殺人温泉 第10章 TRUE
流星群が堕ちていく、
そんな夜空を見上げながら私は願いを告げていた。
それは祈り、どこまでも自分勝手で、
そして自己犠牲な祈りだった。
そしてその祈りは叶う、他でもない私の死でもって。
ありがとう。そんな残響が私の中に木霊した。
私は確かめなければならない。この事件が
私が行った占いと関係があるのかを......
もし、この事件が私が占った何かなら
その所為がために彼が死んだなら、
次死んでしまうのは私なんだから。
そういう掟だったんだからさ。
『易を以て険を占うべからず。』
もう、私は割り切っていた。
これで死んでしまってもしょうがないと。
だって、彼が死んだのは、私の所為だって思えば
のうのうとこれから先を生きている私の姿なんて
全く想像なんて出来ないから。
むしろ、”そんな想像をしている私”なんて存在は
本当にどうしようもないと、そう思えてしょうがない。
そんなしょうがない私が生きていこうと考えているなら
この今の私がそんな私を殺しに行くから。
「この事件に終止符を打って見せろよ。名探偵。」
私は周囲を見渡した。
そこには凄惨な事件現場が広がっていた。
壁が、天井が、床が赤黒くなっていた。
どうしてだろう?どうして血がもう黒くなって
しまっているのだろう?さっきまで彼は生きていたのに
「それはもう死んでから長い年月が経ってしまっているような
そんな状態の死体だった。」
私はその死体を見て全身に冷汗を感じてしまっていた。
私?何かが変だ。なんで”私”なんて......
落ち着け。そんな言葉をつぶやいてしまう。
私を落ち着かせるように、呟いてしまう。
でも、私は私のままだった。
名探偵である吾輩が死んでいる。
私の瞳の先にあったのは二つの死体。
一つは彼の死体。
もう一つはアトロの死体。
私は彼の死体からその瞳を逸らし
アトロの死体を観察していく。
何でもいい、私は私を名探偵にしてくれる
情報が欲しかった。冷静に物事を俯瞰する視点になって
こんな現実から瞳を逸らし続ける、そんな状態になってしまいたかった。
なのに、その死体を見て、観察しても、得られた情報は
彼は銃で額を撃ち抜かれたことによる出血死であるということだけだった。
銃ッ!なんて恐ろしいのだろうか。この温泉宿に銃を持った殺人鬼が
潜んでいるのだろうか?
私は気持ち悪くなってきた。推理、それは犯人の思考と
この状況とを照らし合わせて導くことだと”私”は思っていた。
冷静になんてなれない。情報は時間が経てば経つほど、失われていく。
それは残酷で、でも救いだった。私は情報に触れるたびに犯人の気持ちが
わかってきてしまう。彼に対する憎しみも、アトロに銃口を突きつけた時、
その感触も、そしてその引き金を引いたときの達成感を。
その時、私の手の中に何か重いものが握られていることに気づいた。
それは一丁の拳銃。弾はなく、暖かい。
私の瞳の前にあったのは三人の死体。
彼の死体、アトロの死体、そして私の死体だった。
一体どうして私が死んでいるんだろうと思っていた私は
次の瞬間、その死体が動き出したのを見て絶句する。
「アリガトウ......」そんな声がこの部屋に響いては
消えていく。そんな声が耳に入っては、私の気持ちを
惑わしていく。怖い、おぞましい、気持ち悪い、見っともない
見てられない、見たくない、そんな顔なんて見たくないッ!
私はその動き出した死体を押さえつけ、その後頭部に銃口を突きつける。
そして引き金を何度も何度も引いて、引いて、引いてッ!
ついにその死体は動かなくなった。
その姿を見ながら私は安堵のため息を吐いた。
ようやく私は冷静に成ることができた。
そして私はそんな冷静な視点でこの場を見回して、
ようやく私は、この事件の真実に気づいた。
時刻は捜査を開始してから
もうすぐ二日だというところまで差し迫っていた。
でも、この拳銃はまだ暖かかった。
そして死体から散らばった血もまだ暖かかった。
私はどうやら、時間を無駄にしてしまっていたみたい。
それとも、私はワタシを誤魔化したかっただけかもしれない。
ワタシが瞳を逸らしたかった、まさに死を直視したくなかった、
それだけだったかもしれない。
いや、そうだと言ってくれッ!
この舞台の上に立って、
真実を高らかに宣告するのなら、そんな風に誤魔化すのではなく
そんな真実を覆い隠そうとする影のすべてを消し去っていくように
まさに光のようにすべてを照らしていくことだって......
そうだろッ!
「こんにちは。」食堂に集められた人々、
食堂内に並べられた死体、そしてその中央で立っている私。
「皆さんを集めたのは他でもありません。
今、私が誓うのは、この世界に蔓延る真実を、
まさに今ここで白日の下に晒し、解放するそんな舞台
その役者になってもらうためッ!」
周囲は戸惑う。彼らは殺人事件があったことを知らない。
彼らは見せつけられていた。その凄惨な死体の姿をッ!
そしてその死体の前で、狂ったように言葉を、
聴衆には声でしかならない、そんな言葉を発している
そんな男を......
彼らはこの食堂から逃げ出そうとする。
しかし、彼らの足は動かない。
まさに彼らの足はこの場に磔にされてしまっていた。
聴衆1「一体何が起こっているの?あれは何ッ!」
聴衆2「僕は何を見ているんだろう。これはたぶん夢。」
聴衆3「新手のテロリズムか何か?
イカレ野郎の世迷い事に俺を巻き込んでくれるなやッ!」
聴衆4「嗚呼、このまま私は死んでしまうんだ。
でも、これで死ねば私の存在は傷として、遺るでしょう?
この世界にッ!」
終に始まった”神の独壇場”、世界は終焉を迎える。
===
「タイムリミットだな。」
食堂の外で見張りをしていた俺は、時計を見ながら呟いた。
「連絡はっと。」もし、俺の同胞から連絡があれば
突入はしない手筈となっているため、俺は確認する。
しかし、連絡は無かった。
俺は武装を整えていく。
銃を握りしめる。これは相棒、俺の一部だった。
俺は遺書を見る。いざとなれば、これを能力の
トリガーにしてしまえる。
その時、俺の持っていた連絡用の端末から響き渡った
けたたましいサイレン......それは最重要事項であることを告げていた。
そこに表示された遺書、俺はそれを見て戸惑った。
「智海が死んだ?」
俺がその事実を認識したその瞬間、発動する彼の証能力。
「タイム・プロデュース」
流れ込んでくる情報、それは脈絡のない断片。
そしてその断片的な情報の中で、俺が見たのは
人々が消滅していく光景だった......
読んでくださってありがとうございます。




