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タイム・スパイラル  作者: やあやあやあ


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第30章 白昼の刻

「新世界が産声を上げる。」彼の言葉がこの世界に響き渡った。彼を中心に白銀の光、純白の光が収束し渦を成す。その渦が空間を、時間を相対的なものに、不明瞭な物へと貶めていく。これは神の世界、原初の世界その始まりだった。中途半端という名の個性も、中途半端だからこその哲学も芸術も、そして称えるべき人の美しさは、隠すべき辱へと堕とされた。そう、絶対的な存在の証明が、形而上学的な存在(イデア)そのリアリティなる顕現が、彼らにとって絶対的なもののように信じられてきた精神を希望を、そして絶望を相対的なものへと貶めて、絶対的なものだからこその意味は荒唐無稽な今によって無意味へと変えていった。そう、これは希望も絶望もない運命という名の神の意志、神の道、そう神の世界の始まりだッ!

~~~

俺は誰なんだ。俺はッ!「あなたは宇津野よ。」夜見がそう言って笑う。彼女は俺の前で俺に笑いかける。その笑みはとても悪趣味に感じた。違う、こんなの、お前は夜見なんかじゃないッ!でも、彼女の姿は彼女の声は紛れもない夜見だった。夜見以外の何物でもなかった。彼女がおかしいのだろうか?それともおかしいのは俺?「あなたは宇津野だよ。」港がそう言って笑う。彼は俺を睨んでいた。どうして彼は俺とあんなにも仲良かったはずなのに、どうしてそんな顔をするんだ。違う、お前は港なんかじゃないッ!そうだ、お前は希代なんだろッ!俺をからかっているんだ。お前は俺を心の中であざ笑っているんだろ?なあ?なんか言ってくれよ。どうしてそんな風に黙ったままなんだよ。何とか言えよッ!「あなたは弐趾原よ。」そう言ったのは跡野預御。彼女はそう言って笑う。夜見のように...違う、お前は夜見じゃない、そして俺は弐趾原なんかじゃない。俺は...「あなたは、臆病者だ。」そう言って笑う弐趾原。そしてその瞳に映し出された俺。どうして?そこに映し出された姿は俺でも私でも僕でも吾輩でもなかった。そう、オレはその瞳に映し出された彼女の姿を知らなかった。

~~~

この世界に絶対的な軸が現れた。その絶対的な軸を前にして世界にはびこる相対的な一人一人の真実という名の誤魔化しがつまらない嘘へと成り果てた。生き残るのは神の正義、その正義を前にして世界を否定して初めて成立する存在の定義は意味を成さない。すべてに対する疑念、その余地が意味をなさず、世界はその軸によって二分される。神か、それ以外か。そして神以外の存在はひとくくりの無意識という名のエト・ケートラへと束ねられた。それは神の記憶、失われた海、隔離された象形、アカシックレコードの中にある水槽だった。その水槽の中の意識は、原罪となりて漆黒の渦を創り出す。そう、彼らは互いに寄せ合いながら、傷つけあいながら、原罪という名の感情を増幅させていく。その様はまるで喜劇の様。そう、彼らはただの見世物へと成り果ててしまった。それを自覚した彼らにはもう生きる意味も見いだせず、その記憶に付着した感情に意味を見出すことができず、意味をつけるはずの思考にも意味を見出すことができず、すべてが無意味に、すべてが虚構に、そう、彼らのすべてが死んでしまった。その感覚が彼らの今をそして今までを、そして帰納法的に彼らの未来までもを貶めていった。その瞬間、彼らはみな死人へと変わる。そして希望も絶望もない、そんな世界で死んでしまった彼らの中で未だ生きている彼らの原罪は、彼らの記憶の中で燻っている感情は、そして意志は、この世界への最期の抗議へ、救いようのない馬鹿になり己に導かれるそんな道を見出し、その成就へと疾走する。その姿は傷”痕”を無意識のうちに搔きむしり、傷”跡”にしてしまうようなどうしようもない行為だった。そう、それはこの世界に死という名の生きた証を焼き付ける行為だった。

~~~

「アハハハハ!」横たわる死人たち、彼らは笑っていた。その笑いはこの世界の新生への歓喜か、それとも”真なる開放=解放”の始まりに対する喜びか。彼らは互いを見て笑っていた。彼らは彼らの瞳を見て笑いあっていた。その瞳に、その深淵に、アカシックレコードに、集合的無意識に浸された瞳に、その中で溺れてる自分自身を見て笑っていたんだ。そして彼らが、横たわった死体たちが動き出す。彼らは立ち上がり、その手で持っていた自分自身のナイフで胸を、そして心臓を貫いた。次の瞬間、彼らは爆発した。その爆風が連鎖を起こし、この世界を焼き払う。世界が焼け焦げて、彼らの血が飛び散って、この祝福すべき世界を赤黒く染め上げていく。私はバスの車内からその様を、そんな世界を見て泣いてしまった。その光景は私が今まで見てきた写真の中で一番きれいだって思ったから...私はバスの降車ボタンを押した。しかし、どうやらそのボタンは起爆スイッチだったようだ。私は私の隣に座っていた男女を巻き添えにして爆発した。その様を臆病者の傍観者は茫然と見ていた。私は嬉しかった。彼のその顔を私は見たかった。そうか、この爆破はほかでもない私自身の意志だったんだ。私は彼に私の死に様を見せたかったんだ。そして私は彼にこの死に様を見せて問いかけたかったんだ。「世界で最も自由なものなんだと思う?」って。ほら、私なんかじゃなかったでしょう?

