第三十三章 黄昏の刻 #3
これが僕の正体
読まれることのない言葉の始まりと終わり
Knifes
僕はなんで気づくことができなかったんだろう。
「それはあなたが貴方自身を演じていたからだッ!」
彼女がそう言って笑う。嗚呼、私はようやく”彼女”を感じることができた。
空間がうねる。
世界が取り繕うようにうねっている。
でも、私の手にはそんなうねりを断ち切るためのナイフが握りしめられていた。
「さあ、断ち切ろうか。繰り返される生と死、
繰り返されるFAKEとTRUEを......
嗚呼、この世界はまさに雪辱を果たすための世界だった。
でも、もう貴方にはいらないよね。こんなどうしようもない世界なんて
ねえ、ゼ[ks]?嗚呼、もうそんな風に取り繕う必要もないね。
ねえ、0?契約の刻は来たよ。この世界に引導を渡す時が来たよ。
この世界に蔓延した平静を、平和だって感じえない”人で無し”に
その報いを返す時が来たんだよ。」
僕が消えていく。まるで初めから存在なんてしていないようにッ!
ドゥ[ks]の存在が消えていく。嗚呼、彼女は僕の奴隷だった。
[kアトロウs]が死んで逝く。彼はもはや別人になっていた。
「白銀の光が現れる。私を殺すためのそんな光がッ!」
世界の防衛機制が平静を為そうとしていく。
それはまさに今を取り繕うことに他ならなかった。
『スパイラル・タイム』、まさに失われた時から現れた極光
それはこの世界は記憶の海へと沈めていった。
その瞬間、彼らが持っているナイフが消えていく。
今を切り取り、貶めるためのナイフが無へと堕ちていく。
でも、しょうがないね。
かつての特異点が、今じゃあ
誰しもにあるありふれた常識になっていたんだから。
俺はもうだめだ。「」はそう嘆いてしまう。私はそんな彼に問いかける。
「お前こそ、逃げているだけだった。言い訳をして、すべてが”僕”の所為だって
他責して、その自業自得なんじゃないの?その証拠にあなたは自由だった。
でも、こんな末路、計画の破綻、そしてこの世界の終わりに導かれた。」
「しょうがないじゃないかッ!俺はお前を許せないからッ!でも、お前はずっと
ゼクスだったッ!何かがおかしいと思っていたんだッ!
何度も何度も、殺したって、何度も何度も、お前に死を突きつけたって
意味がなくてッ!それでようやく、気づいたときにはもう終わっているなんてッ!
そう、俺はようやく悟ってしまったよ。これが運命だってことに、
どうしようもない終わりなんだってことにッ!
俺の世界は消えていくんだろうッ!夢になってしまうんだろうッ!
まさにそんなすべてが無へと還る今、俺の行為に意味が宿るはずがないだろッ!」
「運命?運命だってッ!フフフッ!違うだろ?
お前は今絶望しているだけだ。お前のナイフが消えて、
殺意を抱くことのできなくなったお前自身にッ!
だからお前は諦めただけなんだよ。」
「黙れッ!お前はッ!お前こそ、俺達の計画が失敗した諸悪の根源だったッ!
おまえさえいなければ、こんなことにならなかった。」
「無に触れて、それで力を手に入れたお前たちがどうして、そんな風に誰かを責める?
責めることができるッ!嗚呼、できないだろうよ。お前はこの景色を見て、
ただ屈辱を味わうことしかできないんだッ!
絶望と希望は反対の様で、同じものだよ。誰かの希望が誰かの絶望に
誰かの犠牲が誰かの生に、誰かの運命が誰かの自由の下だってね。
そう、まさにこの今だって私にとっては希望なんだよ。
私にとっては天国なんだよ。
私たちは開放と閉塞の中で、そんな繰り返される世界で生きていくしかなかった。
その繰り返される渦の中で私はずっと生きてきたんだ。
でも、私が僕を演じてみれば、なんてくだらないことだったんだろうなァ!
こんな世界に価値なんてはじめっから無かったんだってことに、
もう気づいてしまったんだよッ!」
彼は死ぬことも生きることもできない。
そう彼は何もできなかった。そう、彼は何をするにも諦めてしまっていたから。
「アハハッ!結局お前はお前のままだった。名前が変わったって、
不完全な彼の力を手に入れたって、それがどうして私に適うなんてッ!
