第五十五話 古釘の値
槙尾の鍛冶師、新左が残していった言葉は、翌朝になっても笠森城の庭に残っていた。
古い鉄片があれば引き取る。
折れた釘、使えぬ刃、古い金具。
鍬を直すにも、ただ木の柄を替えれば済むわけではない。刃を打つ火が要る。炭が要る。楔が要る。締める縄が要る。そして、鉄が要る。
久住宗介は、蔵の隅に置かれた小さな籠を見ていた。
中には、曲がった釘が十数本、折れた鎌の刃先、錆びた金具が入っている。
昨日までなら、ただのがらくたに見えただろう。
だが今は違う。
鍬を一本直すための腹だった。
喜兵衛が横で腕を組んでいる。
「これだけでは、すぐ尽きるな」
「はい」
「だが、集めると言えば、また面倒が増える」
宗介は頷いた。
もう、少し分かってきていた。
水を集めれば水を狙われる。
火を決めれば火を乱される。
道を直せば道を塞がれる。
人足へ飯を出せば、人を縛ると言われる。
鍬を直せば、道具を集める城と言われる。
なら、鉄片を集めればどうなるか。
答えは見えている。
和木原は、必ずそこを突く。
片瀬弥四郎も同じことを考えていたらしい。
広間から出てくると、古釘の籠を一目見て言った。
「集める前に、線を引け」
「はい」
「家を壊して釘を抜く者が出る」
宗介は顔を上げた。
まさに、それを考えていた。
古釘が鍛冶賃の足しになる。
そう広まれば、誰かが家の柱や戸板から釘を抜くかもしれない。橋板や荷台から金具を外す者も出るかもしれない。鉄は貴重だ。飯や味噌や鍛冶の手間に替わると分かれば、使っているものまで剥がす者が出る。
弥四郎は続けた。
「折れたもの、使えぬもの、捨てるしかないものだけだ。使っているものを抜くな。人の家のものを盗るな。橋、荷車、戸、蔵、井戸の金具には手をつけるな」
「分かりました」
市松が板を持って現れた。
「また書くのか」
「書く」
弥四郎が即答した。
市松は諦めた顔で炭を持つ。
宗介は言葉を選んだ。
「古釘、折れ刃、錆び金具。使えぬものだけ。家、橋、荷車、井戸、蔵から抜くな。人のものを取るな。持ち主の名を残す」
市松は眉を寄せる。
「長い」
「短くできる?」
「絵を入れる」
市松は板の端に、小さな家と橋と荷車を描いた。
その上に大きく斜め線を入れる。
絵は下手だった。
だが、分かる。
家から抜くな。
橋から抜くな。
荷車から外すな。
宗介は少し感心した。
「うまい」
「字より早い」
「それは本当にそう」
市松は少し得意げに鼻を鳴らした。
その時、門番が声を上げた。
「下河原より権太!」
権太は、今日は鍬を持っていなかった。
その代わり、布に包んだ小さなものを抱えている。後ろには、およしもいた。子どもは連れていない。
権太は門前で頭を下げた。
「家を見てから来ました」
弥四郎が頷く。
「溝は」
「通っています。およしにも見てもらいました」
およしが腕を組む。
「見ました。今日は水は来ていません」
「それで、これは?」
宗介が布包みを見ると、権太は少し緊張した顔で開いた。
中には、錆びた釘が五本と、折れた小さな刃がひとつ入っていた。
「家の裏の古い戸を直した時に外したものです。もう使えません。昨日の鍬のことを聞いて、鉄が要るならと思って」
宗介はすぐに受け取らなかった。
まず、およしを見た。
「家で使うものではありませんか」
およしは頷いた。
「使いません。抜いたのは去年です。戸はもう木釘に替えました。権太が酒代にでもしようと隠していたのを、私が見つけました」
権太が気まずそうに目を逸らす。
「昔の話だ」
「昨日見つけたんだよ」
