ep.100 今までの時間遡行”D” 前編
今までのTime×Spiral。
今までの登場人物(名前付き)
土井中条、今生希代、宇津野潘、弐趾原天光、﨑野夜見、跡野預御、時田、港、懸餅蒼汰、久留智海、ウノ、ドゥクス、サー、アトロ、イブ、ゼクス、セプター、タリスマン、クロウス、A、赤坂、天肴翔、
詳細
土井中条:彼はどこにでもいるような退屈な姿だった。それが私たちの第一印象だった。しかし、彼はこの世界の命運を分つ特異点であった。彼の手にはナイフが握りしめられていた。そのナイフが私たちをめった刺しにしてこの地に堕とした。私たちは墜落しながら、堕ちゆく我が身を呪い、この呪われた世界の崩壊を、そして消滅をただ見ているだけしかできなかった...
性格:私は本が好きだった。私はとある作者の小説に依存していた。私は推している小説家の新作が出るのを待ちに待っていた。私は自転車にまたがり、駅前の書店へと向かい疾走する。しかし、そこには非日常が広がっていた。制圧される本屋、崩れるビル、泣き叫ぶ誰か、そしてけたたましく鳴り響くサイレン。そしてその喧騒の中心にその本はあった。そしてその本を握りしめている彼ら。彼らは純然たる白色の迷彩服を着ていた。彼らは本棚にその手に携えた銃を乱射し薙ぎ払う。「何をしているんだッ!」私は止めに入った。しかし彼らの体術によって組み伏せられ、地面に押し付けられた。その瞬間、私の目線の先には...「ついに見つけたぞッ!悪魔め!」彼らはそう叫んでいた。しかし、そんなことはどうでもよかった。もう私はこの本を手にすることができたのだから。私の本を捲る手が止まらない、止められない。「邪魔をするなッ!」私は彼らを椅子にした。そう、彼らは私の読書の贄となったのだ。
→私はすがすがしい気分で起きた。なんていい気分なのだろう。しかし、そんな気分と寝たような感じのしない気怠さが襲い掛かってきた。寝ても疲れが取れない。最近はずっとこれだ。私は病気なのだろうか?
→私は最近酷い悪夢によって苦しめられていた。その夢は私が誰かを傷つけて、そして殺すような夢だった。最近はその夢を見すぎて朝ご飯がおいしいと感じることができなくなっていた。そう、このご飯の中に夢の中の私が毒を盛ったんじゃないか、それとも私はもうこの夢という名の毒をこの身に宿してしまっているのではないのだろうか?わからない。しかし、わかることに理由があるようにわからないことにも理由はあるんだろう。そう、この手紙が来たことがこのわからないということに対する答えなのだろう。
→それは光陰病院という病院の紹介状だった。その病院は私にとっての都市伝説だった。そう、この手紙が来ているこの現実はまるで夢のようだ。紹介状のあった駅前に行くとそこには白衣を着た人物が待ってましたと言いたげな顔で現れた。私はその顔がとても気持ち悪いと感じた。どうしてだろう?この気持ちの悪いそいつの名は時田と言った。彼は挨拶もそこそこに車の中へと私を促した。車の中は外見よりも広く、落ち着いていて、そして高級感のような気品を気取ったような印象を受けた。私の瞳にはその中にいるそいつ(時田)の姿がひどく異質にうつった。その異質さが私を取り巻くすべてを、視界にうつるすべてを気持ちの悪いものへと変えていく。嫌だ。気持ち悪い。私は吐き気を催しながら、そいつの話を聞いていた。
→ここが病院?外見からは想像もつかないボロボロの建物。よく言えば芸術へと極端に傾いた建築と形容できなくもない建物がそこにあった。辺りは木々に、そして微かに海の香りがした。海が近いのだろうか?→中は見違えるほどに綺麗だった。外見とのあまりにもかけ離れたギャップに心胆が寒くなるような感覚を覚えた。壁や天井がそして床が純然たる白に覆われて傷一つなく清潔に保たれていた。私は診察室に通された。そこで待っていたのは一人の男。見ているだけでストレスが溜まってしまうような雰囲気を纏う男。私が私の物差しで人間を仕分けるとすると時田と港は同じ種類に区分けするだろう。そう、そいつ(港)は時田と同じ雰囲気を纏っていた。だらしない髭面、締まりのない半開きの唇、そして話し方の不器用さ。まるで自信がないですって言いた気な話し方。そう、その話し方から私は彼が普段人と話していないんだろうなと感じていた。彼は彼の声にあるそんな不器用さを自覚しているのだろうか?彼はその話し方を誤魔化すように大げさな声色をつけて話していた。まるで舞台の上で踊る道化のように芝居がった感じに...私はその声を、そんな風に解釈した瞬間、彼のことが嫌いに、大っ嫌いになった。
