表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
20/21

ジョーカー

 俺はギリギリのところで大百足の顎を両手でつかんで止めていた。体には、とてつもない力が溢れている。


「第二楽章だ!」


 俺は腕を振って、大百足を前に投げ飛ばす動作をする。実際には投げ飛ばせなかったが、それでも大百足はのけぞり、距離をとることに成功する。

 俺がやったことは何かを代償に精霊の力を頼る方法だ。代償は俺の命の保証はないこと、ジョーカーの力は『憑依』。

 道化師は、人に見て貰わなければ成り立たない存在だとも言える。その道化は、他人に見られなければ道化でなくなるのだ。つまり、道化師は『人の中にあって』はじめて道化師と言える。その性質の集大成ともいえるのがこの憑依だ。

 ジョーカーは俺に憑りつき、感覚、知能、魔力……何もかもを共有する。しかし、体を動かすのは俺だし、魔術を行使するのも俺だ。ただ、その感覚や魔力はジョーカーと共有する。ジョーカーはとてつもなく優れていて、感覚はとても鋭敏だ。さらに、遺跡で練習してきた『サーチ』と『ソナー』を使って相手の攻撃や周りの物の位置を把握しやすいようにしてある。つまり、

「さぁ! 頑張れよ!」

 俺はトランプを五四枚すべて使えると言う事だ!俺は空中にトランプをばら撒き、その全部を、指揮棒を使った『テレキネシス』で制御下に置く。面白いぐらいにすべての動きが良くわかる。とてつもなく気持ちいい。

 そしてトランプは、ものによって火を纏っていたり、風を纏っていたり、水を纏っていたり、土を纏っていたりする。

 トランプの起源はタロットカードだと言われている。クラブは杖、スペードは剣、ハートは杯、ダイヤは円盤にあたる。杖、剣、杯、円盤はそれぞれ順番に、火、風、水、地を象徴する道具だ。つまり、クラブは火、スペードは風、ハートは水、ダイヤは地を象徴するのだ。この考え方を採用し、イメージを後押しすれば、このようにマークごとに各属性を纏わせることが出来る。しかも、それぞれに大量かつ高純度の魔力を込めているため、威力は折紙つきだ。全ての属性に適性がある俺とジョーカーだからこそ出来る荒業だ。

「――――!」

 大百足は一気に数が増え、スピード、威力、性質ともに一気に違ってきたトランプに襲い掛かられ、必死になっていた。脚は次々と斬り飛ばされ、甲殻は傷ついていく。

「さぁ! まだまだ行くぞ!」

 俺は指揮棒を大きく振って『マギアバレット』で魔弾を十個同時に作る。その一つ一つにも高純度の魔力が大量に込められている。

「行け!」

 指揮棒を思い切り大百足に向けると、その十個の魔弾は大百足に襲い掛かる。そして、

「――――!!」

 その全ては大百足の身体を貫いた!身の危険を感じた大百足は暴れまわり、俺に攻撃を加えようとする。槍のような脚が、色々な角度から時間差をつけて俺に襲い掛かってくる。

「それ!」

 ここで俺はまた細い糸を取り出し、すれ違い様に脚に巻きつけて思い切り引っ張ってまた一本の脚を斬る。しかも、向こうの攻撃は俺が躱し、回って往なし、受け流し、全てが当たらない。ひらひらと、くるくると回りながら躱している俺の姿は、相手を馬鹿にして、ふざけて楽しむ『道化師』の様だろう。

 そこらじゅうに大百足の透明な体液が飛び散り、草はどんどん枯れてゆく。大百足の傷は片っ端から再生していくが、それを超える速さでトランプが傷をつけていく。傷口は火で焼け、水で濡れ、鋭く斬れ、土で汚れてと様々な様相を呈している。

 トランプはランダムに動いているように見えて、実は計算づくで『動かして』いる。一枚躱した先には二枚。正面から来たかと思えば死角を突いてそれより多くのトランプが襲い掛かる。その全ては、十三×四で計五二枚のトランプは全て俺が操っている。

 ジョーカーの力はとてつもないな。『切りトランプ』の中でも『切りジョーカー』とされるだけはある。

 鋭敏になった感覚でランダムに撒き散らされる毒液を回避しながら、俺は指揮棒を振ってトランプを操り続ける。

「――――――!!!」

 翻弄されていることに大百足は怒り狂い、再び体を持ち上げて脚を振り上げる。その巨体からはあの生命力と魔力が大量に溢れ出てくる。あの強力な一撃でトランプを全て吹き飛ばすつもりなのだろう。

「そうはさせるか!」

 俺は指揮棒を『フォルテッシシモ』を意識して思い切り振り、『マギアストーム』で魔力の竜巻を起こす。

「――――――ッ!!!」

 大百足は先ほどとは比べ物にならないほど強力な魔力の竜巻に呑まれ、体勢を崩した!その隙にまた五二枚のトランプが襲い掛かり、さらに傷をつけていく!

 しかし、体勢を崩してもなお振り下ろされたその巨体から放たれる魔力と風圧によって、魔力の竜巻とトランプは吹き飛ばされる。

「っ!?」

 大百足が放つ空気がさっき振り下ろされた時とは違う。これは防御ではない。攻撃!?