門前に小さな笑いが起きた。
権太は耳まで赤くしたが、逃げなかった。
宗介は釘を一つ取って見た。
錆びているが、鉄だ。
新左なら、何かに使えるかもしれない。
「受けます。ただし、名を残します。下河原、権太家、古戸より外した古釘。およしさん確認」
「私の名も?」
およしが眉を上げる。
「はい。家のものなので」
およしは少し考え、頷いた。
「なら、書いてください。うちのものだと分かる方がいい」
市松が小札へ書く。
権太はその様子を見ながら、ぽつりと言った。
「古釘にまで名がつくのか」
宗介は答えた。
「名がないと、どこから抜いたものか分かりません」
「疑ってるのか」
「守るためです。家から盗ったと言われないように」
権太は黙った。
およしが横から言う。
「そうだよ。名がなければ、あんたなら疑われる」
「俺か」
「あんただよ」
権太は言い返せなかった。
そのやり取りの後ろで、宇平次が門の外を見ていた。
宗介も視線を向ける。
商人が二人、近づいてくる。
一人は嘉平だった。もう一人は見知らぬ男で、背負子に布をかけている。
嘉平は門前へ来ると、泥の落ちた草鞋を揃え、頭を下げた。
「笠森では、古釘を受けると聞きました」
早い。
宗介は内心で息を呑んだ。
まだ城内で話したばかりだ。
だが、昨日から鍬、鍛冶、鉄片の話は出ている。商人の耳なら拾っていてもおかしくない。
嘉平は布を開いた。
小さな金具が三つ、細い釘が数本。
「これは、壊れた背負子から外したものです。荷を背負うにはもう使えません」
惣右衛門の姿も、少し遅れて見えた。
彼は嘉平の後ろから静かに言った。
「私が見ました。背負子は壊れております。使えるものから外したわけではありません」
宗介はほっとした。
見届けがある。
それだけで、受けやすい。
だが、ここで何でも受けてはいけない。
「古釘や金具は、すぐ飯に替えるものではありません」
嘉平が少し驚く。
「飯ではないのですか」
「はい。鍬や道具を直すための鍛冶賃の一部です。働いた飯とは別です」
嘉平は頷いた。
「分かっています。こちらは普請返しです。背負子が壊れれば、荷も止まりますから」
惣右衛門も頷く。
「尾張筋にも、そのように伝えます。古鉄は飯ではなく、道具の返し。そうでなければ、家から釘を抜く者が出ます」
やはり、惣右衛門は分かっている。
宗介は頭を下げた。
「助かります」
弥四郎が嘉平を見た。
「名を残す」
「構いません」
「背負子は捨てるのか」
「いいえ。木組みは直します。ただ、この金具は割れているので使えません」
弥四郎は頷いた。
「よい。受けろ」
市松はまた小札を書いた。
嘉平。壊れ背負子の金具。柏屋見届け。
その隣に、権太家の古釘。
さらに、笠森蔵の折れ釘。
小さな鉄片が、少しずつ並ぶ。
庭の隅で見れば、たいした量ではない。
だが、それを見た者たちの目が変わる。
鉄が、ただの錆ではなくなる。
その変化が、宗介には怖かった。
昼前、怖れていたことが起きた。
南谷の若者が一人、息を切らして走り込んできた。
「橋板の釘が抜かれています!」
庭が一気に騒然となった。
宇平次が即座に問う。
「どこの橋だ」
「南谷下の小橋です。人は通れますが、片側の板が浮いています。今朝、荷を担いだ者が足を取られかけました」
弥四郎の顔が険しくなる。
「怪我は」
「ありません。ただ、危ないです」
宗介は胃が冷えた。
早すぎる。
古釘の話が出た途端、橋板の釘が抜かれる。
偶然とは思いにくい。
だが、誰がやったかは分からない。
和木原かもしれない。
飯目当ての者かもしれない。
