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 翌朝、俺は五時ごろに目が覚めた。この世界に来てから、早起きの習慣がついたのだ。ここで早起きはやってみると気持ちいい、とか言えるとカッコイイんだけど、実際は別にそうでも無かったりする。

 俺は目覚まし代わりに井戸へと向かい、そこの水で顔を洗ってうがいをする。うん、そこそこさっぱりしたかな。

 さて、今日だが、早速簡単なクエストを受けてみようと思っている。そんなわけで、俺は部屋に荷物を取りに行くとささっと今日の夜も泊まる旨をおばちゃんに伝えてギルドに向かう。

 こんな早朝でもギルドはすでに空いていた。掲示板に向かい、俺でも受けられそうなクエストを探す。

 ・ハウンドドッグの討伐『最低十匹・以降は歩合制』基本報酬・銀貨五枚・追加は一匹大銅貨五枚

 ・薬草の採集『制限なし・歩合制』一枚に付き大銅貨一枚

 ・ゴブリンの討伐『最低五匹・以降は歩合制』基本報酬・銀貨四枚・追加は大銅貨八枚

 あたりがめぼしいクエストかな。後は村の中の手伝いだ。資材を運んでほしいだの、子守をしてほしいだの、畑仕事を手伝ってほしいだのといった感じ。さすが最低のFランク。

 ハウンドドッグもゴブリンもこの近くの森で比較的よく見かける魔物だ。一般人には辛いが、冒険者なら超楽勝だ。とはいってもこれで油断して命を落とす馬鹿者が後を絶たないらしいが。薬草は普通に薬草。ポーションの材料になる。

 ポーションとは、治癒魔術が広まってないこの世界で生まれた画期的なもの。即効性は無いけど、飲めば自然回復力がそこそこ上がる。ピンキリだけど。

 さて、これらは全部常時クエストだ。よって、このまま全部受けていってもいい。ならば……

「すみません、この三つを同時に受けます」

 やっぱり受けるだろう。失敗しても無期限だし、違約金も無い。実際こうする冒険者は多い。

「はい。分かりました。ギルドカードはお持ちですか?」

 受付嬢がそう言うので、俺は差し出す。すると、確認が完了したみたいで、気をつけて言ってくるように笑顔で言われた。営業スマイルだろうが、気分は悪くは無い。

「さて、じゃあ一丁頑張りますかね!」

 今の俺は冒険に憧れる子供みたいになっているだろう。そりゃあだってねぇ。

「お、お前さんは新入りかい? 頑張れよ!」

「先輩として頼ってくれてもいいぜ~」

「とはいっても俺らも揃って最近登録したての新人だがな!」

 ギルドから出ると三人の男性に声をかけられた。全員が二十代前半ぐらいだろうか。

「はい、ありがとうございます」

 俺はそう言って、森へと出発した。


                ■


「どうやら、予想通り行くみたいですね」

「どうやらそのようね。……あのきらきらした目。新人冒険者そのものね」

 物陰から遊助を見張る影が二つ。リリアとエリスだ。二人は不自然なほど音を立てずに、遊助を尾行し始めた。


                ■


「そおれ!」

「ピギィッ!」

「プギャア!」

「ポグッ!」

 『カマイタチ』で、三十cmぐらいの醜い緑色の肌をした小人みたいなもの、つまりゴブリンを一気に倒した。装備もそこらの木の棒か小石に、襤褸布を腰に一枚巻いているだけだ。

『わぁ~おみごとでちゅねぇ~よしよし~』

 急に気分が向いたのか、現れたジョーカーはとてもバカにした感じに褒めてくる。いや、これは貶している。実際、内心イラッときつつも隠しながらゴブリンを解体している俺を指さして、

『キャキャキャキャキャッ!』

 と大爆笑している。この野郎。普段の話し方である崩れた敬語も、もう人をおちょくっているようにしか見えない。

 さて、もう森に入ってから二時間経過しているが、すでにクエストは完了している。ハウンドドッグは三十匹、ゴブリンは二十匹狩った。あと、図鑑を見て一生懸命覚えた薬草も十二枚揃っている。

「さてと、次々」

 俺はまたぶらぶら歩く。魔物と遭遇するには、ぶらぶら歩くのが無難だ。血の臭いがする場所で待つ、というのも一つの選択肢だが、これは何かつまらない。探検がてらに歩くことにしているのだ。

「このあたりだとすっかり余裕だなぁ」

 俺はそう呟いてしまった。今の段階では、人前では風属性と地属性の下級魔術までを使うようにしている。その練習のために、こうして人がいなくてもそればかり使っているのだが、それでも手ごたえがない。

『そんなことなら、不肖、ワタクシジョーカーめがいくつか知っておりますよ』

 ジョーカーがいきなり、馬鹿みたいに丁寧な言葉で反応してきた。こんな風に敬語を使うのは次に冗談がくることが多い。だが、こいつは仮にも精霊だ。俺よりも知識が多いだろうから、もしかしたら頼りになるかも。