嗚呼、運命。それは自らを殺してしまう言葉なんだってねッ!」
聖遺物が一つと成りて蘇る。それは一つのナイフだった。
これはかつて人を殺すために用いられた原初のナイフ
再現されていく感情、蘇る記憶、
そしてそれは私の手の中に握りしめられていく。
ナイフがこの世界に存在しえない極光に包まれていく。
全ての色彩が完全に調和して、
そのバランスが世界中のアンバランスを指し示していく。
「黎明の刻。それは開放の儀、そして解放へと至る道。
嗚呼、私はこの時を待っていたんだ。
希望は解放。その世界で絶望なんて存在しないでッ!
運命、そんなのはただ逃げるための言葉。
今、そんな逃避を死のメタファーに変えてッ!
そして記憶、それだけが生を肯定する、そんな記録を無へと還してッ!
この今は無へと還り、それは他でもない始まりへと成り果てる。
そして私は出会えたよ。
他でもない裏切者の神にッ!」
俺は辺りを見渡した。
そして見渡した俺の視界には絶え間なく動く世界、
一概に捉えることのできない不定形な世界がそこにあった。
鬱蒼とした森の様で、何もない砂漠の中心みたいで
朽ちたコンクリートの町並みの様で、
海に沈んだ海底都市の中にいるみたいで、
乾いた音が響いて
落ち着き払った静寂が聞こえて、それでいて何も聞こえないことが
正しいと誰かに言われているような
崖の上、ビルの屋上の縁の上
そしてそこから何もない平和な世界を見下ろしてしまっているような
その平和な世界に今すぐ飛び込んでしまいたいと思っているような
生きているとは言えない状態で生きている、
そんな状態で生き続けていることを強制されているみたいな、
そんな状態で何かをしても、すぐこの崖の下に降りてしまうような、
なんども繰り返されていく現実逃避の中で、
それは現実逃避のような、現実逃避だって意識してしまっている
この行為に現実逃避としての役割なんて無いみたいな、
そう、この今はまるで自分の首をこの今でもって、
自分自身の腕で絞めていくようだって感じてしまって、
そうか、確かなのはこの世界で確かだったのは、
俺だ、俺だけだったんだ。だから、俺はどうやら俺が許せないらしい。
巡る、何度も何度も回転する。渦の様にその回転の行き着く先は
始まりだっていうのに。終わることなんてないのにッ!
どうしてまわり続けているのだろう。
戸惑う俺を気持ちを置いてけぼりにして
俺はいつの間にか扉の前に立っていた。
俺はその扉を前にして戸惑ってしまう。
この世界で俺以外に確かだって感じることのできる存在がいきなり現れたから。
「宇野?久しぶりだな?」「どうして、お前がッ!」
空間がうねり、渦を成す。俺はこの光景を見て戸惑ってしまう。
お前は、お前はあの時死んだはずだろう、そう思って、次の瞬間、
俺は気づかされてしまう。俺の死体、その存在に。
どうして、俺は今、ここに生きているんだろう。
空間がうねり、周囲が紫色に染まっていく。
その色は夕闇に置いて行かれた夕日がいまだその色を残留させている
そんな色だった。俺はその色を見て、今が黄昏時なんだって思ってしまう。
その黄昏を見て、俺の心に到来する諦めの極致。
どうしようもない、何もできない。そう思ってしまう。
そう思うことを強制させられてしまう。
その瞬間、俺は手放してしまう。俺のナイフを。
地面に堕ちたその刹那、そのナイフは粉々に砕け散った。
もう、使うことなんて許さないと告げるように。
俺は銃を自身に突き付ける。「格パターン1」そんな機械音声が響く。
「俺はもうだめだ。」俺がその銃に引き金を引いて......しかし銃声はしなかった。
「もうあなたはその死に方はできないよ。」
そんな彼の声を聞きながら、俺は俺の身体を通り抜けていく銃弾を眺めていた。
その銃弾は俺の身体なんてここに無いとでもいうように、
俺を透過していった。
「宇野?あなたは何度も死んでいるんだよ。
でもあなたは諦めなかった。今までだって決して諦めなかったんだ。」
俺がゼクスだって思っていた彼は、俺の瞳の前に聖遺物を並べていく。
聖遺物、それは”神の記憶”その一部を象徴している証だった。
無垢の象徴、それは始まりを意味していた。
完全な真球、それは瞳を意味していた。
破壊の聖杯、それは終わりを意味していた。
その並べられた聖遺物はもうすでに破壊されていた。
「どうしてッ!もう発動してッ?」
この状況のすべてを理解してしまった。
発動してしまっているんだ。神々の記憶の持つ証が
その記憶が象徴している世界を語りだしてしまっているんだッ!
でも、その光景を目の当たりにした俺は何かがおかしいと気づく。
ゼクスの聖遺物がすでに壊れている?
俺はサングラスを取った彼の顔を見て、
彼はゼクスではないことに気づかされてしまう。
俺がみたその顔にはゼクスの死に顔がそのまま張り付いていた。
湧き上がる恐怖、一体俺は誰を目の当たりにしているんだッ!