鉄が値になると聞いた誰かかもしれない。
弥四郎は短く命じた。
「行く。宇平次、佐太。宗介。市松、橋の絵板を持て。およし、権太、嘉平は残れ。門前で、家や橋から抜くなと伝えろ」
およしがすぐに頷いた。
「言えます」
権太も顔を引き締めた。
「俺も言います」
嘉平は自分の背負子の金具を見てから、頷いた。
「商人にも言いましょう。壊れたものだけだと」
宗介は門を出ながら思った。
古釘ひとつで、門前と現場を分けなければならない。
また、仕事が増えた。
だが、これを放っておけば人が落ちる。
南谷下の小橋は、幅の狭い木橋だった。
荷車は通れない。
だが、人が小荷を担いで渡るには大事な場所である。
橋の片側の板が、確かに浮いていた。
板を留めていた釘が二本抜かれている。
一本は途中で折れたのか、頭が欠けたまま残っていた。
もう一本は、完全に抜かれていた。
善助が怒りを押し殺した声で言った。
「ここを抜けば、子どもでも足を取られます」
佐太が橋板を踏もうとした。
宗介は慌てて止める。
「乗らないでください。板の端が跳ねるかもしれません」
佐太は足を止めた。
「そんなに危ないか」
「はい。片側だけ留まっている板は、踏むと動きます」
宇平次が周囲を見る。
「足跡は」
泥にいくつか残っている。
だが、橋は人が通る場所だ。誰のものか分からない。
佐太が藪のそばで何かを拾った。
小さな鉄の欠片だった。
抜いた時に折れた釘の頭かもしれない。
宗介はそれを見て、眉を寄せる。
「これも残してください」
市松が小札を出す。
「またか」
「またです」
「橋板、釘抜かれ。釘頭ひとつ。人、落ちかけ。怪我なし」
「そう」
市松は橋の絵を描き、そこに浮いた板を一本だけ斜めに描いた。
下手だが、危ないのは分かる。
宇平次が言った。
「今すぐ直せるか」
宗介は橋を見た。
釘はない。
仮に縄で縛るか、楔を打つか。
ただ、橋板に縄を巻くには下へ回る必要がある。水は浅いが、滑る。
佐太が板の端を見て言った。
「木楔ならいける。だが長くは持たん」
「今日、人を渡す分だけでいいです。あとで新左さんに釘を相談します」
「釘一本にも鍛冶か」
佐太が苦い顔をする。
宗介は頷いた。
「釘一本でも、橋なら人が落ちます」
その言葉に、誰も反論しなかった。
佐太と善助が近くの乾いた枝を削り、楔を作る。
宇平次は橋の両側に人を立てた。
渡る者を止めるためだ。
宗介は、橋板の動きを見ながら楔を打つ位置を決める。
「そこは端すぎます。割れます。もう少し内側」
「ここか」
「はい。強く打ちすぎないでください」
佐太が慎重に木槌を振る。
楔が入る。
板の浮きが少し収まった。
もう一本。
さらに、古縄で板を横から押さえる。
完全ではない。
だが、人が一人ずつ渡るなら、しばらくは耐えそうだった。
その時、橋の向こうから男が一人近づいてきた。
腰に和木原札。
見覚えのある顔だった。
昨日、帰り道を塞いだ男たちの一人である。
宇平次が前に出る。
「何用だ」
男は橋を見て、わざとらしく目を細めた。
「笠森が古釘を集めると聞いたが、もう橋からも抜いたのか」
善助が怒鳴りかけた。
宇平次が手で止める。
宗介は息を整えた。
ここで怒鳴れば、相手の思う壺だ。
「抜かれた釘を見に来ました」
宗介は言った。
「笠森は、橋から釘を抜くなと門前に掲げています」
市松が、持ってきた絵板を掲げた。
家、橋、荷車に斜め線。
男は一瞬、目を細めた。
文字より絵の方が、言い逃れしにくい。
「絵まで描いて、ずいぶん用意がいい」
「抜かれる前から、危ないと思っていました」
