第三十八章 神器
第八話 必要なものは何?そう問いかける私。その姿はまるで何が必要なのかがわかっていないように見える。しかし、実際は違う。だってこれが必要なものだから。この問いかけをすることが私にとって必要なものだった。私の声がこの場所に、この今に響き渡り、私は私を取り戻す。私は私の心を取り戻す。私を縛り付けていた鎖を感じて、私の今に漂う閉塞感を抱いて、そして私はそのすべてを解き放つ。その時の私は何も知らない。でも知らないままでいい。解釈もなく穢れもない、純粋無垢の元型は、私を殺してしまうから。
「アハハハハハハッ!」彼の高笑いがあたりに響く。「黙れッ!」私は彼を睨む。それは言葉でも声でもないただの勢い。私の殺意の宣誓だった。私は周囲を見回して、そして気づく。私の前にはあの金属バットが横たわっていて、私の懐の中にはスタンガンが入っていたということに......(いつから、私はこのスタンガンを、そしてこの金属バットを持っていたのだろう?そして、どうして私は今の今まで、こんな当たり前のことに疑問を持てなかったのだろう?だから、私は私じゃないみたいなんて思ってしまったのだろうか?)私は金属バットを構えてそんな考えに終止符を打った。
私は私の心を見つめれば、そこに一つの炎が現れる。それはとても小さな炎だった。私はその炎を見た時、その炎はどこか取り繕っているみたいな感じがした。私は辺りを見渡す。辺りには誰もいない。なのに、その炎はどうしてそんな態度で、そんな姿で、不格好に燃えているのだろう。そんな見っともなく、燃えているくらいなら消えてしまえばいいのにッ!
その瞬間、その炎は消えた。そのために、周囲が漆黒の闇に包まれる。その闇を見て、私はその闇が嫌いだったことを思い出す。でも、今、私はこの闇が、この漆黒が全く怖くないように思う。だって、この闇は、この漆黒は私が創り出した、私の闇だからッ!そして私はその闇を、闇だって認識できるような、その闇の輪郭を照らしてくれるような、そんな光を、そんな炎の存在を感じた、感じることができたッ!それは私の中にあった。”私の心の中の私、その私の心の中の私、その私の心の中の私”それは記憶の中で順繰りに繰り返されて、いつしか純粋無垢な元型へとつながっていくッ!そして、繋がってしまったなら、私の目標、私の記憶、そして今の私も、この瞬間、そのすべてどうでもいいと感じてしまうよ。まさに私のこころの底からッ!そんな深淵の底からッ!そんな本能の渇望からッ!もう、私には感情なんていらないね。もう、私には記憶なんていらないね。もう私には私なんていらないよ。金属バットに映し出されたその顔はのっぺらぼうだった。私は私の顔を思い出すことができなくなってしまった。そして私はどうしてここにいるのかわからなくなってしまった。でも、だからこそ、私はこの凶器’sをどう使えばいいのか、直感的にわかる、わかってしまうッ!そしてそんな私の前、瞳の先に、私に殺意を向けている誰かがッ!
「お前は......誰だッ!」彼は笑いながらそんな問いかけを零して、その時、私の中だけで自己完結していた深淵が繋がった。現れるイメージがお互いを自分勝手に傷つけていく。あんな静寂の闇が牙をむいていく。私のだらんと垂れ下がった右手が私の懐からスタンガンを取り出した。そしてそのスタンガンを私の首へ向ける。そしてそのまま、その引き金を引いた。しかし、全く痛くない。どうやら、私はもうこんなやり方を経験しているみたいだった。私の首のミミズ腫れがのたうち回って消えていく。そしてあの鬱陶しい気持ち悪さが消えた。
私は公園のベンチで意識を取り戻す。私はいつものように手鏡を取り出して、その手鏡の中にいる私に問いかけようとする。しかし、その手鏡の中には私はいなかった。そこには白装束の男がいた。次の瞬間、けたたましく鳴り響く笑い声。気づけば私はあの建物の中にいた。
私はあの音を聞いて、私は『私の終わり』の悟った。そして私の前にいるのは、喪服を着た男。彼はあの言葉を呟こうとする。「お前は......」今の私には、それで、それだけで十分だった。私の右手はスタンガンを懐から取り出して、そしてその引き金を引いた。その瞬間、私は終わって、そして始まった。
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俺は拳銃の引き金を引いた。しかし、その銃弾は彼女の右手を透過していった。そして彼女は何事もなかったかのように金属バットを右手に構えて、スタンガンを左手に携えてこちらに近づいてくる。その光景を見て、俺は、嗚呼、今まで何をやっていたんだろうなッ!「私は近いうちに死んでしまう。そして誰かを殺してしまう。」そうか、だから探偵である必要なんて無かったんだ.、殺されるのは俺だったからッ!