「嘘だろっ!?」

 勢いよく振り下ろされた脚は地面に突き刺さり、抉る。まわりには大小問わずたくさんの土や石の塊、中には岩と呼べるものさえ飛んでいる。それが、俺に向かってきているのだ! なんてしつこい奴だ!

『マギアウォール』!」

 俺は無属性上級魔術『マギアウォール』で作った魔力の壁でそれらを防ぐ。『マギアボール』とかと同じ理屈で、魔力は密度が高くなると実体を持つようになるのだ。

 俺が飛んでくる岩から身を守っている隙に、何本もの脚が上から俺に襲い掛かってきた。

「よっ! それっ! はっ!」

 俺はそれらを先ほどと同じく踊るように躱すが、上という見にくい場所からの攻撃に、感覚が鋭敏になり、二つの周りを把握する魔術を使っているとはいえ対処しきれない攻撃も出てきた。やっぱり、どうしても視力に頼ってしまうから上を取られると不利だ。こうなったら、

「一か八かだ! 『フライ』!」

 俺は遺跡の練習でもいい成果が出なかった『フライ』を使ってみることにした。俺の身体は大百足の脚をくぐって跳び上がる。その高さは二十mほどだ。そして、空中にとどまる事にも成功し、上下左右斜めすべての方向への移動もスムーズに行える。魔力の扱いと密度、それと感覚が鋭くなったからこうしてぶっつけ本番で出来たのだろう。

 その二十mという高さは、ちょうど体を起こした大百足の複眼の高さと同じだ。これで高さの上では対等だ!

 フォルテッシモ!」

 指揮棒を強く振り、トランプの何枚かを大百足の頭の方に回す。その勢いづいたトランプはその触角を斬り裂き、複眼を傷つけ、その強靭な顎すらも折る。

 大百足は目に見えて弱り始めた。再生のスピードはまだあるが、それでも動きが鈍ってきた!

 そろそろ終曲フィナーレだ! 徐々に強く(クレッシェンド)!!!」

 俺は、戦いという『スケルツォ』を終わらせるべく、フィナーレに向けてクレッシェンドをかけた。トランプは徐々に勢いを増し、より苛烈な攻撃を加えていく。

『切りジョーカー』!」

 さぁ、行きますよ!』

 俺は、残していた『二枚のトランプ』を空中に投げ、それを制御する。それは、どのマークにも含まれない『ジョーカー』だ。そして、ジョーカーが俺を通してそのトランプのジョーカーに大量の魔力を注ぎ込むのを感じた。体から力が抜けていくのを感じるが、無理矢理持ちこたえる。ここで終わるような『無様な真似』は手品師としても、音楽家としても許されない!

 音量まりょくは最高潮! ついに『スケルツォ』はクライマックスを迎える!

 総奏トゥッティ!!!」

 全ての意志と魔力を込めて二枚のジョーカーを放つ! ジョーカーは風を切ってうねり、その風圧だけで近くにいた俺の身体が傷つくのを感じた。

 二枚のジョーカーは、五二枚のトランプによって弱った大百足に襲い掛かる!


「――――――――ッ!!!」


 危機を感じたのであろうオオムカデが、今までで一番大きい声を上げ、抵抗する。


 しかし、二枚のジョーカーはそれを許さない。


 それらは、突きだされる顎、脚、頭を通り越して胴体へ。


 二枚のジョーカーに集まるように、五二枚のトランプも集まる。


 五四枚のトランプ、『五十四の奏者』は、大百足の胴体の一か所へと殺到する。


 そして、


「――――――――ッ!!!」


 大百足は悲鳴を上げ、胴体の真ん中から『両断』された!


「――――……――……」

 大百足の悲鳴は少しずつ小さくなって行き、ついに、


 その体は崩れ落ちた。そして、微動だにしない。


「フィナーレだ!」


 俺は両手を上にあげて手を閉じる。それとともに、トランプはすべて空中に浮かせていた箱の中に納まり、動くのを止める。それを確認した俺は、トランプと糸と指揮棒、それと投げっぱなしだったコインを回収して全部しまう。そして、『フライ』を解除して地面に降りる。

「っ!」

 集中力が切れた途端、ふらりと倒れそうになるが、無理矢理体を起こす。

『ほら、最後を締めくくらないとお客様に失礼ですよ?』

 ジョーカーがニヤニヤ笑いながら俺を促す。指し示すのは、俺とジョーカーと大百足の戦いを見ていた義勇兵たち。

 分かってるよ。指揮者としても、手品師としても『ショー』の後には礼をするのが礼儀だ。指揮者なら黙って礼をするけど、俺は手品師だからな。格好つけさせてもらおう。最後の力をふりしぼり『ハイパーフォンシス』で俺の声を皆に届くように大きくする。

(折角だから俺と合わせて言えよ?)

『分かりました。君も派手好きですね』

 ジョーカーも俺と一緒にやってくれたんだ。礼はすべきだ。

 地球で、俺がショーの後の礼で必ず言う言葉を、二人で口をそろえて皆に言う。


『「それでは皆様、ごきげんよう。お粗末さまでした」』


次回最終回です

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