→早速診察が始まった。診察の内容は具体的な症状を、夢の内容をそいつに話すことだった。すなわち、それは私の見た夢の具体的な内容を彼に話すことだった。私は夢の内容を忘れてしまうなんてことはなかった。むしろ、その夢は現実と遜色なく、むしろ夢で見せつけられる様々な人の死にざまは現実でのドラマや漫画なんかの表現よりずっとリアルだったから記憶に焼き付いてしまっていた。最初に私は直近に見た夢を話した。そう、本屋での虐殺。あのすがすがしい夢を...たぶん、私がこの夢を選んだわけはこの今に対しての憂さ晴らしがしたかったという側面があったのだと思う。私はいつの間にかナイフを持っていたんですよ。そしてそのナイフで私は彼らをめった刺しに、ぐちゃぐちゃにしていったんです。そして彼らの持っていた銃を奪い彼らにぶちまけたんですよ。その時の彼らの顔と言ったら、面白いったらなんの!そう、彼らにとっては、彼らがぐちゃぐちゃにしたあの本たちは、その身でもって彼らの行く末を案じた予言の書だったのでしょうねッ!これぞまさに自業自得という言葉の存在意義なんでしょうねッ!アハッアハハハハ!
→私が夢を話し終えた時、彼の顔は青ざめていた。どうして?どうしてそんな顔をするの?
→入院だって?どうして入院なんて?こんな夢程度で入院だって?彼はおどおどしたような顔で私を見る。そして彼は震えた声で、動揺たっぷりの声で端的に説明した。”効くかもしれない薬がある。しかし、その薬を使いたければ入院をしろ。経過観察を見たいからなッ!”嫌だ。入院なんて、私は今までだって入院なんてしたことないっていうのに。ただ寝ても疲れが取れないだけなのに...仕事だってあるのに...そんな言い訳を彼は真顔で返す。その否応なしの態度に私は気持ちの悪さを覚えた。そう、彼は自信がないように見えて、その態度にはわざとらしく隠したような軸のようなものがあった。その意志の軸とでもいうべきそれを見透かした私は、そいつ(港)への、そしてこの病院に対しても信頼も揺らいでしまった。
→私はこの男によってこの病院に入院という名の監禁をされてしまったのだった。私はこの病院から出なければならないと感じていた。男(港)から渡された薬をまじまじと見る私。その薬は真っ黒のカプセル状の錠剤だった。その錠剤は黒光りしてその光沢がかった表面に私自身の顔を映し出していた。私はこの錠剤を飲むことに対して抵抗感のようなものを感じていた。これを飲んでしまったら私は...その時、寝たふりをして病室のベットでうつ伏せになっていた私の左耳が音を拾い上げた。「本当にあれが例の悪魔なんですか?」「ああ、まさしくあの夢だ。我らが探した悪魔がこんな簡単に見つかるなんてなッ!」悪魔。その言葉、どこかで私は聞いたことがあった。その響きはあの本屋で、夢の中で殺した彼らの断末魔の指し示した単語だった。そうか、お前たちは生き残りだったんだ。あの夢で殺し損ねたあいつらの仲間だったんだッ!私は病室を飛び出した。そこにいた二人の男、一人は知らなかったが、もう一人は港だった。私はいつの間にか持っていたナイフで彼をぐちゃぐちゃになるようにめった刺しにした。横たわる彼の口から溢れ出した笑い声はこの私自身の笑い声だった。アハハハハッ!その声はこの中で木霊する残響。その残響を背に私はこの病院を飛び出した。
→私は病院から抜け出した。するとそこは水族館だった。潮の香りの正体は海でなく水族館のものだったのか...私の前には大きな水槽が広がっていた。その水槽は私が今まで見てきた水槽の中で一番の大きさだった。まるで地平線の彼方まで続いているかなんて感じてしまうほどの大きさだった。中でジンベイザメととイワシの群れが”自由”に泳いでいた。私はその姿から思わず瞳を逸らした。彼らはほかでもない私たちだった。盲目的不自由の中で自由に過ごしている私たちだった。私は背後を振り返る。そこには二人の青年がいた。彼らは学生服を着ている。高校生だろうか?彼らは水族館のパンフレットを片手に駄弁りながら水槽を傍目に歩いていた。彼らはたぶん駄弁ることを目的にこの水族館に来ているのだろう。この水槽をおかずにして、会話を弾ませているのだろう。彼らを見た私は...私は彼らから瞳を逸らし、その奥を見た。そこには視線が合った。私を見ている視線が...たぶん、その私の感じるこの視線は、不自由の始まり、盲目的自由に対する受動的なワクチン、その能動的な拒絶、つまりこの水槽に対するこの私自身の画だったんだ。その視線の始まりをたどった私の瞳の前には異質な水槽があった。この水槽は私がさっき見た水槽よりも一段と大きかった。その水槽は水で満たされていた。その水は静寂を称えていた。まるで死んでいるように...