~~~

赤坂は自身の能力を開放し、完全状態となった。しかし、それは計画通りだった。港の意思はアバターMの記録の再生に過ぎなかった。文字通り死体が踊っていただけだった。彼の背後から声がする。それは弐趾原だった。彼は世界に出来た裂け目に、彼の神力”セクト”によって磔にされた。「馬鹿だよ。お前たちは生きているからこういうことになるんだよ、なんてね。彼はもう死んでいたんだ。あの災禍によって死んだんだ。だけど彼は私達にとっての奇蹟として、数少ない奇蹟として、そして贄と成ってくれたよ。そしてアバターA。お前でこの奇跡は成就する。そう、お前たちはこの時のために再生されていたにすぎない。これは運命だったのさ。」「運命、それは今を...」「運命は理不尽でどうしようもないものだ。」その言葉が語られた瞬間、彼の意識は霧散してまるで人形のように、彼は茫然と立ち尽くした。「そうだ、私たちはこの時を今か今かと待っていたんだ。アバターAとアバターMが揃うこの時を!」彼はAにダガーナイフを突き刺した。そして彼はAの胸を切り開き、そこから何か球状のものを取り出した。その様を見ていることしかできない惨めったらしい一人の男、彼はもう自分を見失いかけていた。彼にはその球体の何かが、その気持ちの悪い何かが心臓のように見えた。そう、その心臓はその男自身の心臓の様だった。「やめろッ!」「フフフ。私は私自身の覚悟を証明したぞッ!宇津野!」宇津野の顔は苦痛に、後悔にゆがみながら、彼の心を鷲掴みにした気持ち悪さのためにその場で胸を掻きむしりながら悶えていた。まるで何か、大切なものが引き抜かれてしまったような喪失感がこの気持ち悪さにはあった。彼はその持っている球体を握りつぶした。そこから溢れ出す光、そこから溢れ出すかつてこの世界に焼き付いた記憶、そう罪の垢趾が溢れ出した。それがつぶされた瞬間、どこかで誰かの断末魔が響き渡る。「うわぁぁぁぁぁぁぁ」そしてその断末魔に応えるように世界が焼かれていく。この今を焼き付けるように。オレが最期に見たものはその写真を手に笑う一人の男、それはもう宇津野でも弐趾原でもなかった。彼の写真にはダガーナイフを握りしめた一人の男がこの世界をそのナイフでめった刺しにする姿があった。その男は写真の中でオレを見て笑っていた。

~~~

あなたは誰?「私はクロウス。神殺し、その執行人だ。」彼女は私を見て笑いかける。そして彼女は私に問いかけた。「あなたは自分自身を信じることができる?この曖昧模糊で形而上学的な存在の理性的観点に基づく証明の意味が無くなってしまったこの世界で...」その瞬間、私の記憶に蘇るかつての災禍。その災禍で贄に成り果てた港。「港はどうなってしまったの...」「彼は神の記憶に閉じ込められたのさ。奇蹟として、そしてこれからを切り開く軌跡として、軌跡という名のナイフとして...」「どうして彼なの、港だったの...」「彼の能力がいけなかったのさ。彼のトランス能力が...」彼女はしょうがないと言いたげな顔でやれやれと私の前で肩をすくめて見せた。「ふざけるなッ!」私は彼女の服の襟をつかみ。彼女を睨む。そしてその姿を見て驚いている彼女の姿。「なるほど、あなたの存在証明はあなた自身の経験、そこに結びついた感情と同格の彼の存在なのですね。そう、あなたにとっての彼はあなたが思い描く神と同じ姿のようだ。」「何を言ってッ?」「契約してよ。私と。」「契約?」「そう、これからの世界で存在するためには互いの存在を観測しあわなければならない。私は神に復讐をしなければならない。あなたは港を取り戻したい、そうだろッ?そうさ、だから統合するのさ。互いの記憶を差し出して相互補完しあう観測者になるんだ。そう、これはかつての神の原初の契約、その真似事でしかないが、その神を殺すには神に近づかなければならない。」私は彼女の言葉に顔を歪ませる。「つまり、どういうこと?」「契約してよ。対価は互いの記憶。互いに生きる意味を重ね合わせ、神の正義に不義を突きつけようぜッ!私たちへの正義を重ね合わせ、神を殺し、港を取り戻し、この世界を、今を、この手でもって殺そうッ!そうすれば、そこは、この世界は私たちの過去の希望の成就、究極の私的理論値の世界、私たちにとっての天国になるだろう。そうすれば...」「そうすれば...」「きっとすべてがうまくいく。その天国で私たちは幸せになることができる。」彼女の言葉は真に迫るものがあった。その言葉に酔いしれて、彼の語ったイメージの道にその契約が導くメタファーに私は...頷いた。頷いていた。私も彼を諦めたくはなかった。それに彼のいう理想には地に足ついた希望があった、私はそんな風に感じたから。彼は私にナイフを差し出した。そのナイフを見た瞬間、私も私の右手にそのナイフと同じものを持っていることに気づいた。彼と私はそのナイフを交換し、彼はそのナイフで右耳を、そして私はそのナイフでもって左耳を切り落とした。その瞬間、右耳を切り落としたナイフはアセイミーナイフに、左耳を切り落としたナイフはダガーナイフに変わり果てた。私はそのナイフを見た。そのナイフに反射してうつった私の姿は死んでいた。そう、私はこのナイフでもってかつての私を殺したんだ...

こうして夜見は死に、(sin)生、生まれ変わったのだった。

第30章 完

読んでくださってありがとうございます。

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