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タイム・スパイラル  作者: やあやあやあ
Angel

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第三十八章 あなたは?

第四話 彼は六波羅万華鏡


彼は私の前を疾走して

そして私はその男を逃がすまいと追いかけていく。

しかしその男はまるで風のように、私の前から消えていく。

私は彼が私から逃げるように走り始めたその時、

私がようやく見つけた手がかりだって、

まさにそんな意地で追いかけていたけれど、

この凄まじい人外のはやさを目の当たりにしてしまえば、

私はただ茫然とその男の去っていく姿を眺めていることしかできなかった。

そして、そんな力を見て私はあのノートにあった記述を思い出す。

『荒唐無稽な力......あれが......』

私はやらなければならない。

『あの男を捕まえなければならない。』


私はベットから起きる。

そして洗面所に行って鏡の中の私を見る。

そして私はその私に問いかけてみる。

「あなたは本当に私?」

そんな問いかけをした瞬間、

その鏡の先の彼女がほくそ笑んだような気がした。

そしてそんな感覚がしたからこそ

私は今が現実なんだってことを確信する。


もしこれが夢の中なら私が現実を生きているなんてことを疑いすら抱けずに

こんな行為も馬鹿馬鹿しいと思うだけ。

でも、現実ならこの今が夢なのか、私が夢の中で見ている夢なのか

なんて考える余地があった。

だから私はこの今が予知夢ではないと確かめるために

こんな私の存在を揺るがしてしまうような言葉を

まさに予知夢を見ている時の揺るがない

そんな現実の中で生きている私にしか考えられないような、

そんな問いかけを、この現実の私へ投げかけるなんて行為を

私が予知夢を見てからなんとなく続けていた。

そんなことをしなくても現実の私にはこの区別がついていたが、

予知夢の中の私はそんな区別もついていないで

疑うこともできないで現実の地続きの現実として、予知夢の中を過ごしていた。

だから、この毎朝のルーティンはそんな私と訣別するための

ある種の儀式のようなものだった。


私の予知夢通り、時間は進み、そして約束の刻が来る。

私は予知夢で見たあの男の現れる場所の近くで陣取っていた。


そこはその男がいた場所からは死角になっており、

距離は大体8メートル前後くらい離れた場所。

時は夕暮れ、ここは住宅街の一角、

家々から伸びていく影は、ここら一帯を闇に浸していく。

私の服装は、顔がわからないくらい深くかぶった帽子に

普段より目立たないような色の服を選んでいた。

この服なら、この陰に紛れてうまくあの男の場所に近づくことができるだろう。

そして私はこの場所から男が逃げる際の私が考えられる逃走経路に

罠を仕掛けていた。

それは罠と呼ぶには杜撰だった。そもそも敵の力は未知数、

なのに罠を仕掛けるなんて出来やしないと思いながら、

「私はあの男を捕まえなければならない。」、と思い直す。

私が考えた逃走経路は4つ、その全部に罠を仕掛けた。

そして私は今、約束の時間(予知夢で見た男が現れる時間)

が来るのを今か今かと待っていた。

私は緊張している。でもそれ以上に私の気分は高揚していた。

これは、ジェットコースターに乗って坂が頂上付近に行って、

そしてまさに今にも急降下しようとする時みたいな、

いや、そんなモノとはくらべものにならないほどの非日常感だった。

嗚呼、そうか、私は忘れてしまっていたんだ。

何が起こるかわからない。何が起きても構わない。

そんな現実の不確定さを......


時刻は約束の刻を過ぎて、あの男は夢で見た場所に

表れなかった。(どうして?)私がそう呟いたその時、

私の背後から声が聞こえてきた。

「見つけた。」


私は振り返る。そしてそこにいたのは白装束を身に纏った男。

その姿を見た瞬間、私の心臓はまるで握りつぶされたとでも

言うように音が止んで、何も聞こえなくなった。

私は逃げようとしたけれど、どうして私の足が動かないのだろう。

戸惑い、狼狽、恐怖、仇?、いろいろな考えが渦の様に私の中で反響していく。

しかし、そんな渦に終わりはないように、私の意思はその渦めく考えに

囚われてもうどこにも行けないまま......

彼は右手にナイフ、左手に銃を握りしめて、

その白いローブの端には赤黒い血の痕があった。

彼女の血?それともそれは私の運命のメタファー?


彼はゆっくり私に近づいていく。それは私が逃げないと、逃げることなんて出来ないと知っているように、それとも逃げることすらできない私を私にこれ見よがしに見せつけるために、わざとらしくゆっくりと含みを持たせるように、近づいてきていた。彼の持つ銃は、もうボロボロで傍から見ても、今までに何度も何度も使われてきているんだってことが明らかだった。なんておぞましい凶器だろう。今まで、どんなに命を弄んできたのだろうか......そして彼の右手に携えしナイフは、その銃とは対照的にまるで新品の様。でも、そんなコントラストを意識したことがかえって私をひどく気持ち悪くさせた。彼はそのナイフに視線を向けているのだろうか?彼の顔は白のローブに包まれて、そのローブの陰でよくわからない。しかし、彼の頭の向きから彼の視線は彼が携えしナイフへと吸い込まれているみたいに思えてしまう。そしてそのナイフの刃先は私の方を向いてッ!私は彼女を思い出す。彼女がトラックに轢かれたあの時、

彼女の身体は周囲にバラバラになって散らばった。まるで八つ裂きにされたときのように......私も彼女のように、殺される。彼女みたいにばらばらになってしまう。そこまで考えて、私はこの私のために白装束の男を探していたということに気づいてしまった。「アハハ......」私は殺されたくなかったんだ。彼女を殺したこの男に。ただ怖かっただけだったんだ。なのに、どうして彼女のためなんて言い訳をしていたんだろう。そう、私は彼女が死んだときにはもうッ!......

その時、私の手に何かが触れた。


彼は私の前で止まり、右手を頭上に振りかぶる。

私は何もしないでその手が振り下ろされるのを待っていた、

まさにその時、私とその男の間に誰かが割り込んだ。

それは夢で見た、喪服を着た男。

「何とか間に合ったようだな。」

彼は私の手を掴む。そしてその刹那、その男から離れるように

あの夢で見た風にでもなってしまったスピードで駆けていく。


気づけば、私はどこかのベンチに呆然とした状態で座っていた。

そんな私に手渡された麦茶。私はそれを受け取って

そこでようやく私は気が付いた。

「ここは......」私は辺りを見渡せば、

ここは”坂の上公園”、私の知っている公園だった。

そのベンチの上で私は彼から、喪服を着た男から麦茶を受け取っている。

「何が一体......」戸惑う私、そんな私を他所に彼は話し始める。

「それはこちらのセリフだ。よくも邪魔をしてくれたな。」

彼は目に見えて不機嫌に私を睨んでいる。

「邪魔?」「そうだ、俺の推理の邪魔だッ!」

「推理?なにを言って?一体、あなたは?」

私がそう問いかければ、彼は少し考えるようにして......

「俺は六波羅万華鏡。探偵だ。」


次回 第五話 探偵

読んでくださってありがとうございます。

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