→その視線の正体は一人の少女だった。彼女は私に問いかける。「まあまあかな。変化がなくて退屈に思っていたんだ。」彼女は私の返答に嫌な顔を返した。「どうして?」私の瞳には涙が浮かんでいた。「だったらなんだ?」彼女の瞳にも涙が浮かんでいた。「どういうことだ?」その少女は私を見ていたずらに笑った。そして彼女はわかりきった説明を繰り返す。水槽のメタファー、生の展示と死の展示。彼らは生きたまま死んでいる。でもそれを私たちは軽蔑することができない。なぜなら、私たちも彼らのようにのうのうと生きていたから、無知なまま自由という名の錯覚を味わい、そしていつしか無知なまま不自由を生き続けた自分を自分自身の手でもって殺してしまう。「機械人形に成り果ててしまうのよッ!」彼女は恐れていた。自己幻像視の存在を。もしその存在を自分自身が否応なしに認めてしまったら、その存在を自分自身で否定することができないのなら、そしてその存在の意図せぬタイミングによって引き起こされた強襲だとしたら、私の展示は、私の生は意味を失くしてしまう。死が生きていたんだ。「違う、そんなんじゃない。それは救いなんかじゃない。それは向かうべき理想だ。生きていれば誰もいない世界なんて存在しない。そんなことはわかりきっているだろうに。私はこの水槽を見るまではただの空想の産物だって思っていたんだ。死の、メタファーの展示、生きている死なんてさ。でもこれを目の当たりにした今、死をも否定できるようになった今なら、私ならわかる。そう、私はこの世界の終末を見たんだ。だから感動したんだ。そうだ、私は生が嫌いだ。大っ嫌いだ。生きていると、死を前にして自身の選択を後悔する奴の顔が浮かんでくるんだ。そう、みんなそうさ。みんな死ぬ前に思い出すのは後悔なんだろうよ。そう、まさに今のお前の姿のように。お前は生きているのがつらいと嘆きながら、自身の存在を、自分自身の究極の否定の象徴、その存在を探し求めて、諦めてしまいたい卑怯者さ。お前は解放されたいんだ。だけど、お前の見ているものは解放でなく開放に過ぎないんだろうよッ!」彼女の灰色の瞳が世界に浸された。そうだ、私が彼女をこの底なしの奈落へと突き落としたんだ。彼女の瞳は黒く濁る。「黙れ、黙れッ!黙れよ。私は卑怯者なんかじゃない。卑怯者なんかじゃない。」彼女は私の目の前で自分自身の首を絞めだした。それは自分勝手の開放の儀、愚かな行為。そんな行為に意味なんてない。私は彼女の姿を見て笑っていた。「お前はこうやって逃げてきたんだろッ!自業自得なんだよ。この生はお前のものじゃない。私のものだッ!」私は持っていた包丁を瞳の前の彼女へ向かって放つ。彼女の左目に包丁が突き刺さり、その瞳の中にいた私自身を貫いた。その包丁は渦を成した漆黒の瞳を吸い込んだ。包丁だったものは漆黒のダガーナイフへと変化する。ダガーは私の手に還ってきた。「どうやら、私にとっての救いは私を見捨てるようだッ!お前は私の理想の贄となり消えろッ!奈落の底という名の無へと堕ちていけッ!」私は私をこのナイフでもってめった刺しにした。→...
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ここまで見たオレは頭が痛くなる感覚を覚えていた。どうして?オレの見間違い、いやそんなわけがあるわけない。それにカノジョは誰なんだ。オレが知らない存在なんておかしいじゃないか。彼女は水族館から出てくる彼を歩道橋の上から眺めていた。「何を見ているの?」次の瞬間、彼女は振り返ってオレを見た。彼女はオレを見ていたずらに笑いながら話し始めた。「この世界はSerialWorld 。嘘は夢という名の真実に、真実は退屈という名の虚構へとかわるがわるの渦の様。その渦の中心でほほ笑んでいるのは誰のこと?それは運命という名の因果律、その手でもってしろしめし、時間を喰らい笑う悪魔、そいつの名前はタイムマシン。」
読んでくださってありがとうございます。




