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タイム・スパイラル  作者: やあやあやあ


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第弐拾章 任務#2

ダッダッダッ...

僕は一人でこの長い廊下を駆けていた。「どうして、こんなことになるんだ。」この建物内に響き渡るサイレンが僕の心を追い立てていく。背後から聞こえてくる足音は僕の足音にぴっとりと張り付いていた。まるで、あいつは僕のすぐ後ろにいるかのようだった。僕の心を鷲掴みにした恐怖によって僕は背後を振り向くことができないかった。僕に残された道はこの先にある出口、僕たちしか知らない非常口から逃げることだった。

ダッダッダッ...

僕の背後の足音が大きくなっていく。その音にあてられて僕の鼓動がはやくなる。呼吸が速くなって、喉が痒くなって、舌が塩辛くなって、床を踏みしめる足に気遣う余裕なんてなくて、無理に酷使した足は痛くなって、靴紐がほどけて、その靴紐に脚がとられて転んでしまう。

ダッダッッダ...

身体の右半身を強く地面に打ちつけた。「いッ...」しかし、僕にその痛みを味わう余裕なんてなかった。僕はその現実の地に足ついたこの痛みよりも、この心に冷汗のように纏わりついていた恐怖が纏っている絶望の予感への気持ち悪さが苦しさが嫌だった。その浮いた予感にあてられた僕はその靴を、靴紐がほどけた靴をその場に残して走り出した。(まあ、これでペナルティはチャラかな?)しばらく走った僕の瞳に見えてきたのは会議室の入り口だった。そのドアにはいくつもの銃弾が撃ち込まれた痕があり、今にも崩れてしまうような姿だった。その姿を見て僕は改めて実感する。任務は失敗した。すべて無駄になってしまった。仲間は同胞は死んでしまった。同胞...

僕は思い出していた。作戦の前、僕たちがこの通路をあんなにも楽観的に歩いていたあの時を...もうあの時のある意味幸せだった日々が遠い昔のように感じられてしまう。退屈なんて義務だなんて割り切らないでもっと楽しめばよかったな、なんて今更か。今更そんなことを考えるなんて贅沢でしかないな。

ダッ.ダッ.ダッ...

そんな追憶に浸っていた僕を呼び起こすノイズ、その足跡はどんどん大きくなっていく、しかしその足音はずっと同じペースを刻んでいた。どうして?音は、その足音はどんどん近づいているというのに?歩幅が大きいのだろうか?それとも床を踏みしめる力がどんどん強くなっているからだろうか?違う。僕にはわかる。敵はどういうわけかこの僕の走りと同じペースの足音を刻みながら、着実に近づいてきているということを...

ダッァダッァダッァ

次の瞬間、その足音が、絶望の足音が僕の耳元で鳴り出した。その音はまるで僕の耳の中を走っているような音だった。その音は僕の耳元を行ったり来たりしているかと思えば、次の瞬間耳の奥へ、鼓膜を揺らすような振動と張り裂けるようなノイズが耳の中を駆け巡り、そして右耳の鼓膜が破れて血がその耳から流れ落ちていった。そしてその耳に纏わりついたモスキート音が周囲を、そして他でもないこの心を張りつめたものへと変えていった。

ダンダンダンッ!

頭を殴りつけるような音がする。どうしてだろう。その音はもう音を拾うことのできない右耳から入ってくる音だった。僕はその音に既視感を抱いていた。そう、僕はこの音を一度どこかで聞いたことがある。どうしてそう思ってしまうのだろう。この頭を揺らすような不快感は初めての感覚だっていうのに、この音自体はどこかで一度聞いたことがある、そんな確信があった。僕はその感じている確信と未知なる感覚の狭間にいた。そう、そんな気持ち悪い狭間にいた。そして僕を挟み込むその感覚は独立していなかった。その感覚は僕という共通項を用いることによってそれらは互いに結びついていた。そしてその感覚は重なろうとしていた。僕を置いてけぼりにしたままで...

