イメージ→メタファー#1
僕は彼の問いかけによって現実に引き戻されてしまった。「大丈夫かい?そんな狐につつまれたような顔を浮かべて...」彼は僕の顔を心配そうに覗き込んでいた。僕はそんな彼の顔から思わず瞳を逸らしてしまう。「大丈夫、ありがとう...」僕はゆっくりと彼から自然な流れで彼との距離をおいた。そして、僕は言い訳を重ね続ける。僕はもう彼の表情を見ていなかったが、僕にはわかる。彼は怪訝な表情を浮かべて本気で僕のことを心配しているような表情を浮かべて、そんな瞳で僕を見ているのだろう。嫌だ。そんな瞳で僕を見るなッ!
授業が始まった。僕の前で教鞭をふるう教師。僕は彼が嫌いだった。「どうして?」「だってあいつゆっくりと話すじゃん。自信ないみたいな感じにさ。まるで、彼は今に納得できないでいやいや教えてやっているみたいな態度が透けて見えるんだよッ!たぶん、彼の軸は、彼自身はここにはいないんだろうな。彼は逃避しているんだ。この現実からさ。僕はそんな印象を持ってしまったんだよッ!」「考えすぎじゃない?」僕の言葉を聞いた彼はどっちでもいいみたいな顔を浮かべていた。そうだ、彼の表情は正しい。こんな愚痴を言ったところでどうしようもない。そう、僕はこの瞬間、僕が辟易したあいつと同類の卑怯者になってしまったんだ。僕は椅子にもたれかかり深いため息をついた。
「はあ~。ままならないね。もっと難しければいいのにな。そしたら僕はこんな卑怯者にならずに済んだっていうのに。」「何が?」「何がって何のこと?」「もっと難しければいいのにって?」「教員になるためには資格試験のが必要だろ。それがもっと難しければいいと思ったんだよ。」「どうして?」「だってしょうがないじゃん。あいつみたいな自信のない姿から何を学べばいいっていうんだよ。そう、たぶんこれは教師になるために必要な資格試験が難しくないからいけないんだ。」「受けたことあるの?」彼は僕の言葉をにやにや笑いながら聞いていた。「違う。僕は今を嘆いているんだ。今がこうだから、そう考えざるを得ないんだよッ!そう、もっと難しくなってしまえばいいんだ。」「どれくらい?」「そう、大衆が一番難しいって囃し立てるほどに難しくしてしまえばいいんだ。そう、例えばあの医師国家試験と同じ、いやそれよりももっと難しくなってしまえばいいんだッ!」「教員不足だっていうのに?」「違う、私は覚悟の話をしているんだよ。そう、それは納得の話なんだ。教師は人を導く職業だろ。それは教師等の人を導くような職業だけが持っている尊ぶべきアイデンティティなんだよ。そう、僕はそのアイデンティティを高めるべきだって言っているんだ。そうすればこの不条理な現実に大いなる意味が宿るだろうよッ!」僕がそこまで言ったところで彼は笑い出す。「フフフ。あなたはかつてのようになりたいのかい?でも、そんな覚悟の話ならそんな他責に陥る必要はないよ。」「どうして?」「簡単な話さ。馬鹿になってしまえばいいのさ。救いようのない馬鹿に。そう、誰があなたを導いてもいいような愚かな知恵無しの猿になってしまえばいいんだよ。そうすれば、あなたが抱いたどうしようもない現実を自分自身の手によって切り開くことができるだろうよッ!」僕はその言葉を聞いて頭が真っ白になった。「それはなんか嫌だ...」「じゃあ、あなたはずっと卑怯者のままで、今を生き続けるしかないよ。そう、あなたにとっての、この無意味無価値な現実をね。だけど、この現実はこの今は全部あなたのせい、自業自得の死体で作られたイメージでしかないんだ。そう、だからその愚痴にも意味はないんだ。そう、あなたはその手でこの現実を貶めてしまったんだ。そう、あなたはあなたの瞳にうつる無意味無価値のこの世界にその心をあなた自身が置いているのでしょうね。この永劫回帰の退屈な今の中にいるあなたの姿はまるで時間の流れに身を任せた水みたいだ。それは意思なき個人。そう、あなたなんていなくていいんだッ!あなたみたいな死人は、そう死んでいることすらも自覚できない死人は、生きることも死ぬことすらもできないんだッ!」彼はその手にダガーナイフを携えてゆっくり、ゆっくり近づいてくる。「大丈夫、落ち着いて、怖がることはないよ。もう、あなたは死んでいるのだから、そう、痛みなんてないよ。そこには意味だけがあるんだ。」彼は動けない僕に近づいていく。「死んでいるお前はもうどうしようもないんだ。だから私は諦めることなんてできないんだよ。そう、だから私は本当のことを話したんだ。」「嫌だッ!死にたくない。死にたくな...」「無駄なんだよ。お前はいい加減に、諦めて死ねッ!」鋭利なナイフが僕の首筋をズタズタにめった刺しに刺していった。
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「おいッ!いい加減起きろッ!」僕は起こされてしまった。どうやら、寝不足だった僕はあまりにも退屈なために眠ってしまったようだ。周囲にはじっとりと軽い小さな笑い声が僕の存在を指さしていた。だけど、僕はそんな嘲笑なんて気にならなかった。僕の人差し指は震えながら、僕の首筋へとゆっくりと近づいていった。首筋に触れた僕、そこには小さな傷”跡”があった。僕はその跡のことを知らなかった。そう、僕が眠ってしまう前まではこんな跡なんてなかったはずなんだ。嫌だ。死にたくない。僕は人差し指の先の伸びていた爪を突き立ててこの傷跡を抉った。血が僕の手を這って地面に零れていく。しかし、痛くなんてない。そう、そこには意味だけがあった。しばらくたって血が止まって、僕はその首をさする。そこには傷”痕”があった。僕はその傷痕を愛おしそうにさすっていた。
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