護衛
「お、君が今回の護衛かい?」
「はい、そうです。よろしくお願いします」
「うん、こっちこそよろしくね」
俺はベースドラの村の出入り口の前である男の人と話していた。彼は商人で、これから馬車で三日ほどのところにある街に行くらしい。名前はエレンさん。今回、その護衛を請け負ったのは俺だ。そう、昨日ギルドで受けた依頼はエレンさんの護衛だ。目的地はそこそこ大きな街らしいく、元々そこに向かう予定だったので受けたのだ。
あともう一組来るはずなんだけど、まぁ集合時間には三十分ほど余裕を持って着いたからな。ゆっくり待ってよう。
「そういえば、ギルドに久しぶりの期待の新人が入ったそうじゃないか。君は何か知っているかい?」
手持無沙汰になったエレンさんが俺に話しかけてきた。
「あー、すみません。俺、一昨日登録したばかりなんであまり詳しくないんですよね」
俺は申し訳なく思いながら事情を説明する。
「ん? でも、僕が頼んだランクはEのはずだが?」
「いえ、俺はEランクですよ。なり立てですけど」
「え?」
「え?」
俺たちは目を丸くしてしばしお互いを見つめ合った。……変な意味ではないぞ。
「一昨日登録したんだろ?」
「はい、そうですね」
「最初はFだったよな?」
「はい、そうです」
「いや、君が噂の人物じゃないか……」
「え?」
「え?」
……。
結局、この後認識をすり合わせていって俺が期待の新人だと言う事がわかった。いやぁ、褒められると嬉しいね。でも、ジャリスさんの言うとおりに慢心してはいけないからな。これからもちょっとずつ頑張っていこう。
「お待たせしてすみません! ……へ?」
「お待たせしましたー! ……あら?」
馬鹿なやり取りをしているうちにもう一グループが来たようだ。……とても見覚えのある二人が。
「リリアとエリスか」
俺は二人を見てそう言った。そういえば、昨日までと比べて装備の質が段違いだ。昨日のなんか比べてみれば襤褸切れにもならないようなレベルの装備を着ている。昨日のは演技のために初心者セットだったのだろうが、今日の二人は凄い。
まず、リリアだ。装備は機動性を重視した感じだろうか。薄い緑色の革製の鎧に、下は白いスカート、手袋は黒い革製の指貫手袋だ。そして、両腰に下げている二本の短剣。これは存在感がとんでもない。その一方で意識を向けなければまるで最初から無かったのような錯覚すら覚えるほどに存在感がなくなる。
エリスは本格的な重い鎧ではないが、金属製の鎧を身に着けている。それは、白金に輝き、それでいて下品ではなく、むしろ上品な雰囲気がある。そして、腰に携えている一本の片手剣。これも凄い魔力が溢れ出ている。あれは抜かれただけで土下座してしまう勢いだ。
「知り合いかい?」
エレンさんが俺に話しかけてくる。
「はい、そうです。あの二人、滅茶苦茶強いですよ。俺がいらないぐらいに」
俺はそう答える。
「ん? 何話してたの?」
「お前らが実は知り合いでした、まぁびっくり。って内容だ」
エリスの質問に俺はざっくりし(すぎ)た説明をした。
■
道中は気楽なものだった。Eランクのクエストなだけあって道中に魔物は少なく、いるとしてもゴブリンやハウンドドッグ、強くてEランクのコボルドやリザードぐらいだ。ちなみにコボルドは犬面の人型、リザードは大きいトカゲだ。結果、
「~♪」
俺が鼻歌を歌いながら馬車に乗っているのは当然と言えよう。曲は即興で作曲した、緩めの行進曲。のどかな草原を馬車でゆったり進んでいる今の状況にはぴったりだろう。
「ゆ、ユウスケさんって音楽か何かをやっていたんですか?」
リリアがそんな俺を見て話しかけてきた。
「ああ、ちょっとした趣味でね。これでも、そこそこ頑張っている方だと思うよ」
俺は一旦鼻歌を中断して緩い声でそう返す。リリアはある程度俺になじんでくれたみたいで、こうして自分から話しかけてきたりしてくれるのは嬉しいな。
「君の歌のおかげか、馬も気分が良さげだよ」
御者をやっているエレンさんが嬉しそうな声でそう言ってきた。確かに、ちょっとリズムよく進んでいる。
「不思議と、ユウスケの鼻歌って聞いていて気分が良くなるのよね」
外で歩いているエリスもこちらに顔を見せてそう言ってきた。
「あー、音楽って人の心に強い影響を及ぼすんだよね。俺の場合はそれに特化した曲をよく作るから」
俺はそんな説明をした。
音楽は人の心に強い影響を及ぼす。曲を聞いて気分が良くなったり、悪くなったり、感動して泣いたり、と心が動かされることが多々あるのだ。