「なら、笠森が抜いたのではない証にはならん」
男は笑った。
やはり、そう言う。
笠森が古釘を集め始めた。
すぐに橋の釘が抜かれた。
だから笠森が抜かせた。
そういう話にしたいのだ。
弥四郎は静かに男を見た。
「橋から釘を抜けば、人が落ちる」
「当たり前ですな」
「それを知っていて、誰が抜いたかより先に笠森を笑うのか」
男の笑みが少し薄くなった。
「私は見に来ただけです」
「なら見ていろ」
弥四郎は橋を指した。
「笠森は、抜かれた釘を値にしない。橋を直す。抜かれた釘頭は証として残す。古鉄としては受けぬ」
宗介は心の中で頷いた。
それだ。
抜かれた橋釘を古鉄として受けてはいけない。
受ければ、抜いた者の得になる。
抜かれた釘は、鍛冶賃の足しではなく、危険の証として残す。
男は少し困った顔をした。
「鉄を集めると言ったのでは」
「使えぬものだけだ。橋から抜いたものは使えぬものではない。抜いてはならぬものだ」
弥四郎の声は、橋の上を渡る水音に負けなかった。
「和木原にも伝えよ。笠森は、家、橋、荷車、井戸、蔵から抜いた鉄は受けぬ。持ち込んだ者は名を残し、持ち主へ戻す。抜いた者の得にはせぬ」
男は黙った。
宇平次が一歩近づく。
「そして、この橋を誰が見に来たかも残す」
男の顔が強張った。
「私を疑うのか」
「見に来た名を残すだけだ」
宇平次は、相手が使った言葉をそのまま返した。
市松が小札を出す。
「名は?」
男は答えない。
宇平次が低く言う。
「和木原札を下げている。札の名でもよいぞ」
男は舌打ちした。
「宮下五郎」
市松が書く。
宮下五郎。和木原札。南谷下小橋、釘抜け見届け。
男は不満そうだったが、止められなかった。
橋を直す作業を、彼はしばらく見ていた。
笠森が鉄を持ち去らず、逆に楔で板を押さえ、抜けた釘頭を証として包むところまで見せた。
見せることにも意味があった。
隠さない。
奪わない。
直す。
そして、抜いたものを得にしない。
昼過ぎ、笠森へ戻ると、門前ではおよしが見事に仕切っていた。
権太が古釘を持ってきた男に詰め寄られている。
「これは家から抜いたんじゃねえ。古い箱からだ」
およしが即座に聞いた。
「箱は今も使ってるのかい」
「使ってねえ」
「誰の箱だい」
「俺のだ」
「女房は知ってるのかい」
男は言葉に詰まった。
門前に笑いが広がる。
およしは容赦なかった。
「家に戻って聞いてきな。知らない鉄は受けないよ。うちも名前を書かれたんだからね」
権太が小さく頷いている。
昨日まで飯目当てで来ていた男とは別人のようだった。
嘉平も商人たちへ説明していた。
「壊れた背負子の金具はよい。使っている背負子から抜くな。荷が落ちる。落ちた荷は笠森の責ではない」
惣右衛門はそれを少し離れて見ている。
必要な時だけ補う。
「尾張筋へも伝えましょう。古鉄は、壊れたものから。使える道具から抜けば、商いの手を自分で折ることになる」
弥四郎は門前の様子を見て、宗介へ言った。
「女房衆と商人が言う方が早いこともあるな」
「はい」
「笠森が言えば、命令になる。家の者が言えば、暮らしの話になる」
宗介は深く頷いた。
およしの言葉は強い。
橋の釘を抜くなと城が言うより、家の戸から釘を抜いたら子が寒がると女房が言う方が刺さる者もいる。
嘉平の言葉も同じだ。
背負子から金具を抜けば荷が落ちる。
商人にはそれが効く。
午後、槙尾の新左が再び来た。
南谷下小橋の釘抜けを聞き、顔をしかめる。
「橋釘を抜く馬鹿が出たか」
「抜かれた釘頭は、古鉄にしません」
宗介が言うと、新左は頷いた。
