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タイム・スパイラル  作者: やあやあやあ
Angel

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第三十八章 私は......

第九話 呪い


やっぱり、これは現実だった。私は金属バットにうつる血まみれの私に問いかける。私は私だって。そしてそんな私の前で、あの白装束の男が笑っている、そんな世界があった。そんな偽物の世界がッ!ねえ、そんな世界でどうして笑っていられるの?そんな夢のような不明瞭の世界でッ!空間が私の前でうねりだし、それはこの私以外の世界すべてに伝播しようとしていた。だけど、そんな不明瞭に貶める今を見つめている私にとって、この今は、この私を、まさにこの私が私だって信じることのできるこの世界の輪郭を際立たせるがための道具に過ぎなかった。空間よッ!うねれ、私を中心に渦となってしまえッ!そしてそのまま消えてしまえよッ!そんな不明瞭でどうしようもない世界だなんてッ!そして、その世界が死んでしまえば、もうここは、私の、私だけの世界(サンクチュアリ)だァ!

空間のうねりが死んで、ここに現れた現実を見た私は、今までのすべてが夢でしかないことに気づく。そしてそんな夢の中で抱いたすべてが無へと成り果てていく。そこにあった憂いも、そこにあった幸せも、全部が全部上書きされていく。まさにこの瞬間、この世界の中心で、この世界の観測者の私と出会うことができたから。その私以外のすべてがただの裏切りに成り果てていったんだ。そしてその報いは、私以外のすべてに返されていく。その様はとても滑稽で、この今のために私は生かされていたんだと知った。そして私のこんな世界の初めの来訪者は、私の前で、微笑みを称えている。まるで、今の私を祝福するそんな微笑みを称えていた。


その微笑みに私はアリガトウと微笑みを返して......その瞬間、彼のローブ全体が真っ赤に染まる。湧き上がる断末魔、そして彼の艶やかな真紅のローブは、たちまち黒く滲んだローブへと成り果てた。そして、そこにあった彼の面影も消えた。そして現れたのは、私の面影?私は信じられなかった。私は、この完全な私の世界の中で、一人だけだって、そのはずなのに、私は私、なのにッ!

次の瞬間、この世界に現れたひびが生まれ、この世界に致命的な綻びが生まれた。その綻びからこの世界は裂けて、そして現れる青空。そしてその空の中央には、白装束の服を着た彼がッ!そして私の目の前には真っ黒な白いローブ、そしてそこに横たわる私の面影を纏っているのっぺらぼう。どうして、私は、違う、こんなの私じゃないって、そう思うのに。どうして私は、私の前で横たわるこの面影を私だなんて思ってしまうのだろうッ!私を私たらしめていたのはこんな面影だけじゃなかったはずだ。私の顔、私の声だって......(その瞬間、私はそのすべてを忘れてしまった。)私の記憶だって......(記憶なんてその時のさじ加減でいかようにも解釈できる嘘だった。)そう、私は持っているんだ。この私だけの世界を見ることができた私には、心が存在しているはずなんだッ!(しかし、その心が見せた世界は侵されて始めている。)私が感じているっていうの?他人の心、その存在をッ?そんなこと、信じられない、信じたくなんて無い。ここは、この世界は、私の、私だけの、聖域なんだからッ!「ようこそッ!私の聖域へッ!」私は侵されてなんていない。この世界は絶対だから、侵食されるわけがないんだッ!この青空だってくすんで、今にも消えてしまうみたいに見える。そんな青空を背景に、どうしてそんな瞳を浮かべてこの私を睨んで、見下していることができるんだってッ!「そして、さようならッ!」私はこの剣先をその男に向けて不敵に微笑んでいた。そしてその微笑みの背後で、私は横たわっているあののっぺらぼうをこれ見よがしに踏みつけていた。


私は落ち着いていた。そして、そんな冷静が私の中の炎の輪郭を描き出して、そしてその炎のためにこの世界が存在しているんだと、理解していた。だからこそ、この今は長く、そして刹那的に感じられる今だったんだ。私は生きていると思う。でも同時に現実なら、この私なんて、すでに死んでしまっているんだと思ってしまう。誰にでも平等な、そんな世界なんてあったなら、私はその世界を理解した瞬間、その世界から逃げ出してしまうから。そう、私が思った瞬間、私の中に去来する、この殺意の理由が分かってしまった。彼が私の世界を侵し、それに反発した私は彼の世界を侵す。なら、その互いに侵食しあったその部分は、限りなく現実世界に近いって、そして私はその部分を認めたくない、それだけだったんだッ!この世界の綻びも、この私を信じることができなかったから。こんな私の面影を、のっぺらぼうの横たわるこの死体に見出して、私の輪郭がぼやけてしまったからッ!嗚呼、なんだ。言葉にして、解釈してしまえば、私の絶対はただの相対的に成り果ててしまった。そんな杜撰な感覚に、私はすべてを賭けていたんだ。この瞬間をどこまでも、どこまでも祈り、そして叶えていくように......でも、だからこそ、そこには意味があって、私はそのために死んでもいいと思えて、まさに今、この私は幸せだった。この私が生きていることのバタフライエフェクトでもって、誰かが死んだとしても、(そう、お前のことだよ。)私はこの世界で、そんな誰かの存在をずっと、ずっと知らないで生きていくことができれば、幸せになることができるような、そんな理想像を思い描くことができたなら、今も未来も過去だっていらなかったんだ。必要なことは、その瞬間を信じて、そこに行くだけ。そこに向かってゆっくり歩いていくだけだった。その道が、誰かの、私の、屍の上だとしても......そして、私が初めてその屍の上を意識して歩く、その一人目が、あなたなんだよ、六波羅ッ!


