杖
ここしばらく、メモ帳から貼りつけて投稿、という行動すら出来ずに遅れてしまいました。もうしわけございません。
「いやぁ、助かったよ。これ、今回の報酬ね」
そう言ってエレンさんは俺たちに大銀貨を二枚ずつ渡してきた。
「え、あの……多すぎませんか?」
俺は思わずそう言ってしまった。確か報酬は大銀貨一枚と銀貨五枚だったはずだ。
「ああ、大丈夫大丈夫。それはチップみたいなものだよ。君たちのおかげでこんなに早く着いたんだから」
エレンさんは朗らかな笑顔でそう言った。
そう、俺たちは今、『シンベラ』の街の中にいるのだ。昨晩の計算通り、夕方には街に着いた。
「あー、それはわざわざすみません。ありがとうございます」
俺は軽く頭を下げて謝意を伝える。いい人だなぁ。
ちなみに、二人は貰ったら、すぐにお礼を言って受け取った。後から聞いた話によると、必要以上の仕事をした場合はこうして増額してくれる場合が結構あるらしい。
「いやいや、ご主人様からもいい冒険者にはしっかりそれ相応のお礼をしろ、って余計に貰ってたからね。それじゃ、僕が働いている『アリエル商会』をご贔屓にね」
エレンさんはそう言って、街の雑踏へと消えていった。
「さてと、じゃあ宿でも取りに行くかね。ありがとうな、二人とも」
「い、いえ。お、お疲れ様でした」
「はーい、お疲れ。じゃああたしたちも適当に宿でも探しますかね」
こうして俺たちは、それぞれが目指す場所へと向かった。俺は入り口の方向にいったん足を向ける。
「……初めてだから地図を買わないとな」
はじめての大きな町で、地図なしで宿屋に直行できると思ったら大間違いだ。
■
入り口近くにある店で街中の地図を買い、それを頼りに冒険者ギルドを探す。ここはおすすめの宿や武具屋、道具屋なども紹介してくれるからだ。
ベースドラのギルドの二倍ほどある大きさのギルドの中に入ると、もう大分酒場はにぎわっていた。成功に喜ぶ人、その逆の人と様々だ。中には片腕が無い人なんかもいて、どことなく冒険者の大変さがにじみ出てくる。
「すみません、銀貨三枚で一泊できるような宿を紹介して貰えますか?」
「はい、少々お待ちください。……それでしたら、ここから出て右に真っ直ぐ行った突き当りにある『シャローム』がおすすめです」
「ありがとうございます」
ベースドラよりカウンターが沢山あるうちの一つを適当に選び、そこに座っていた受付嬢に質問をして、答えを聞く。お礼を残してその場を離れて、教えてもらった場所に向かう。
すると、わりかしすぐ近くにそこそこ大きめの宿屋が見つかった。店の名前は『シャローム』……よし、あっているな。
一泊銀貨二枚で風呂なし、朝のみ食事ありだ。五泊纏めてとれば銀貨九枚にしてくれるらしいので、五泊取る。大銀貨一枚渡して御釣りを受け取ると、俺は部屋に向かった。
家具の質はなにもかもそこそこだった。うん、どこまでも普通だ。ただ、朝食がとても美味しいらしいので、明日の朝は期待だな。
「さて、夕飯でも食べに行くかね。ついでに武具屋で装備を調達してこよう」
俺はそう呟いて、近くの飲食店へと向かった。
■
興味本位で頼んだスパゲッティがとんでもないゲテモノだった。イナゴの小さい版みたいな虫の塩漬けが具だったのだ。見た目は最悪だったが、とりあえず食べてみると味は普通だった。ただ、見た目がすこぶる悪くて、完食したころには大分テンションが下がってしまった。食べている間はずっとジョーカーが指さして大爆笑してやがった。こいつめ、嫌な場面で笑いやがった。
低いテンションのまま、俺はこの街で一番大きい武具屋へと向かう。その名は『アリエル武具店』。エレンさんが働いている商会の系列だ。初心者用からDランクぐらいまでの品ぞろえがあり、また品質もそこそこ良く、値段もリーズナブルらしい。Dランクまでの冒険者の味方だな。また、たまに掘り出し物が出ているらしいから魅力だ。
店の大きさは大きなスーパーぐらいで、二階まである。一階は防具、二階は武器だ。