「へぇ。で、それはどこなんだ?」

『例えば、ここから馬車で二カ月ほどのところにあるマリムバ山脈や、もっと近場だとティムパニ谷ですかねぇ』

「へぇ。まぁ、結構遠いけどそんなもんなのかな?で、そこにはどんな魔物が出るの?」

『前者はファイアドラゴンの住処で後者は巨人族の縄張りでございます』

「死ぬわ!!」

 こいつ、やっぱりおふざけが飛び出してきやがった。ほら、また指さして変なポーズしながら大爆笑しているし。くそう。


                ■


 そこからまた数時間が立ったので、俺は昼食をとることにした。メニューは水筒に入れた野菜スープと干し肉を挟んだパンだ。水筒には無属性下級魔術『保温キープヒート』で中身の温度が変わらないようになっている。魔法瓶みたいだな。

「うーん、しっかし、便利だなぁ……」

 俺はもさもさとパンを食べながら水筒を持つ。無属性魔術はとても便利だな。弁当なのに温かいスープを食べられるなんてな。

『だぁれかさぁんのうっしろっにおっにがっいるっ♪』

 ……気分がいいところに馬鹿ジョーカーがからかってきた。

「何が『誰かさんの後ろに鬼がいる』だよ。妙なリズムつけやがって」

 俺はため息をつきながらジョーカーにツッコミを入れる。精霊は契約した際の魔力のやり取りにて、契約者の記憶を一部譲り受けるらしい。で、その後も徐々に記憶を貰っていくそうだ。つまり、精霊ばかりが記憶を貰っていくそうだ。不公平な契約だが、まぁこっちは力を貸してもらう側だ。文句は言えないのだが……

『だぁれかさぁんのうっしろっにおっにがっいるっ♪』

 こいつには記憶を渡してはいけなかった。なんせ、こんな風に地球の知識まで使ってからかってくるのだ。しかも随分懐かしい子供遊びを……。

「まぁいい。今は信じてみるか」

 俺はとりあえず、損はないから信じることにして無属性中級魔術『探査サーチ』を使う。周りの生物の魔力を感じ取る魔術だ。これで周りの生物の魔力の大きさを量るのだ。

「ん?」

 どうやら鬼がいたようだ。結構な量の魔力だな。尾行されていたか、はたまた割と近いうちに後ろにいたのか……。

 ま、とりあえず、

「鬼さんをあぶりだすか」

 俺は魔術を発動した。


                ■


「ふぅん、魔術は危なげなく使っているわね」

「行動や動き方も、多少の油断が見られますが、あの強さならば問題ないでしょうね。もうEランクの上の方ぐらいの実力はついてますね」

 遊助が村から出た段階から尾行していたエリスとリリアは、遊助が戦っている様子を見てそう評価をしていた。初心者にしては凄い方だが、これぐらいならば珍しいと言うほどではない。訓練を積んでから冒険者になった者はこれくらいか、はたまたそれ以上の働きはする。

 二人は遊助を尾行しているが、不自然なほど気配や足音が無い。しかも、それは本人たちの技術によるもので魔術は一切使用していないのだ。

「あれは精霊さんと話しているんでしょうか?」

「でしょうね。はたまた変人かのどっちかよ」

 二人の視線の先には空中に向かって何やら怒鳴っている遊助の姿がある。この世界では、多くは無いが珍しくは無い光景だ。

「で、あの魔術は何でしょうかね? 物を出したり消したりと」

「……あれってもしかして『拡張鞄』? 違うわよね?」

 二人は遊助が使っている『ストレージ』に興味を示したようだ。その声からは隠しきれない羨望がにじみ出ていた。

 ちなみに『拡張鞄』とは、某国民的猫型ロボットのポケット、それの鞄バージョンだと思ってくれればいいだろう。とある事情でとても高く、二人には手が出せないのだ。

 しばらくして、遊助が座って食事を出し始める。その中には、例の温かいスープが入った水筒もあった。ここまでの成果は、登録して二日目の初心者にしてはかなり良い出来だ。

「ボンボンの子供かしら? あんないいもの持っちゃって」

「エリスさん、ちょっと抑えて……。でも、羨ましいのは確かですね……」

 二人は遊助のスープを羨ましそうに見ながら、味気ない保存食を食べている。実際はただの水筒なのだが、二人が知るわけがない。

 しばらく二人は遊助の様子を見ていた。その時、

「「っ!?」」

 二人は魔力を感じて、即座に警戒した。しかし、それではだめだった。二人はここから即座に退避するべきだったのだ。

「「なっ!?」」

 二人は自分の足を見た。土がせり上がり、自分を捕らえている。『アースバインド』の効果だ。二人は即座に抜け出そうと試みるが、『出られない』。

「尾行とは趣味が悪いなぁ。男の尻追っかけるなんて変態がするこ……、」

 そこに、いつのまにか近づいてきた遊助が軽口をたたきながら現れる。そして、二人を見た瞬間、

「え?」

 間抜けな声を上げ、目を丸くした。

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