ダンッダンッダンッ!

身体全体を殴りつける音がする。どうしてだろう。その音は僕の周りを取り囲んでいた。まるで鷲掴みにするように。そう、僕は誰かに鷲掴みにされていた。僕の身体ごと大きな手が僕の気づかぬうちに握りしめていたんだ。そして僕はその手を、握りつぶされたくない僕はその手の平を、殴りつけていた。しかし、その手の平はびくともしない。「畜生ッ!」どうして止まらない?こんなに強く殴りつけているというのにッ!その手の平は生き生きとしていた。僕はその手の平を殺すつもりで殴っていた。しかし、その手は笑っていた、嘲笑っていた。そう、その手の平には死なんてなかったんだ。身体もない手だけの生き物なんていない。なのにどうしてその手は生き生きとしているんだッ!その手は生きていた、死のない身体、死ぬことのない体で生きていたんだ。たぶん、その手には身体があるはずだ、あったはずだ。そうさ、その手は身体から意志を持って切り離されていたんだ、力を籠めたままでまま切り離されているんだ。だから死ぬことなんてないんだ。

ギシッグシッ...

身体の節々が悲鳴を断末魔を上げ始める。初めに手が腕が動かなくなった。次に膝から下が動かなくなった。そしてキリキリと体が締め付けられ始める。僕はこのどうしようもないこの場所で死にたくないと感じていた。そう、死んでたまるかと感じていた。しかし、どうしようもない現実は未だここで僕の命を掴んでつぶそうとしている。その現実を直視した僕の心に湧き上がってきたのは怒りだった、どうして僕は死ななきゃならないんだ。どうして僕は殺されなきゃならないんだ。おかしいじゃないか。今までの苦しみは、今までの生きることの意味の決算がこの末路だって?ふざけるなよッ!この僕が生きてきたのはこうやって死ぬためじゃないッ!こんな末路じゃないッ!殺されるためなんかじゃないッ!

次の瞬間、僕はいつの間にか持っていたナイフでその手を真っ二つに引き裂いた。辺りを穢す真っ黒な血、しかしそのナイフは未だ僕の光のままだった。そして僕の目の前に広がるのは闇だった。その闇を前にして湧き上がってくるのは、その闇を拒絶する意志だった。

世界の闇を前にした僕たち三人は迫りくる運命の鼓動を感じていた。「ねえ?作戦名何にする?」彼女はあの時のように僕に笑いかけた。「”そんなことどうでもいいだろ”なんてもう言えないな...」僕は彼女に笑いかける。彼女の笑顔はいつも僕を安心させてくれた。そう、彼女のいつもの笑顔に僕は救われていたんだ。失ってから気づくなんて残酷だな。「俺から名前の提案をさせてもらうよ。【ブラック・タイム】なんてどうだ?」僕はその声に頷いた。そうだ、僕たちがいつも頑張ることができたのは彼の名前があったから、僕は、僕たちは生きること、生きている過程に意味を見出すことができていたんだ。結果がすべてだなんてもう言わないよ。そう、僕は、いや僕たちの目指す希望は、この名の下に一つへと重なったんだッ!これは予感なんかじゃない、これは確信だった。そして、僕はその希望をのせたこのナイフをこの闇に振り下ろした。切り裂かれる闇、そして現れたのは道。希望の道。そこにいる僕はその道の先を見ていた。

バァン!