さて、俺がここに何を買いに来たのか。それは『杖』だ。杖は魔術師の必須道具ともいえる物で、魔術の発動を補助したり、使う魔力を減らしたり、効力を高めたりする。駆け出し冒険者はわりと使ってないが、Eランクになるころには大体の人が使う。ジャリスさんの場合は木製の一mほどの杖だ。これはジャリスさんの日常生活用の安物で、大銀貨二枚ほどで買える。あと、時間があれば防具も見ていく予定だ。
装備にもピンキリは当然ある。素材、質、大きさ、丈夫さ、効果、そして付与された魔術だ。
魔術が付与された道具や武具を『魔道具』と呼び、この効果の内容も装備選びの際は重要だ。また、素材によっては最初から効果を持つ物もある。
俺は二階へと登り、店内を見て回ろうとする。えーと、杖のコーナーは……
「あれ? ユウスケくんじゃないか」
「ん? あ、エレンさん」
なんとびっくり。店員の制服を着たエレンさんと出くわした。どうやらここで働いているようだ。
いやぁ、まさかこんなすぐに会えるとはね。で、何を探しているんだい?」
「あー、そろそろ杖が欲しいな、と思いまして」
「お、そうかい。じゃあこっちだからついておいで。ついでに選定も手伝ってあげるから」
「ありがとうございます」
こんな会話を交わして、俺たちは杖のコーナーへと足を向ける。
そこには、様々な杖があった。大体は一mほどの棒状のもので、先端に結晶がついている物だったり、魔物の素材が使われていたり、金属製だったりと様々だ。変わり種として、錫杖と言う、金属の輪っかが先にいくつかついていて、揺らすと音がなる杖なんかもあった。
他にも、某魔法学園小説の世界で一般的に使われているような三十cmぐらいの杖もある。こちらは全部木製だ。片方の先端が細くとがっていて、そこから少しずつ太くなっていく形になっている。
なるほどねぇ。説明を見る限り、物によってあう属性があるそうだ。使っている素材によって、水が強かったり、火が弱かったり、風と地に対応していたりと様々だ。
「確か、ユウスケくんは風と地だったよね?Eランクだったら……将来の事も考えてこれくらいでどうかな?」
といってエレンさんに渡されたのは、風と地に対応している、木製の一mほどの杖。お値段は金貨一枚だ。ランクとしてはDランクぐらいだが、Cになっても不足はない性能らしい。
うーん、気持ちは嬉しいんだけどな……。俺は、実際は無属性メインで、全属性を使う。となると、そんな風に特化している杖を選ぶと後々バランスが悪くなる。となると、何かに特化していない全属性対応、別の言い方で『器用貧乏な杖』を選ばなければならない。……む、なんかその言い方だと途端に自分が情けなくなるな。
「あー、すみません。もうちょい品定めさしてください」
「ん、いいよ。杖は魔術師にとっては命も同然だからね」
俺はそう言って何にも特化していない杖のコーナーを見る。こちらは安物がほとんどだ。まぁ、確かにそうなるよなぁ。一般向けの大量生産品にしかならないもん。
俺はそう感じてため息を吐きながら次の棚を見る。
『こっちのみーずはあーまーいぞー♪』
すると、いきなりジョーカーが歌いだした。ものすごく楽しそうなしたり顔を俺に向けながら、別の棚を指さしている。
(今度は童謡かよ! 何が『こっちの水は甘いぞ』だよ)
俺は心の中でジョーカーに突っ込む。あまり思い出すと気分が良くないから詳しくは省くが、こいつはここまでの道中で散々俺を騙して遊んでいた。魔物が来た、盗賊が来た、ドラゴンが空を飛んでいる……それらに引っかかるたびにこいつは『ジョークジョーク! キャハハハハ!』と笑ってきやがった。いやぁ、よく堪忍袋の緒が切れなかったね。
そんななわけで今俺はジョーカーに対する信頼はあまりない。しかし、ここであることを思い出した。
(そういえば、リリアとエリスを見つけたのもこいつだったな。よし、ここは信じてみるか)
そう決めると、俺はジョーカーが指さしている棚を目指す。ダメでもともとだ。
「おや? そっちは掘り出し物のコーナーだけど資金は大丈夫かい?」
エレンさんが不思議そうにそう言いながらついてくる。なるほど、そこには質が良さそうな武器がずらずらと並んでいた。宝石が埋め込まれた剣や、綺麗な光沢をもった短剣、不思議な形をした弓などだ。どれもがそこそこの魔力を放っている。値札も金貨や大金貨単位だ。
