第三十三章 黄昏の刻 #2
僕が扉を開けた先で見せつけられたのは、他人の心の吐露だった。
恥ずかしげもなく、自分勝手でッ!
それでいて、その表情はまるで痛みを堪えたような、
憎しみとやるせなさを閉じ込めているような表情でッ!
僕はあなたなんか知らないよ。
僕はただ、自分の定めを果たしに来た、
それだけなんだからさッ!
僕は名探偵”ゼクス”。僕は彼に証拠を突きつけたッ!
その証拠は一つの小説。その中で彼は最期に被害者と出会っていた。
「ここに描かれているのは、間違いなく貴方ですねッ!」
そう、彼に告げる僕の表情は僕でもわかるくらい恍惚としていたと思う。
そう、僕はこの瞬間が好きだった。
正義のために誰か内に秘めていることを暴く、まさにこの瞬間がッ!
「どうして、黙っているんだァ?」僕は僕の言葉なんかに、
僕は自分の話術なんかに自信なんて無かった。
そうこの言葉は同じ内容を繰り返すだけ、
ただ勢い任せの”声”に過ぎなかった。でも、そんな勢いに意味があるって
そう思い続けることがどんなに気持ちいだなんてッ!
カラオケだって、得点のために声を張り上げる。
その歌にどんな祈りが込められているなんて知らないでッ!
どんな祈りだって、言葉だって、この気持ち良さの前には
ただのわずらわしさに成り下がる。
所詮、この声は僕にとっての道具だったんだよ。
無責任が蔓延し、それがいつしかナイフへと成り果てる。
この時の僕は知らなかったんだ。そんな当たり前のことに。
「最近僕は変な夢を見てしまうんだよ。」そう、僕は私に問いかける。
「その夢の中で僕は誰かと一緒にいた、そして何かを探していた。」
「それってこれのこと?」そう、私は一枚のカードを突きつけた。
その瞬間、僕は消えた。
これは夢なのだろうか。「何をしているんだろうな。」
そんな声が背後から聞こえてきて、僕は振り向いた。
そこにあったのは漆黒の渦だった。その漆黒の渦は光を反射して、
その表面に僕の顔をうつしていた。でも、どうしてなのだろう?
そこへうつされていた顔は、僕の顔なんかじゃなかった。
そこにうつっていたのは悪魔だった。
僕を殺そうとする、悪魔の顔だった。
その純白のローブは返り血で赤黒く染め上げられて、
その手に握りしめていたナイフは何度も人を殺していた。
夢の世界、それは僕の記憶をもとにした世界。
だから、僕はその悪魔の顔を見た瞬間、戸惑ってしまう。
これは夢でしょう?
こんなおかしい展開、
こんな存在しえない空想、
なのに僕はこんな光景が新鮮だって思えるのッ!
そう、僕の頭の中で思考が渦めいていった。
そんな渦を前にして立ち尽くしている僕を嘲笑うがごとく、
僕に近づいていく。
「やめろッ!近づいてくるなァ!」
「フフフ。慌てて取り繕う暇もないみたいだな。」
「お前は誰だッ!」
「おいおい、そんな寂しいこと言ってくれるなよ。ゼクス?」
その声を聞いて、私の記憶は蘇る。
「どうして、お前が生きているッ!生きてしまっているんだッ!
セプターァ!」
「セプターか......懐かしいな。その名前......。
ただ、もう、俺は俺じゃない。
私は土井、土井中条......お前を殺す意思の名だァ!」
私は目覚めれば、そこは夢の中だった。
どうして、私はこの世界が夢だって一目で見破ることができたのか。
それは、この世界を見たその時、私はまるですべてを知っているような
感覚に陥ってしまったから。思考ができない、まるで操り人形のように
意思に衝動に衝き動かされていくように、私はこの世界を客観的に
眺めてしまっていた。
私はその世界の中で、この世界を分けていく。
絶望、そして希望に......
そしていつしか私は閉じ込められていたんだ。その夢の中の町に。
暗黒の刻、それが終わりを迎えた。
そしてそれが新世界、その始まりの合図となった。
僕の叫びがここに響き渡る。そしてそんな僕の前に現れる漆黒の渦、
そこに映し出されていた僕の死体を見て、
私は蘇る。僕は私の前で、引き裂かれていった。
僕を中心に、僕たちが感じていた世界だって引き裂かれていった。
絶望か希望か、生か死か、ありふれたことか、奇蹟か。
なんて、そんなことを繰り返す中で私は気づかされてしまった。
神の死体がどこにあったのか......
「嗚呼、あの夢と同じ......だなんて......
もうわかっていた、わかっていたんだな......
これはすべて現実だってこと、そんなことなんてッ!......」
私はもう戸惑うことができない。もう僕は死んでしまったから。
世界が私を中心に純然たる白色に染まっていく。
「暗黒の刻。それは他でもないあなたのためのものだった。」
「罪からの”開放”。それが世界創造だった。」
「感情が原罪だった。そして器は奇蹟の残骸だった。」
「みんな死んでいたんだ。みんな人で無しだったんだッ!」
「神は死んだッ!そんなことにようやく気付いてしまったのかいッ!」
「あなたは死んだッ!そんなことにようやく気付くことができたのかいッ!」
「あなたは瞳覚めたんだッ!誰しもがその身に宿している
『神の記憶』、その証を道具としてその手に携え、この世界に救済をもたらす
ダイイングメッセージ、
まさに死者、特異点にッ!」
彼は懐から一冊の本を取り出した。その本のタイトルは
『スパイラル・タイム』
読んでくださってありがとうございます。




