六波羅万華鏡 #1
私はどうしてここにいるのだろう?
私は記憶を思い返してみる。
確か、私は彼女に連れられて教室で
真っ黒いソファに半ば無理やり座られて
緑色のサングラスを無理やりつけられて
そして気づけばここにいた。
私はこの今を呑み込もうとして、周りを見渡した。
しかし、この場所は真っ暗だった。
私が自分の腕を顔の前にかざしても、
その腕が薄っすらとしか見えないほどに
真っ暗、濃密な闇に、漆黒に包み込まれてしまっていた。
そして私はその漆黒に対して戸惑いを覚えた。
私は今まで生きてきて、まだ10年弱しか経っていないけれど
それでも人並みの常識は持っていると自負している。
だから、この闇は普通ではないと、そんな常識の中で
生きてきた私の感覚が告げていた。
その感覚は速く逃げようと私を急かす。
しかし、何故か私の態度は平静を装い続けて
そしていつしか、そんな態度がそんな感覚すら呑み込んで黙らせてしまった。
そんな沈黙の中で私は音を聞く。誰かの足音が背後から聞こえてくる。
でも、怖くない。むしろ、この状況で平静を装い続けている
そんな私の方が怖かった。
私は背後から聞こえてくる足音を黙って聞き続けて、
そしてその足音に何かしらの規則性を見出してしまった。
その足音は、私の真後ろで一回、そこから遠ざかるように一回
それから、右後方で一回、左後方で一回、それから数拍おいて
また同じことを繰り返す。
そしてそんな規則性を見出した私、
どうして規則性なんて見出そうと思ってしまったんだろう。
そんなことを考える私を置いていくように、私の身体は
その規則性に従って自然に動いていった。
その場で地団駄を踏み、後方に下がり、
右後方、そしてそこから左真横に歩を進めて......
その時、私の足に何かが触れた。
それは暖かい何か液体のような物。
水?お湯?そこまで考えた時、私は気づいてしまう。
微かに感じる湯の花の匂い。顔に触れる湯気、
そして足元の濡れた石畳の感触。
「露天風呂?」
そんな小さな呟きが、この闇の中に吸い込まれて消えていく。
だからなんだって思いながら、私はどうすることもできないで
私の気持ちは途方に暮れていると、あの呟きを肯定するように
闇が晴れていった。そこに現れたのは露天風呂、
そしてそこに浮かぶ死屍累々だった。
私は露天風呂の中で服を着ていた。
その服は黒装束の服。まさに喪服。
(一体どうして、私はこんな服を着ているのだろう。)
そんなことを思ってしまうことを許さないとでも言いたいのだろうか。
私にまざまざと見せつけられるおぞましき光景。
私はこの光景を見て気持ちが無理やり押さえつけられるような
そんな感覚を抱いてしまった。
私は吐きたいのに吐けない。そんな苦しみの中で悶えていた。
そしてそんな苦しんでいる私を置いてけぼりにするように、
私はこの状況を冷静に観察し始めていく。
(どうして、そんな風に、この状況を観察することができるの?)
それが役割だからだよ。生きている理由だから。
(では、ここで死んでいる彼らは死ぬことが生きている理由だったの?)
そうだよ。彼らはここで死ぬために生み出されたんだから。
(そんなのッ!そんなのおかしいだろッ!
なら、お前はこのすべてを運命なんていうのか?)
それが幸せってもんじゃないかな?
彼らの今が必然なら、不幸も理不尽も存在しえないんだから。
(ふざけるなッ!そんなのただ諦めているだけじゃないかッ!
何が必然だ、何が幸せだッ!そんなの不幸も無ければ
幸せだって存在しえないじゃないかッ!)
そもそも、こんな世界で幸せになろうなんて思っているのが間違いなんだよ。
そもそも私たちみな同じこころの断片を持っている。
そう、呪われた断片を。
その断片が揃えば、あなただってわかるはずだよ。
この世界の真実が......
(なるほど、お前はすべてを知っているつもりなんだ。
嗚呼、そうかぃ......わかったよ。
お前なんてさぁもう常識外れも甚だしいんだよ。
でも、そんなお前だからこそッ!俺はお前をどうとでもできるんだッ!)
どうとでも?フフフ、何を言っているんだろうな?
お前はただそこで何もできないで、ただ呆然としていることしかできないだろ?
(嗚呼、お前は俺の役割をそう評価するんだ。確かにそうみたいだな。
ただ、そうだな。お前は一つ致命的なミスを犯してしまったようだ。
お前は俺の意思、その存在を認めてしまったんだ。)
何をするつもりだ?
(俺は確かにここでお前を見ていることしかできない。
でも、お前が認めてくれたこの確固たる意思でもって
お前の役割を否定することはできるッ!)
止めろッ!
(お前はお前自身の手で捨てたんだ。お前を守っていた常識を......
そしてお前はお前を人として縛り付けていたこの世界から、解放されたんだッ!
そう、お前はもう後戻りのできないところまで来てしまっているッ!
そうだっていうのにッ、お前は馬鹿だからァ!)
そんなの、お前の存在だって消えてしまうだけだッ!
無意味なんだよッ!そんなことッ!
(無意味?お前の口が何をほざくんだよッ!
お前の存在なんて無意味なんだっていうのにッ!
もう人で無いお前なんてさァ!
俺は自身の役割を捨てる。そしてこの意思と言う自由で生きるよ。
この自己犠牲の流れをッ!)
読んでくださってありがとうございます。




