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タイム・スパイラル  作者: やあやあやあ
Angel

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トラワナ~”十字路”の先で待っていた自由鹿~

十字路の先で私が出会ったのは、なんでも人語を理解する鹿だった。


鹿......?私はその唐突な存在が現れて戸惑ってしまった。鹿......どうして鹿が私の前に立ちはだかっているのだろう?私の感じているこの戸惑いの所為で、私はほんの少し、私の靴裏が地面を踏みしめている感覚をその場に滲ませてしまうほどの後ずさりをしてしまっていた。


私はその鹿を決して瞳を逸らすことのないように見つめていた。私の予感、いや予知めいた確信はその鹿が超常的な存在だということを告げ、警鐘を鳴らしている。まさに、あの白装束の男やら、私を追いかけてきたあの黒い渦と同じであると言っていた。しかし、私のそんな警鐘を無視すれば、その鹿はただの鹿に過ぎなかった。その鹿は堂々とした佇まいで、私の視線の向きに対して垂直な身体の向きで、顔だけ私の方に向けていた。私がその鹿の顔に意識を向けてみれば、そこには整った顔立ちがあった。まさにシンメトリーと表現するべきなその顔は、たとえその顔を半分に真っ二つにして、たくさんの鹿の真っ二つにした顔が散らばっている場所に紛れ込ましたとしても、その二つを判別することができてしまうだろう。そう、その顔はあまりにも綺麗で整いすぎていた。あまりにも綺麗すぎて、そこに恐怖のようなおぞましさが宿っていても、その美しさの陰に潜むのがパンドラの箱だったとしても、何も不思議ではないと思えてしまうほどに......


私はしばらくその鹿を眺めていた。しかし、その鹿は黙って私を見て、私も戸惑ったまま眺め続けているだけだった。そんな今に私はやりきれなさを覚えて、その気持ちが私の感じていた戸惑いを中和して消し去っていく。(通り過ぎてしまおうか......)私はそう思い至って、その鹿の横を通り過ぎようと歩きだす。その最中も、その鹿から目を逸らすこと無く、その鹿の顔を見つめながら......

私がゆっくりと歩き出したのとは対照的に、その鹿は相も変わらず私がいた場所を見つめ続けるまま、微動だにしていなかった。その姿はまるで彫刻みたいだった。


どうやら私の警鐘は正しかった。その鹿はただの鹿なんかじゃなかった。私がその鹿の横を通り抜けようとしたまさにその時、その鹿の瞳孔が私の方を向いて、「死にたいのか?」、と呟いたから......そしてその鹿はそう呟いた後、私の方に向き直り、ため息を吐く。それはまるで人間臭いため息だった。


「死にたい......?」「そうだ。あなたはこの先に歩いていけば、死んでしまうだろうッ!」「だろう?」私はこの今を呑み込めてなんていない。でも、その鹿の言葉はあまりにも明瞭で、私はそれを獣の戯言、ただの声だと無視することができなかった。そもそも、その鹿が話し出したことによって、誤魔化されてきた戸惑いが去来してしまったから、私の足は次の一歩を踏み出すことができないで、私の身体はその鹿へと向き直ってしまっていた。「言い方を変えよう。お前はこのままこの道を進めば、『必ず』死んでしまう。それは運命なんて概念でなく、例えるなら1+1は?、なんて問われているに等しい、そんなわかりきった必然だってことをッ!」その鹿は上から目線で、まるでこの私を断罪するように、私を窘めるように告げていく。その言葉に確かな自信と、その言葉を発している自身の立場を確かだって示すかのように、まさにこれ見よがしに私へと見せつけるかのように......


「でも......」私はその鹿が喋ったことと、その口調から滲み出ている絶対的な自信と、そして鹿の言う必然に込められた気迫に圧倒されてしまっていた。しかし、私はあの十字路を思い出す。私は選択した。真っすぐこの十字路を突っ切ることを......そう、”私”にはそれ以外に選択肢がない。そうだよ、私は逃げなければならない。そして私は感じていたはずだ、死の予知をッ!なのにどうしてこの鹿の死の宣告を怖がることに意味があるッ!私が今、一番恐れるべきは、私の確信が間違ってしまっていること、そして私を信じることができなくなってしまうことだけッ!


「ねえ、あなたは一体何なの?」私はその鹿に問いかける。すると、その鹿は笑ったような、それともくぐもったとも形容すべきな声を出した。「吾輩か。そうだな、自由とでも呼んでくれ。」「自由?」私はその名前を聞いたことがあった。「そう、自由、ね。それで自由?その必然をあなたは証明することができるの?そんな自信に根拠はあるの?」私の声は少しぶっきらぼうになっていた。その自由は言う。「根拠はない。証明はできるだろうが、たぶん理解しえないだろう。」そんなの詭弁だ、言い訳だろッ!「そうか、確かに、そうだ。あなたの言う通り理解なんてできないでしょうね。そんな自分勝手な感覚ッ!」私の足は鹿から一歩遠ざかった。その瞬間、その鹿は私を鋭い眼光で睨んだ。「やめろッ!」「どうして?どうして私の邪魔をすることができるのかな?そんな言い訳で、そんな言葉で私の意思を欺くことができると思いあがって?」「俺の意思を”ム”にしないでくれッ!お前は死なない、死ななくていいのだからッ!」私は鹿を一瞥した。なんて退屈なんだろうってッ!「俺たちは助かる。互いに観測しあえば、この場所で永遠に観測しあえばッ!俺たちは生きていけるッ!」「だから何?生きていけるからって何?あなたは、あなたが生きたいだけだろ?そのために私の意思を踏みにじって、私の選択を否定して、そして私を殺そうとしているだけだッ!私は生かされたいんじゃない、私は私の意思で生きたいだけッ!そのためにたとえ死を選ぶことになったとしてもッ!」私は走り出した。この道の先へとッ!その鹿を置いてけぼりにするようにッ!


私は走る。今まで感じたことのない心地よさを感じながら......そして気づけば、私は十字路に戻ってきてしまっていた。どうして、戻ってきて?そう戸惑っている私の前、その十字路の中心で、その鹿が死んでいる。その口から血を零しながら......そしてそこから零れるのは血だけでは無かった。「違う......違うくせにッ!おまえは彼女じゃないくせにッ!、ふざけるな......」彼の口から零れたのは、真っ黒の渦だった。そして私の背後から近づいてくるのは、私の黒い渦。その渦を見て、私は悟ってしまう。嗚呼、これが破局なのか......、と。その瞬間、その両極の渦が私を挟んでぶつかって、私の身体は、感覚はバラバラに引き千切られて、頭が破裂し、視界が今を仰いだ。

読んでくださってありがとうございます。

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