第57話 時間
『やばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばい』
『ちょっ、も、もりっち、お、おち、落ち着いて!!』
『落ち着くのは、二人共よ!?』
俺と夏葉の余りの焦りように、あずさが思わず落ち着くように言う。が、そのあずさの声も上ずっている。
というか、落ち着けるわけがないじゃないか、あんな話を聞いた後に。
大通りで女性二人の話を聞いた後、俺達は急いで千里眼で方向を確認して、そちらに急行した。
その時の誤算といえば、転移魔法が使えなかったことか。
王が居る場所とあってか、きっちり結界ーーしかも何層にもーーが張ってあったのだ。もちろん、破ろうと思えばできただろうが、この時間のない中じゃいちいち解除なんかしてられないし、無理矢理行けば確実にバレる。
てなわけで、途中まで全力の移動系統の魔法を使って走り、結界まで来たらたくさん出入りしている馬車にすばやく入り込んで魔力を隠蔽するという無駄に時間がかかる手法で侵入せざるを得なかった。
で、ようやく王達が居る部屋の近くにまでたどり着き屋根裏に忍び込めたのがついさっき。で、そこで聞いたのが、出兵が二日後に迫っているという事実。
『やばい、思ってたより全然ヤバい。どうする全く対策できてないぞ!』
『今更、軍とかに潜りこんでどうこうなんて出来ないよね……』
『無理ね。下手に妨害工作を行ったら、たとえ結果的に戦争を回避出来ても妨害は他の二国がやったと思いこんで、ヘイトが溜まってそう遠くない未来にまた同じことになるわ』
『じゃあどうすれば……ってそういや二人は、情報を集めてたんだよな? なら、もっと早く分からなかったのか?』
『うっ、今それ言うか……。だって、しょうがないじゃん。精霊達が集めてくる情報っていったら、「なんか人がたくさん居た~」とか、「おいしそうな匂いがいっぱいだった~」とかそんなのばっかで、それを何年も何年も矯正しながらやっとものになったのが、ここ数年なんだよ!?
……えっ? それなら自分で行った方が早いじゃんって? そんなのさっきのみたら分かるじゃん。大変なんだよ、入り込むの! しかも、国としては閉鎖的だからよそ者が居たらすぐバレるし、ずっと居たら居たで、お前一体何歳? ってなるんだもん!!』
『途中から誰に言ってんの、夏葉!?』
一旦休憩
『『『はあはあはあ……』』』
『もう一回言うわよ、私も含めて一回落ち着きましょう……』
『『了解……』』
ダメだ、落ち着いたと思ってたけど全然だ。……一旦深呼吸しよう。すーはー、すーはー。良し、たぶんOK。
『とりあえず、もうここまで来たら戦争を未然に回避するのは無理だと思った方が良いと思うわ』
『やっぱり、そうなっちゃうか……。あっ、そうだ、幻術魔法を使ってみたらどうかな?』
『厳しいんじゃない? 下っ端にかけて妨害させても、その人が消されて終わりだろうし、王にかけたらかけたで、その下の上位層があの調子じゃ下手したら内乱になりかねないわ』
あずさの言葉によみがえるのは、あの場に居たお偉方と思われる面々の顔。
どいつもこいつも、いまかいまかと戦争を待ちわびた顔をしていた。そんな時に王から、中止の命が下されたとしたら……、良くても国全体の混乱、最悪ミスト全体を巻き込んだ内乱だ。そしたら、他の二国に攻める好機を与えてしまうだろう。
『恐らく他の二国も戦争の準備は、ほとんど完了しているはずだ。たとえミストを止めたとしても、そちらは動くと思う。……なら、全部いっぺんに止めたらどうだ?』
『もりっち、どういうこと?』
『つまりな……』
『ってなわけ。どうだ?』
『ん~。五分五分ってトコかしら』
『ていうか、もりっちもまた、賭けに出るようなことを平然と……』
いや、それは分かってるよ、もちろん。失敗したら徒に戦場を混乱させることもな。でも……
『でもさ、ぶっちゃけどうしようもなくないか? ここまで来てしまった以上、いっそ出兵させた上で戦場でケリを付けることが一番早いだろ』
『…………………………そうね。うん、そうしましょう』
『いいの、あずさ? けっこう賭けだよ?』
『うん。今更感はすごいけど、結局前世も含めてこんな国の行き先を決めるような大事に関わったことなんて皆無な私達に優秀な作戦なんて立てられるわけがないんだもの。だったら、作戦はシンプルな方がいいでしょ』
『そっか……。良し、ならそれでいこう!! 大丈夫、成功するって(たぶん)』
夏葉、たぶんって。
『ふふふ、ありがとね。じゃあ、私達も細かいところを詰めましょうか』
『うん、頑張って成功させようね!!』
……どうやら、まとまったみたいだな。
だけど、忘れていることが一つ。
『二人とも~、盛り上がってるトコ悪いけどさ。まずは、ここから出なきゃいけないだろ?』
『『あ』』
その後、俺達は行きと同じようにせっせと隠れ逃げたのだった。




