕より太い。さらにその尾の先端には鉄のように固い球状の塊が付いている。雷の魔法が使える。


王の象型の魔物の特徴:茶色の体毛で全身を覆われ、一見するとマンモスのよう。しかし、長く伸びた鼻は金属光沢に輝いており、固さも鉄を超える。土の魔法が使える。

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