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タイム・スパイラル  作者: やあやあやあ
Angel

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第三十八章 生き残りの死

夜は更けて、この店はいつもの静寂を取り戻す。彼がここから出ていったことを告げていた硝子の木霊は鳴りを潜めたときにはもう、マスターはすべてのグラスを拭き終わっていた。

マスターはもう一度、その鈍い銀色のスーツケースの留め具に手を伸ばして開け放つ。そうすればこの場所を、この静寂をたちまち台無しにして、殺してしまうような、そんな欲望の塊が姿を現す。それはまさに、スーツケースの中に入っている一万円札の束、ざっと数えれば、それは”800万円”ほどになるだろう。


階段を下りてしばらく、マスターはそこに現れた重厚な扉に手を伸ばした。その扉は埃塗れで、ずっとほったらかしにされていた。しかし、マスターはこの扉の埃を拭いながら恍惚な笑みを浮かべてしまう。「嗚呼、もうこの扉の先に踏み入れることはないと思っていたんだけれど......しょうがないな。」そんな一人の呟きが、ここから消えてしまう前に彼はその扉を一気に解き放つ。そしてその瞬間、その解き放たれた扉の先から溢れ出した血が、彼の存在を塗りつぶしてしまった。


第九章 走馬灯 前編


俺の役割は、情報を集めることだった。探偵の自らの役割は様々な情報を、客観的な推理によって真実に導くことであり、そのことを果たすがために、探偵は探偵自身の主観を排した客観的に情報を手に入れる必要があった。もちろん、そんな客観的な視点を自ら携えて、事件に臨む探偵もいたが、そのすべてはいつしか限界が来てしまった。なぜなら、探偵はいつも命がけだったから。それは、たとえいつ死んだとしても、何も不思議なことではないほどに......


組織の名前は猫の手、俺はその情報部門に所属していた。その部門の役割は、組織に属している探偵の影として、その推理のバックアップだった。ただ、具体的にどんなバックアップをするのかは、個人の裁量、探偵からの依頼の内容、そして依頼料の兼ね合いに委ねられていた。

俺はこの仕事が好きだった。その個人の裁量なんて言葉のために、この仕事を自分事のように捉えることができたから......


六波羅との出会いは俺が情報屋として探偵の専属に付くようになってから......その七人目が死んだあの時だった。俺はあの時、もうこんな仕事辞めてしまおうと、辞表を提出するために集会所と呼ばれるところに足を運んでいた。その時、その集会所の通路で彼はいきなり話しかけてきた。「やあ。C-NAME”マスター”。こんなところで会えるなんて。」俺は六波羅とは初対面だった。なのに彼はまるで、俺のことを知っているように、慣れ慣れしい話し方でグイグイと距離を詰めていく。俺はそんな彼の勢いにタジタジになってしまっていた。「お前は?......」「私は、名探偵”六波羅”とでもいえば、わかるかな?」「六波羅?六波羅だって?」俺はその名前を知っていた。それは最近、俺の住んでいる町”参峰町”で話題になっている名探偵の名前だった。六波羅はいつも白装束の服を身に纏っており、その手には銃とナイフがいつも握りしめられていた。そんな六波羅の事件現場にいる姿は、どんな犯人よりも犯人らしいと思えてしまうだろう。しかし、そんな控えめに言って意味の分からない姿を無視すれば、六波羅の推理は単純明快だった。その単純明快な推理は、聞いた聴衆を黙らせ、その聴衆の注意を犯人の心の影へと扇動し、その犯人が最も苦しむようなやり口で追い詰める。そんな彼のメメント・モリはたちまち話題の的になっていた。

続く

読んでくださってありがとうございます。

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