そんな中でも、俺が作る曲は人の心を動かすことに『特化』している。手品師であるがゆえに心理学にもそこそこ詳しくなった俺は、自然と作曲したらそう言った方向性になるのだ。
今まで作曲した曲の中で、本気を出せば人を洗脳できてしまうようなものもあるし、それを歌って聴かせるだけで興奮した気分を一気に落ち着けるものまである。
結果的に、地球では俺が作曲した曲は滅多に歌ったりすることはなかった。うっかり激しい曲を歌い、それを誰かが聴いてしまったら割とマジで傷害事件が起こる可能性があるからだ。
ちなみに、一回聴かせればしばらくはその気分は一時間前後継続するので、こうして歌うのをやめても馬のペースは変わらない。
「へぇ、じゃあさらに気分が良くなるような曲を歌ってみてくれないか? もしかしたらもっといいペースで進めるかもよ」
エレンさんが面白半分にそう言ってきたので、俺はもうちょっとテンポが速めの曲を選んで歌ってみた。すると、馬もそのリズムに乗せてテンポよく歩き出した。どことなく気分が良さげだ。
「あら、これは凄いわね。ふふふ、あたしも気分が良くなってきたわ」
「そうですね。何だか楽しくなってきちゃいますね」
「こりゃあいいペースだ。このままいったら三日はかからないかもしれんぞ」
三人とも気分良さげにそう言っていた。楽しんでもらえたようで何よりだ。
■
その日の夜、俺たちは野営の場所の周辺で薪を集めながらエレンさんの話を聞いていた。
「予想以上にいいペースだ。魔物も君達が頑張ってくれているおかげで足止めはほとんど食ってないし、ユウスケ君の歌で馬もいいペースで進んでくれた。これなら明日の夕方には『シンベラ』に着くだろう」
エレンさんはとても嬉しそうにそう言っていた。
道中、心配していた盗賊の襲撃も無かったし、魔物にも時間は取られなかった。
なんせ、馬車の中にいた人が出なくても外を歩いている人だけでこと足りたのだ。
俺が外にいる場合はちょちょいと『カマイタチ』や『エアハンマー』や『アースボール』をちょっと叩き込むだけで終わり。
あの二人の場合は外にいるだけで魔物が寄ってこない。リザードが二回ほど来たが、それもあの二人は軽く魔術を放つだけで倒した。俺を含めて、全員魔物が近づいてきた段階で移動しながら処理できるレベルなのだ。全体で足止めを食らった時間は数分程度だろう。本来は時間単位の足止めを予想していただけに、かなり予想よりいい感じに進めた。
「ま、魔物がいつもより大分少なく感じましたよね」
「そうねー。普通なら見渡せば魔物が五、六匹は見えるもんなんだけど、殆ど見かけなかったもんね」
二人は俺の数倍の量の薪を拾いながらそう言っている。……ベテランにはそりゃあ劣るよ。
「まぁ、魔物が少ないならそれでいいじゃないか。楽なのはいいことだよ」
俺は薪を拾いながらそう言った。
■
「ユウスケ君の魔術は便利だね。ぐっすり眠れたよ」
翌日、俺たちは朝の六時ぐらいに出発した。エレンさんはそりゃあもう満面の笑みで満足げだ。昨夜、『ストレージ』で中にしまっておいた魔物避けの臭い付テントの中で寝ていたからだ。普段は警戒してあまり寝られないらしいが、あの中だと安心してぐっすり眠れるのだ。ちなみにリリアとエリスは馬車の中で、俺は寝袋の中で寝た。といっても、三人でサイクルして夜中の見張りをやったな。俺が馬車の中で寝なかった理由はリリアに気を遣ってだ。男性恐怖症の人が男と同じ場所で寝られるわけがないからな。
「本当よねぇ。……ねぇねぇ、どれくらい積めば教えてくれる?」
「え、エリスさん、そういうのはダメですよぅ……」
エリスが俺にあくどい笑みを浮かべて交渉をしてきて、リリアがそれを窘める。ちなみに積むというのは、現金のことだ。
「冗談よ、冗談。でも、実際に教えてほしいのは確かね」
エリスはそう言ってリリアをなだめるが、最後の言葉を言った後に俺に向けた目線は鋭いものだった。あれは本気だ。うん、さすがベテランなだけあって曲者だな。
「うーん、金で解決するのか……」
俺はその言葉を聞いてちょっと悩む。教えるわけにはいかないんだけどなぁ……。あ、いいこと考えた。
「国家予算を持って来い!」
俺は冗談めかしてにやりと笑う。遠回しのいいえ。あの神々が集う病院のイケメン外科医の名言だ。
「ま、そうなるわよね」
エリスは意味を感じ取ってくれたみたいであっけらかんとそう言った。
「それだったら最初から言うなよ……」
俺は思わずそう突っ込んでしまった。