僕は会議室の扉を開けた。そしてそこにあったものを拾い上げる。それはアミュレットだった。僕はそのアミュレットを左耳にかけて、「シフト」を発動しこの場所から逃げようとした。しかし、アミュレットは左耳にかからなかった。もう、左耳は切り落とされていたのだから...切り落とされた左耳から零れ落ちる真っ黒な液体、それがこの会議室を、壁が床が天井が真っ白なこの会議室の本来の姿をあらわにする。そこには、その会議室の中央には夜見の死体があった。彼女は首筋から艶やかな液体を流していた。その姿はまるで今まさに死んだかのようだった。大きく後ずさった僕、会議室は彼女の血によって真っ赤に染め上げられていた。その血に足をとられた僕は地面に仰向けで倒れてしまう。「いッ...」体の右半身が痛くなる。しかし、その痛みはさっきよりも長いこと僕の体の周りを漂っていた。そして僕の瞳には、仰向けで倒れた僕の顔面を覗き込む一人の人影があった。その人影は僕だった。どうして僕が二人いるの?わからない。こんなことができるのは宇津野だ。しかし、宇津野は...

目の前で僕を見下ろしている()は話し出した。「あなたのやったことに意味はあったの?彼らはもう死んでいるというのに。」「黙れッ!意味はあった。あったはずだッ!」「どうしてそう言い切れるの?やっぱりあの災禍はあなたの自己満足だったんでしょう?」「黙れッ!自己満足なんかじゃない。あれは意味のある復讐だったはずだッ!彼らにとってあの行為は希望に、そう救いにだって見えたはずだ。それにトランス能力者の力の源流はわかるだろッ!僕じゃなくたって誰かがやったはずだッ!」しかし、目の前の()は僕を見下しながら嘲笑っている。「何がおかしいッ!」目の前の()は笑い続ける。「フフフ。それじゃあどうしてあなたはここにいるの、この監獄に?」「えッ?」

ここは監獄”Sand Prison” 。トランス能力者を閉じ込め隔離するための施設、放棄された時間の中で僕たちは自由に過ごしていた。ある日、すべてを思い出すまでは...

どうして?どうして僕はこの監獄に戻ってしまっているんだッ!僕たちはここから脱獄して、幸せになったはずだ。そうだ、僕がこの手で道を、幸せになるための道を切り開いたはずなんだ。そうだ、僕は希代だ。彼らの最期の希望なんだッ!ここにいるわけにはいかないんだ。はやくここから出なければ...彼らのところへと行かなければ...しかし、僕は、体を動かすことができないことに気づいた。どうして?動かすことができないんだ?「さすが脱獄王。ここまで来れるなんてさ。だけど、いつも言ってるよね。出てはいけないって。その行為に意味なんてないってさ。だって、この監獄の出口はほかでもないあなたが殺したんだから...」僕はいつの間にかその手に漆黒のダガーナイフを握りしめていた。そしてそのナイフをつたう艶やかな液体、その血はまだ暖かかった。

その血は僕の罪の象徴。その血を前にして僕はすべてを悟った。次の瞬間、そのナイフについていた艶やかな血が真っ黒な血へと貶められる。そしてその血が目の前の()の正体を明かす。その顔は宇津野の顔をしていた。しかし、彼は宇津野じゃない。宇津野なんかじゃない。だって宇津野はこの手で殺したんだから。鳩が豆鉄砲を食って死んだような顔を浮かべていた僕を見て笑っていた彼は僕の心を見透かしたように告げた。「わかっただろ?お前の行為に意味なんてなかったってことは...俺はタリスマンだよ。運命の執行人さッ!」彼はそう言って笑った。その声は紛れもない宇津野の声だった。

僕は僕の、鷲掴みにされて全身を束縛されていた心の、束縛が解かれて動くことができるようになっていることに気づいた。僕の目の前に立つ男は油断しきっていたように見えた。僕は目の前のタリスマンに向かってこのダガーナイフを振り下ろした。そこには手ごたえがあった。しかし、次の瞬間その感覚が霧散した。僕はそのナイフの先を見た。そのナイフが貫いていたのはさっき僕が拾い上げていたアミュレットだった。

読んでくださってありがとうございます。

今日、いつものようにせんべいを食べていると

噛みしめた瞬間、おいしさとともに激痛が走りました。

「虫歯だろうか?」なんて考えて歯磨きをしてみると

全く痛くない。不思議に思いながらもう一度せんべいを

食べてみるとやっぱり痛い。顎が痛い...

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