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タイム・スパイラル  作者: やあやあやあ
Angel

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220/239

六波羅万華鏡 #2

~~~

すべてを知らない。

そう知っている時点で

すべてを知っていることにならないかな?

~~~


俺はソファの上で起き上がった。

俺の中で渦巻いていく焦燥感。

その焦燥感は俺を急かしていく。

どこまでも、俺が行きつくところへと

はやくはやく、急かしていく。

俺は何とかそんな俺を落ち着かせようとして

深呼吸したなら、その深呼吸は過呼吸へと変わり

俺はその場でのたうちまわりながら、咳き込み続けてしまう。


俺に心配そうに?違う、あの視線は(またか......)なんて、

思っている、そんな視線を向けている、俺のルームメイトがいた。

「大丈夫かい?なんてね。」彼は俺をこん咳き込んでいる姿を見ても

心配そうな顔をしない。

彼にとってはこの光景なんて日常茶飯事なのかもしれないが

俺にとっちゃ、この苦しみに慣れることなんてないというのに......

そんな不平不満を俺が感じているときにはもう、俺を急かしているあの感覚は

消え去ってしまっていた。そしてその焦燥感が消えるのと同時に

俺は何か大切なことを忘れている、そんな喪失感を感じてしまっていた。

「少しは心配してくれたっていいだろうよ?ニシハラ!」

俺が起き上がり、彼を真っすぐ捉えれば彼はそんな俺の視線から

その瞳を逸らす。後ろめたい?それとも、俺の顔を見たくもないのだろうか?

「もう私は飽きているんだよ。お前のその発作には......

お前の発作はいつも短いだろ?

ほら、もう俺がここに来てすぐに治まったみたいじゃないか。

それで、そうやって私の態度に文句を垂れる。

別にもういいだろう?

そもそも私の心配なんて、有っても無くても一緒だろッ!」


俺がルームシェアを始めてからしばらく経つが

こんなにも慣れやしないものなのだろうか。

俺と同居人との間における溝は深まるばかりで

俺はずっと疎外感を感じ続けていた。

俺はこんなところに住まなければならない理由が無かったなら、

こんなところはやく引っ越してしまいたいと思っていた。

そう、俺にはここに住まなければならない理由があった。

そしてこれは秘密だった。

その秘密は辱でもあり、俺が生きていく理由でもあり

俺が死ぬための理由でもあった。

「嗚呼、わかっていた。ただ夢を見ていたんだ。

俺は生きているなんて夢を。

そう、俺は生かされているに過ぎないんだろう。

この今を......」


今の時刻を確認すればもう夕暮れ時、

昨日は現場検証に夜遅くまで参加させていただいたために

今日はこんなにも長い間眠ってしまっていたみたいだ。

その時、俺のおなかが見っともないため息を吐いた。

その音を聞いて俺はおなかが空いているなんてことに気づかされてしまった。


俺は起き上がり、台所の俺の冷蔵庫の中を見て、

その中のくたびれた野菜たちを見て、

今日のご飯はカレーにすることにした。


冷蔵庫にあった玉ネギ、ジャガイモ、ニンジン

おととい買った賞味期限ぎりぎりの豚ロース肉

そして市販のルー、トマトジュースを用意して

野菜はどうせ溶けてしまうから、適当に切って

豚肉は煮込めばどうせ柔らかくなるから、

適当な大きさに切って、

肉に塩コショウを適当に振って、

鍋に油をしいて焼き始める。

全体的に焦げ目が薄っすらとついたなら、

そこに切ってあった玉ネギを入れて炒めだす。

俺はカレーを作るうえで、この玉ネギを炒める工程が一番好きだった。

玉ネギを焦げてしまうか、しまわないかの寸前を見極めて

焦げそうなら、そこに少量の水を入れる、この工程が。


もし、そのタイミングが完璧ならば、この少量の水を入れた瞬間、

”ジュッ”なんて音がする。俺はその音が好きだった。

その音を聞くためにカレーを作っていると言ってもいいほどに

好きだった。だから俺はそのタイミングを見極めることに

今日の集中力を使っていく。玉ネギに塩を振り、出てきた水分を

中火で飛ばす。そして玉ネギ全体から湯気が立ち昇り、

鍋の底面と玉ネギとの間で”シュッー”みたいな音がしたなら

計量カップに入れた水を、少量、サッと投入する。

そして、その水が鍋の底に届いたなら、約束の音が聞こえてくる。

”ジュッ!”


嗚呼、なんて気持ちがいいのだろう。この音はッ!

この音を聞いた瞬間、俺はなぜか報われたような気持ちになる。

俺が起きた時のあの焦燥、発作、

そしてあのルームメイトの態度、

そのすべてが理不尽に感じてしまう。

しかしそれは当たり前だった。みんな、そのルームメイトですら

そんな理不尽をこの現実で味わい続けている、そのはずだから。

これはそんな理不尽に対して、どうすることもできない俺に代わって

異議を唱得る代弁者のような、そんな当たり前の現実を殺してくれる

まさに俺にとっての特別な、そんな音だった。

俺は夢中でその音を十回鳴らしたなら、もう玉ネギはウーロン茶に

光を当てた時のような香ばしい色になっていた。

俺は残りの野菜を入れて、5分ほど炒めてから、水を投入し、

煮込む。大体、20分ほど煮込んでジャガイモがいい具合に

火が通ったのを確認したなら、

火を止めてカレールーとトマトジュースを投入して

かき混ぜて沸騰したなら、完成。


俺が皿にご飯を盛り付けていると、彼が話しかけてきた。

「この匂いはカレーか?」そんな呟きとともに彼はこちらに近づいてきた。

「そう、俺が短時間でこだわること無く、娯楽として、

そして賞味期限が今日までの肉を消費するためのカレー、まさに”適当カレー”だ。」

俺は愛想笑いをして見せる。気まずい空気を感じながら、その空気を誤魔化すように。

「そうだ、丁度カレー作りすぎてしまったから、ど/」

「いらないッ......!」彼は階段を登り、二階にある彼の私室に帰っていく。

バタンッ”!

そしてここには俺と、カレーの匂いと、そして彼が思いっ切り閉めた扉の音が

ずっと残り続けていた...

読んでくださってありがとうございます。

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