第44話 その後3
海に飛び込んだ俺は、瞬時に顔の周りに魔法で空気の膜を作り出した。
ちなみに顔の周りだけなのは、体全体に膜を張っちゃうと泳げなくなるという単純な理由だ。
後ろを見れば、夏葉も顔のみに膜を作っている。
そのまま、膜を維持しながらグングンと海底へと潜っていく。
『それで夏葉。このままのペースだとどのくらいであずさのトコに着くんだ?』
海の中なので当然念話で聞く。
『うんとね~。……確か深さが、三万メートルとか言ってたk『うん。ちょっと待とう』……何?』
『えっと、いや、あのさ深さ三万メートル? そんな深いなんて聞いてないんだけど……』
『うん、言ってないもん』
『言ってないもん、じゃないんだけど……。参ったな、ぶっちゃけ俺達の体格って泳ぐのに向いてるってわけじゃないし、その上深さ三万メートルか。……なんかめんどくさくなってきた』
『アハハ。じゃあ、ペース速めようよ。お互い加速できる魔法はあるんだし』
『あるにはあるけど俺のは雷属性だから痺れるぞ』
『あ、そっか。それなら気長に行こうよ。私も付き合うし』
『わりぃな。……今まで特に気にしてなかったけど、海中用に新しく魔法を覚えようかな』
『それならちょうどいいし、あずさに教わりなよ』
『ああ、そうするよ』
俺たちはそんな念話をしながらも、休まず海底へと潜っていく。
そんな時だった。
『ん? ……なあ、夏葉』
『……うん、なんかいるね』
近くに大きい魔力を感じたのだ。
もちろん俺や夏葉のレベルではないが、それでも結構大きいように感じる。
ちなみにこの感じるというのは、魔法での探知では無く、いわゆる気配とか第六感とかそういうものだ。
『この感じは……あっちか? 千里眼で見てみるか』
気配を感じたのは、俺達より深いところでやや前方。その方向に千里眼を向けてみる。
……そして、そこに居たのは前世でよく耳にした存在だった。
まずそいつの胴体は、赤黒く長い。例えるなら前世で見たイカの体にタコのような色といった感じだろうか。そして、一番目立つのが胴体と同じ色をし、さらに自由自在に動き回る八本の足だ。これに関しては完全にタコそのものといって良い。ここまではまあ、前世の地球でも似たようなのは居たんじゃないだろうか。
が、一つだけ決定的に違うものがある。それは……
『でっか!! なにあれイカってあんな大きかったっけ?』
夏葉の言う通りその大きさだ。そいつの大きさはおそらく百メートルはあるだろう。地球で最も大きいとされていたイカでもせいぜい二十m程度だったはずで、もはや比較にならない。
そう俺達が見たのは地球で伝わる海の魔物の代表格ーークラーケンだった。
~~~
『ほんとでかいな~。でもちょっとおいしそう?』
『え……。あれ、うまそうか? 今の俺達は何も食べなくても平気なんだし、わざわざあんなゲテモノなんか食べなくても……』
『別に食べなくてもいいってだけで、食べれないわけじゃないじゃん。せっかく異世界に転生したのに地球の常識引っ張るのはもったいないよ。ていうか、逆にいつまで引っ張ってるの?』
『そりゃそうだけどさ……』
ジ~~~~~
夏葉のジト目が刺さる。
『……ハア~~、分かった。食べるよ』
『エヘヘ、そうこなくっちゃ。よし、それなら早速捕獲しよう。行くよ』
そう言って、夏葉は一気にクラーケンに向かって加速していった。
(後で、あずさにも押し付けよう)
『もりっち、早く!! 見失っちゃう!!』
俺がそんな事を考えているとあずさがそう念話を送ってくる。
俺は思考を切り換えて夏葉の後を追った。
~~~
『もりっち、いたよ!!』
先行していた夏葉からそう念話が送られてくる。
『了解。……俺も今確認した』
夏葉から遅れて、俺も目視で確認する。やっぱり大きいな。この体でも腹いっぱいになりそうだ。
『それで、どうやって倒そう……。後で、食べるつもりだから出来るだけきれいな状態でしとめたいんだけど』
『それなら、俺が軽く電撃当てて痺れさせるから、そこを夏葉が仕留めてよ』
『うん、分かった』
『あ、障壁ちゃんと張っといてくれよ』
『りょ~かい』
そう返してきた夏葉が、魔法で障壁を張る。この障壁とは、無属性に分類されるもので魔力によって純粋な壁を張る魔法で、全ての属性障壁の基本となるものだ。
夏葉が障壁を張ったのを確認した俺は、雷魔法で一番弱い部類に入る≪サンダーショック≫を発動する。もちろん自分自身に障壁を張るのも忘れない。
俺から放たれた電撃は、海中を縦横無尽に駆けながらもクラーケンの元へと向かっていく。
電撃に気が付いたクラーケンは、それから逃れようとするも、それが出来るはずもなく直撃していた。
(よし、命中!! 後は、夏葉に……!?)
「ギュエエエエエエエエエエエ!!!!!!」
電撃が決まったと思ったのもつかの間、クラーケンが海中に響き渡る咆哮をあげた。……つか、どこで声出してんだろ……。
と、まあそれは良いとして。
『ゴメン、夏葉。効きが弱かったみたいだ』
『……もりっち幾らなんでも舐めすぎだよ。あいつ結構魔力量も多そうだし、もっと強力なやつじゃないと』
『ああ、これは反省だな。……夏葉、もう一回やるから頼めるか?』
『オッケー。次は頼んだからね』
『ああ』
咆哮をあげたクラーケンは、俺達の方へと血走った眼を向けると一気に接近してきた。その速さは、巨体や海中といった条件にも関わらずかなり速い。すぐにここまでたどり着くだろう。だから、その前に仕留める!!
(次は、威力重視だ。多少食べにくくはなるかもしれないけど、また決めきれないよりはましだ)
そして、俺は次の魔法を用意する。
先程よりも、多くの魔力を練り込むと迫りつつあるクラーケン目がけて解き放った。
放った魔法は雷魔法≪雷大槍≫
初級の≪雷槍≫の上位互換の魔法であり、貫通力や電圧も強くなっている。
俺から放たれた≪雷大槍≫は、周囲の水を瞬間的に沸騰させながらクラーケンに突き刺さり、それ同時に一気に電撃をクラーケンの全身へと叩きこんでいく。
「ギュエエエエエ……」
それによって、クラーケンが目に見えて弱っていく。というかこれでも、まだ完全には仕留められないか。俺の中では中級くらいの魔法だと思ってたんだけど。思ってたより、雷耐性が強いのか?けど……
『夏葉!!』
『オッケー。任せて!!』
そして、素早くクラーケンに接近するとその胴体部分を翼で切り裂き、とどめを刺した。
『よっしゃー、仕留めた。早速試食を』
『ああ。でもここじゃなんだし、あずさのトコまで持ってこうぜ』
『う~ん。うん、そうだね。そうしよう』
そして、俺達は途中で手に入れたお土産を手に、また潜り始めた。
なお、あずさの住処に着くまでにクラーケンのにおいに誘われた海の怪獣達に襲われまくったのは余談である。