「それでいい。橋の釘は、抜いた時点で厄介な鉄だ。鍛冶場に持ち込むなら、誰がどこから持ってきたか残せ」
「はい」
「橋を直す釘は要るか」
「要ります。ただ、数は少しです」
新左は、懐から太めの古釘を二本出した。
「槙尾の古蔵を直した時に外したものだ。曲がっているが、打ち直せば使える。これは槙尾の許しを得ている」
安西新蔵の名が添えられた小札もあった。
宗介は驚いた。
「そこまで」
「槙尾西沢にも関わる。橋が落ちれば、水場へ来る荷も止まる。左馬助様は、笠森が勝手に鉄を集めるのは困るが、橋を直すなら見届けると言われた」
弥四郎が小さく頭を下げた。
「ありがたい」
「礼は釘を無駄にしないことだ」
新左は無愛想に言った。
だが、その言葉には重みがあった。
槙尾が見ている。
柏屋が見ている。
下河原も南谷も見ている。
和木原だけが、笠森が鉄を集めていると好きに言える状況ではなくなってきた。
宗介は、胸の奥で少しだけ息をついた。
夕方、板には新しい絵と言葉が並んだ。
古釘。
折れ刃。
錆び金具。
使えぬものだけ。
家、橋、荷車、井戸、蔵から抜くな。
抜いた橋釘は値にせず、証に残す。
持ち主の名。
見届けの名。
槙尾釘、安西見届け。
市松は疲れきった顔で炭を置いた。
「もう絵でいっぱいだ」
「ありがとう」
「明日は何を描くんだ」
「分からない」
「分からないのが一番嫌だ」
宗介は苦笑した。
本当にその通りだった。
何が次に来るのか、分からない。
水か、火か、道か、人か、道具か、鉄か。
どれも腹につながっている。
どれも、放っておけば誰かが困る。
その夜の粥は、相変わらず薄かった。
だが、火所の横には分けられた黒谷炭があり、鍛冶に回す古鉄が小籠に入っていた。
橋から抜かれた釘頭は、古鉄の籠とは別に包まれている。
得にしないためだ。
それを見て、弥四郎が言った。
「鉄にも、よい鉄と悪い鉄があるのだな」
宗介は少し考えた。
「鉄そのものは同じかもしれません。でも、どこから来たかで違います」
「橋から抜いた鉄は、腹を満たさぬか」
「はい。むしろ、腹を壊します」
弥四郎は小さく笑った。
「お前らしい言い方だ」
宗介も苦笑した。
だが、本気だった。
橋から抜いた釘を鍛冶賃にすれば、その瞬間は得をする。
だが、人が落ちる。
橋が弱る。
誰かがまた抜く。
やがて、道そのものが信用を失う。
それは、腐った飯を食うようなものだ。
腹を満たすどころか、体を壊す。
弥四郎は椀を置いた。
「笠森は、壊れたものは受ける。壊して持ってきたものは受けぬ」
「はい」
「この違いを、皆に覚えさせろ」
「分かりました」
宗介は板の絵を見た。
下手な家。
下手な橋。
下手な荷車。
その上に引かれた斜め線。
文字が読めない者にも、少しは伝わる。
家から抜くな。
橋から抜くな。
荷車から外すな。
壊れたものだけを出せ。
簡単なようで、難しい線だった。
門の外は暗い。
南谷下の小橋は、仮の楔で今夜を越す。
明日、槙尾の釘で直す。
和木原は、きっとまた言うだろう。
笠森は鉄を集めている。
鍬を集め、釘を集め、周りの道具を吸い上げている。
そう吹くだろう。
だが、今日、門前にいた者は見た。
権太家の古釘には、およしの確認があった。
嘉平の金具には、壊れた背負子があった。
橋から抜かれた釘は、値にならなかった。
槙尾の釘には、槙尾の見届けがあった。
宗介は薄い粥を飲み干した。
米の味は薄い。
けれど、今日は鉄の匂いがした。
嫌な匂いではない。
折れたものを、もう一度働かせるための匂いだった。