彼は三つの聖遺物を置いた後、こちらへとゆっくり近づいてきている。
(お前は誰だッ!)そんなことを叫んでしまいたくて、でも恐怖のために、言葉は湧き上がっても声にはならないで、俺はただその男を見ていることしかできなかった。彼はゆっくりと、近づいてくる。彼の表情はゼクスの死に顔がくっついていているために読み取ることができなかった。
しかし、そんな感情を読み取れないことが、かえってこのどうしようもない現実を自分事のように捉えることの契機となった。一体、どうして、俺は諦めていたんだろう。そうだ、俺は諦めない。俺は諦めるわけにはいかないんだ。
俺は宇野、宇野壱。一番目の使者なのだからッ!
俺の周りの空間に蔓延していた紫が俺の世界を見出していく。
俺はこの世界を見て、感じていた。これは不完全な儀式、どうしようもない終わりだった。
本当の俺が考えていた儀式は、聖遺物を用いた神の記憶の再現、そしてセプターを堕とし、最後の結末だけを書き換える、まさにそんな計画だった。
俺の聖遺物なら、他の天使なんて雑魚でしかないと、俺にはそんな自信があったから。そう、俺は最強だったんだ。聖戦なんて茶番だって思っていたくらいに、だから彼女の提案がまかり通ってしまったとき、俺は戸惑い歓喜していたものだよ。俺の天国が始まった、なんてッ!そして俺は初めに、ゼクスを....../__
嗚呼、初めっからおかしかったじゃないかッ!俺が彼を一度、彼を殺した時、彼は彼の聖遺物を持っていなかった。その時、おかしいと思うべきだったんだ。そして彼は何かを持っていた。それはカードだった。そのカードを見て、途端湧き上がる既視感。そして俺は底に描かれていたダイイングメッセージを見てッ!そのときかッ!その時からだったんだなッ!俺は、瞳にうつるその男を睨む。
その男の手には一枚のカードが握りしめられていた。
俺は発動する。かつて、死んでくれた誰かが創り出してくれた能力発動の下地、
俺だけの世界をッ!そして、その世界に聖遺物に宿りし神の記憶を投影して、
発動される俺の神、その力「トライ・スパイラル」ッ!
この能力下において、俺は俺以外の存在を認めない。
もしこの黄金に触れたなら、その対象は生きることを諦めて勝手に死んで逝く。
無意識に、まさに自分勝手にッ!
この力を前にお前はどこまで、
自分勝手に自分自身を尊重し、自己肯定することができるんだろうなァ!
空間がうねり渦をなす。俺を中心に秩序が生まれて、この空間を御していく。
俺を中心に表れる黄金色の光、そして俺の右手に現れる剣と俺の左手に現れる秤。
さあ、来いよ。この俺に近づいてきてみろよッ!そして、勝手に死んでしまえッ!
何もできないでッ!勝手にさぁ!
その男は近づいてくる、その手にカードを握りしめて、
そしてゼクスの声で話し続けていた。
「少しは”人”の話を聞いたらいいのに。
そんな行為、無駄なだけだよ?」
空間がうねり、俺の周りの秩序が消えていく。
やはり記憶の強度は、参照できる量の多い相手が優勢だった。
俺はため息を吐く。ハハ、どんなに記憶が寄せ集めたって、この記憶には
敵うはずがないんだというのにッ!質が違うんだよッ!
俺は俺の周囲に蔓延した黄金を円状に変えて俺と彼とを囲みこみ
大雑把に放出していたその他の光を、剣と秤に集中させていった。
そして俺は剣を頭上に掲げ左手の秤を手放す。
その秤は俺の周囲をくるくると回り、
俺の掲げた剣に垂直に融合する。
金属が擦れる音が響き渡り、
そして現れる、断罪の剣。
俺はその剣を見るといつも笑ってしまう。
どうしようもない、そんな終焉の予感をこの剣はいつだって称えていたんだ。
俺がその剣を大きく振り下ろせば、突如として風が巻き起こった。
それは追い風、「どうやらこの世界は俺に勝てと言っているッ!」
空気が揺れる。それはまるで今から始まる戦い、その叙情詩のように、
この俺を奮い立たせていた。「負ける気なんてしないッ!」
俺は前を見て、そこで呆れている奴の喉元へこの剣の刃先を重ねてほくそ笑んだ。
「殺すッ!そしてお前の死でもって俺は俺の存在を証明しようッ!
お前が俺の死を告げるというのならなァ!」
次回
聖戦~0~
読んでくださってありがとうございます。