ここは、『古代遺物』のコーナーだ。この世界のところどころに存在する古代遺跡には、さまざまな物がある。昔の硬貨や家具や石版、そして武具と道具。これらは、偶に強い魔力を帯びており、様々な効果を発揮する。中には現代の技術では不可能なレベルの強力な効果を持つ物も存在する。これらは、古代の技術がいかに発達していたかをうかがわせる物となっており、その遺跡の調査は、一攫千金や強力な装備を夢見る冒険者が請負っていたりする。というのも、遺跡には例外なく魔物が棲みつき、強力な物が隠されていると思われる場所ほど魔物も強力になるそうだ。
で、その古代遺跡から発掘されたもので、何かしらの効果を持っている物が『古代遺物』と言うわけだ。ちなみに、『ストレージ』と同じような効果を持った便利グッズ、『拡張鞄』も古代遺物だ。
なるほど、ジョーカーはここを示していたわけだ。ジョーカーは、ある一つの品を指さして、同じフレーズを歌い続けている。
俺はそこに近づき、その品を見た。そこにあったのは、三十cmぐらいの棒だ。片方の先端はとがっていて、もう片方は丸くなっている。丸くなっている部分以外はとても細いうえに凹凸がなく、すらっとした印象を与える。細い部分はなめらかな白で、丸くなっている部分は木製だからか茶色く、何かの木で出来ているのがわかる。俺はそれを見て、固まってしまった。
「あー、それか。それねぇ、一応かの有名な『コンドゥクト遺跡』から見つかった品なんだけどねぇ」
エレンさんは苦笑しながらそう言って、その棒の『尖っている方』を持つ。
「形からして、片方の先端に結晶を埋め込んである杖の小さいやつかと思うんだけどねぇ。どうにも効果が分からないんだ」
エレンさんは軽く振りながらそう言った。確かに、あの形はそんな印象を与えるだろう。
「今まで見たことない形だし、『コンドゥクト遺跡』から見つかった品だから一応そんな風に置いてあるけど、用途が不明な上になんの効果も発揮しないからねぇ。一応全属性に対応しているけど、正直品質としては普通の杖と大差ないからね。それでも、コンドゥクト遺跡からでた古代遺物アンティークだからそんな値段になっているよ」
と言ってエレンさんは値札を指さした。そこには金貨八枚と書かれている。
「値段にも釣り合わないし、見た目はいいデザインと言えばいいデザインだけど、どうにもバランスが悪いからね。正直、これは売れないんじゃないかな」
エレンさんはそう言って棚にその棒を戻した。
コンドゥクト遺跡は、この世界で一番有名で一番『凶悪』な遺跡だ。中に棲んでいる魔物は最低でもAランク、酷くてSランクの魔物がわんさか出てくるらしい。仕掛けられているトラップも単純ながらも凶悪なものばかりで、近づくだけでも相当の実力を要する。一方で中には超強力な古代遺物が出ることもあり、国のトップクラスの騎士や魔術師はここから出る装備を与えられる。
それにしてもこの形……『懐かしい』なぁ。『この世界で』見れると思わなかったよ。確かに、これの良さや『効果』は分からないだろうなぁ……。
「これ、買います」
俺はその棒を手に取り、エレンさんにそう言った。
「え!? いや、その……こういっちゃなんだけど、君、大丈夫?」
エレンさんは驚きで商人としてどうなのだろう、という発言をする。無理もないよな。用途不明、効果なし、その上高いものを駆け出し冒険者の俺が買うと言っているのだ。
「本気ですよ。ただ……これは大分高いですねぇ」
俺はあくどい笑みを浮かべてエレンさんを見る。
「はぁ……確かに、それを買うと言ってくれる人は君以外にいないだろうね。……分かったよ、金貨五枚でどうだい?」
エレンさんはため息を吐いた後に、観念した様子でそう言った。
「上々です。ありがとうございました」
俺はそう言って金貨を五枚渡す。エレンさんは目を丸くしてそれを見た。しかし、何か納得したような顔をすると、
「毎度ありがとうございました」
と言って苦笑を向けた。