次の瞬間、私は飛び上がり、この剣でこの青空を切り付けて、このくすんだ青空を灰燼に帰していく。その光景は、まるでこのくすんで見える、この私を嘲笑うかのような憎たらし気の青空を、拒絶して、まさに否定するみたいで気分がいい。そしてその空が焼けていくその刹那、私はまるでどこまでも透き通っているような光景を目の当たりにした。その光景は私が今まで見たどんな青空よりも美しかった。そうか、神はそこに宿っていたんだ。そんな感想を私は零し、この空を、こんな自分勝手な空を殺して、壊して、八つ裂きにしていく。しかし、彼はそんな私を一歩引いた場所から、呆然と眺めているだけ、なんてつまらないのだろう。それとも諦めているのかなァ!


私の前方で、彼はこの青空を漂っていた。まるで彼は水の中にいるみたいに思えた。だからだろうか、私が壊したなんて思ったこの空は、私が彼に意識を向けたその刹那、何事もなかったかのように元通りになってしまっていた。そしてそんな私の手に何かが触れる感触がして......そして私はまるで水の中にいるみたいに息ができなくなった。


私はその息苦しさと、まるで浮ついたような意識の中で、まるでその苦しみが自然だと告げるように泳ぐ、そんな魚の姿を目の当たりにした。彼らは気持ちよさそうに泳いでいた、そう見えた。でも、彼らは私を見た瞬間、私の存在が許せないとでも言いたげな表情を、そんな態度を見せた。彼らの泳ぎ方、彼らが泳ぐことによって生じている水面の波形のような、そんな些細でなんでもないところから現れる感覚だった。でも、それをただの感覚、私の感じ方だって思うには、その魚から漂う憎しみのエッジは、私の剣の刃先を軽く凌駕していた。そしてそんな魚の毒牙が私の右手を啄んでいる。そのことに私は、この瞬間まで気づくことができなかった。


私はその啄んでいた魚を剣で切り刻んで、周囲を見渡した。すると、私を啄んでいた魚が、私の周囲を取り囲んでいるように旋回しているのが見える。彼らはまるで軍隊のように、完璧な陣形を成していた。「チッ!」そのケチのつけられない陣形に、私は舌打ちをした。そして取り囲んでいる彼らすべてを駆逐するが覚悟でもって、私はこの剣を構え、その群れを睨んでいく。


次回 聖戦~21・0~


~~~

私は起き上がる。するとここは、公園のベンチの上だった。私はここで眠っていたらしい。私はいつものように鞄の中にある手鏡を取り出そうとして......なぜだろう。私の右手の感覚がない。私は左手で右手に触れようとして......その左手は虚空を掴んでしまう。その瞬間、私の中で蘇る記憶、いや記録?それはまるで何度も、何度も繰り返されたような、気持ちの悪い記憶だった。夢?違う、だってあれは夢なんかじゃない。だって夢なら、私の右手は......私は自分の右手の方に視線を向けたなら、そこにはズタズタに引き裂いた右手の残骸があった。そして私の胸にはぽっかりと穴が開いていた。その穴から流れ落ちる真紅の液体が滴って、そこに艶やかな血だまりを創っていた。私はそこにうつる私の顔を見る。そしてそこにいる私に問いかけた。「私は......」


どうしよう。私はもう言葉を続けることができなかった。私がここにいない。真紅の液体にうつる私の顔を見たくない。ただただ気持ちが悪い。どうして私は生きているの?こんなの生き恥でしかないのに、どうして私は生きているの?私が生きていた世界、あの夢の中で見た私が私だって思うことができる自信が今、失って、そのために私はこの私を否定してしまう。そして拒絶してしまいたい。こんなの耐えられないから。ここから逃げたい。どこか遠くに逃げてしまえたら......無理だ、もうだめだ私は......こんなのもう死にきれないじゃないか。


私は生きないとだめだ。『この予知夢なんて爆弾を抱えて生きなければならない。』そう、さもなければと、私は私の大切な人を、殺してしまう。そんなの、駄目、駄目だよ。嗚呼、こんなことになってしまう前に過去の私を殺すことができるなら、あのノートを開く前の私を殺すことができるなら、私はどんなに幸せだって......

私は自分を信じなきゃダメなんだ。疑うことも、鏡の中の私を信じることをやめて、今を生きないと。でも、できるだろうか?今まで、こんな予知夢なんて慰めに逃げた私が......違う、違うだろッ!私はやるんだ。やらなければならないんだッ!私はこの今を見なければならない、この瞳で見つめて生きなければならないんだ。そのために、私は私がやらなければならないことを思い出してッ!

『彼女が殺されたことを忘れない。』

『荒唐無稽な力の正体を探る。』

『あの男を捕まえなければならない。』

『手に触れた何かの正体を知らなければならない。』

『私はあの場所、あの建物に行かなければならない。』

そして『私はこの予知夢なんて爆弾を抱えて生きなければならない。』

私は彼女みたいになんてなりたくない。だから、私はこのすべてをやり遂げなければならない。私は生きなければならない。そしてこの堂々巡りの渦を超えて、あの男と言葉を交わして、あの力を手にして、そして彼女の死体を見つけて、彼女を忘れなければならない。そしてこの呪いを祓わなければならないんだッ!


私は立ち上がり、この朝日が照らすこの道を歩いていく。私の頬を風がなぞる。そしてそのまま、その風はあの公園に残された血だまりを波打たせて、そこに燻っていた時間に終止符を告げていった。


次回 第十話 潜入

読んでくださってありがとうございます。

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