第二十章 ブラック・タイム
「まさか...これは別の力?」そんな言葉を零し狼狽していた一人の天使、いや彼はもう神に近い姿だった。彼の神力はこの天使を、そしてこの世界を知ろしめす絶対的な力だった。しかし、彼の力は弾かれた。そう、簡単に。どうして?彼は思考を一瞬手放してしまった。しかし、その一瞬の隙を私は見逃さなかった。
私は自身の能力”セクト”を発動。彼はこの世界をその一瞬の隙に覆いつくした。時田は何が起こったのかわからないで狼狽する。「どうして?お前の能力は、お前のトランス能力”エスタスティック”は外見を自由自在に変えるだけの能力だったはずだ。なんだこれは、どうしてお前がッ!」「黙れッ!俺は宇津野だッ!」そうだ、私の覚悟は、お前ごときに邪魔できるわけがないだッ!この世界はお前みたいな中途半端な奴にどうこうできるものじゃないんだよッ!
彼の能力によってこの世界は大きな闇の中へと沈んだ。時田の神力もどき”タイム・スパイラル”によって、うねりだしていたこの空間はそして時間は、その力動をやめて、その影の中で切り取られたかつての時を刻み始めた。その時間は一つの正義だった。そう、この時間はかつて神が生きていた原初の世界の時間だ。神の行動・思想・道徳が善い、正しいと肯定された世界。能無しの猿か、神かで二分されていた世界。その世界では神の御命において善いか、悪いかで二分化されていた。したがって中途半端は存在せず、神がすべての世界だった。そして今、かつての世界のルールが強制され、彼の目の前にうつる敵がこの世界の不義と成る。彼は自身の神力”セクト”を発動した。
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僕は空を見上げる。その空は黒一色に染まっていた。そう、そこには月も星も雲も何もない深淵が広がっていた。そしてその空の彼方で輝いていた一つの光。そう、その限りなく小さく、しかしすべてを見通すかのような透き通っている光。僕はその光を見た瞬間、すべてを悟った。「そうか、宇津野が...やってくれたんだッ!」その声に反応したのはズタボロの彼女”﨑野夜見”。「どういうこと?どうして彼は、彼の能力はただ外見を変えるだけだったはずでしょう?私が気を失っていた間になにが起こったの?」「わからないけど、わからないけどッ!この景色は僕が今まで見てきたどんな夜空よりもきれいだ。そう、まるでこの漆黒の闇の中に引き込まれしまうかのようだ。そう思わないかい?」僕と彼女は頭上に輝くその光を、そしてずっと彼方まで広がる深淵を見続けていた。
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「どうして、吾輩が!俺の計画がッ!こんな簡単に崩れてしまうなんてッ!俺の世界を、よくもよくも、やってくれたなッ!」彼は祝詞を唱え始める。「俺は諦めないッ!諦めるわけにはいかないんだッ!俺は運命の執行人だッ!俺はまだ約束された報いを返していないんだ。これからだ、これからなんだッ!俺はお前たちのような咎人に、そして死んだ神に復讐するために俺は神にだって魂を売ったんだぞッ!それがどうして、悪魔に、そしてお前にッ!」彼の表情は怒りで歪んでいた。「どうして、どうしてお前が生きているんだッ!おかしいじゃないか。お前は死んだはずだッ!」彼は本来の神力”タイム”を発動した。彼を中心に纏うのは神の正義。そしてそれは消失したはずの時間。その時間はこの世界に根差す今を壊していく。しかし、その神力は不完全な代物だった。この状態を維持するために彼は自身の記憶を使っていた。彼の今までが白く風化して無くなっていく。彼はその気持ちの悪い苦痛にその表情を歪ませていたが、その瞳は未だその彼を捉えていた。その瞳に宿っていたのは殺意でできた覚悟だった、信念だった。そう、彼は目の前の男を殺すことだけにすべてを賭けていた。たとえ、意味を、記憶を失ったとしてもッ!
彼はその手を頭上に掲げる。その瞬間、彼の手に生じた空間を捻じ曲げる渦、そしてその渦から現れたのは一冊の本だった。そう、それは彼の聖遺物”予言の書”。彼はその予言の書の最期の頁を開いた。そしてその内容を高らかに叫ぶように告げた。
「時は来たれりッ!世界よ、胎動せよッ!
自己成就せり我が予言”世界消滅”よッ!」
次の瞬間、世界にひびが生まれた。そのひびはこの深淵を引き裂くように、この世界を引き裂くように走り、そして絶叫とともにこの世界がズタズタに引き裂かれていった。そしてその裂けた傷から溢れ出したのは純然たる極光だった。その光にあてられてこの世界が消えていく。
「そうか。その本。お前あの臆病者の...。なるほど、知っていたさ、始まりと終わりが同じなんてことは。だけど臆病者、そんな不完全な予言の書によるプロローグに正しい創造が行えるのかい?見ろ、この世界は未だ形を保ち、いまだ光は闇を打ち払えていない。このままじゃ、お前すらこの世界の最期に引っ張られてその力を失ってしまうだろうよ。」「いいんだ。俺はもうお前だけでも殺せば、お前だけでも殺すことができたならもういいんだッ!さあ、死んでくれ、この世界に隠れ潜んだ卑怯者よ、逃げていただけの傍観者よ。この世界とともに心中しろッ!死に晒せやッ!」そんな断末魔がその極光に焼かれて消えていった。そして、彼の前には残された”予言の書”があった。彼はその本を拾い上げた。そして彼は持っていたナイフを使ってその本に致命的な傷を書き込んだのだった。
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