彼女は無邪気に微笑みを称えながら、その金属バットを軽々と振り回していた。「ようこそ~♪私のサンクチュアリ~へッ!」彼女は白装束を身に纏っていた。それが免罪符のつもりだっていうのか?お前は死んだ、死んで終わったはずなのにッ!
この場所は俺の知っている場所ではなかった。ここはまるで監獄?地面が一面砂で覆われていて、彼女の握りしめていた鉄バットは、炎を纏った剣に代わっていた。彼女の身に纏いし白装束は、純白のローブになっていて、それを見た俺は、彼女は彼女ではないことを悟る。「そして、そのすべてに終止符を打ってよ。」そんな彼女の声を思い出す。そして俺の手にはナイフが握りしめられていた。そのナイフを見て、俺は彼女を殺した、そして殺す犯人の姿を思い描く。それは俺だった。それとも、彼だったのかもしれない。繰り返す元型の発露、まさにそんな呪いのようなスパイラルに俺は取り込まれていて、俺はそんなことをずっと忘れ続けていたんだ。だから、この生き死に意味は無く、ただの役割でしかない......「さあ、思い知ったカナ?」嗚呼、わかった。もうたくさんだ。俺は逃れられないんだ。このスパイラルの中、この役割からッ!俺はどこまで行っても探偵でしかなかった。その瞬間、響き渡る、断末魔。その声を聞いた俺は気が狂いそうだッ!
この闇の中で、彼女は厚顔無恥な微笑みを称えている。まるで今の私は幸せだと見せつけるように......だけど、俺は、この闇の中にいる俺はそんな風に思うことなんて出来なかった。その炎も、その笑みも気持ちの悪い貼り付けられたように思えてしまってしょうがなかった。だから、俺は笑い出したくなった。そう、彼女の握りしめた不格好な剣も、そして彼女のそんな恍惚そうな笑みも、彼女の心にもない笑みとしか感じなかったから。そして、その瞬間、俺は思い出す。俺の見たかつての太陽の姿を。あれは誰のものでもなかった。なのに、お前はその唯一無二の光のつもりで生きている。なんて滑稽なのだろうなァッ!
彼女は偽物だ。いや、たぶん切り分けた亡霊か。そう、もし目の前にいるのが彼女なら、夜見ならば、こんな風に微笑んだりなんかしないから。「彼女はこの時のために、タイムマシンを渡してくれていたんだ......」彼女がかつて俺に告げた希望は、この滅びゆく世界でも生きようとする意志だった。彼女はそんな世界で生きる彼女自身を愚か者だって形容した。「お前は幸せになんてなれないよ。」
俺はこの空間をズタズタにうねらせていく。そして、この闇を引き裂いて、現れた青空。そしてその闇の切れ間から、この場に堕ちてくるのは、彼女が彼に渡していた自転車だった。
俺は俺が俺だって思う証を思い出していた。でもそれはこのスパイラルの中の役割でしかなかった。でも、だからこそ、それを俺が自覚することによってそのすべてが無に帰ったその瞬間、俺は元型の力を掴むことができた。そしてここに有る、『本当の』タイムマシンが元型の記憶を呼び起こす。もはや今、名前も残骸の並列も、聖遺物だって必要なかった。蘇る記憶。そして現れた、失われた神器......
俺はこの神器を握りしめた。その瞬間、俺の記憶が、俺のこころが消えていく。まるで初めっから存在していないとでもいうように過去が無くなっていく。俺の聖遺物も消えていく。天肴翔も死んで逝く。そして俺の海が赤くなっていく。俺の存在が無かったことにされていく。でも、だけど、この今は、この滅びゆく世界は、俺が今まで生きてきて、初めて生きているって思うことのできる今だ、希望だった。もう、この瞬間を感じることができた、まさにそんな奇蹟で、俺は満足してもいいかなッ!そう、俺は心の底から感じていた。生まれ変わっても、その度にやり直すだけ、再生されて、その度に絶望するだけだったから......いつしか、解放なんて希望の存在が絶望の象徴になっていたなんて、そしてそんなことにこの今際の際で気づくなんて、なんて馬鹿だったのだろうな。
彼女はその剣で殴り掛かる。しかし、そんな行為に意味なんて無かった。俺の存在はもはや無に近くなってしまっているから......彼女は俺に一定の距離を保ちながら攻撃を畳みかける。しかし、俺の存在はもはや、この場所に散らばってしまっていて......俺は彼女の背後に現れる、そして彼女の胸にこの楔を打ち込んだ......
次回 第九話 呪い
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